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Gothic Clover #05

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 夜中の学校。
 ボクは校門の前に立つ。しかし、そこから入るわけにはいかない。もちろん、校門の前には警備員がいるからだ。
 ボクは校門から離れて裏に回る。途中でボクは唐突に、学校の敷地を囲む金網に足をかけた。
 学校なんて入ろうと思えばどこからでも入れる。
 何時以降から生徒は校門を通っていないとか、そんな記録はアテにはならない。
 ボクは金網の上から学校の敷地に飛び下りる。
 目の前には青いビニールと黄色いテープで覆われている教室があった。見七美那の殺害現場だ。
 見七を殺した後、窓から外に出て金網を登って学校から抜け出し、何食わぬ顔で帰る。
 単純な手口だ。
 必要なのは、人を殺しても平然としていられる残虐心。
 ボクは指紋がつかないように手袋をして、目の前の教室の窓を一つ一つ調べる。現場保持のため、犯行当時開いていた窓はそのまま開きっぱなしのはずだ………あった。
 ボクは窓から教室に入る。まだ残っている死臭。うん、よし。
 教室から出て階段を上る。上ってすぐ近くにあるのが男子トイレ。珠世灘澄の殺害現場だ。手口はこれも簡単。トイレの個室で灘澄の喉を斬って、それから個室のドアを開けずに上から出るだけ。個室は閉まったままなので、見つかるのにも時間がかかる。
 ボクは階段を上って最上階に着く。目の前にはドアがある。その先には、もちろん屋上だ。
 夕暮血染を殺したのも、おそらく奴だろう。なんせ、頭を素手で砕ける奴なんて限られている。そんな奴を知っているのは、あの殺人組織か殺人集団を知っている奴だ。もし知らなかったら「頭を素手で砕く」なんて普通は考えないだろうし、警察が「凶器を使っている」と言っているのにも関わらず「頭を一撃て殴って跡形も無く粉砕だぜ?」なんていうセリフすら出てこないはずだ。
 ボクはドアを開ける。
 鍵はかかっていない。

 そして屋上にいたのは、
 もちろん、

 桐馘掻太だった。

「ヤァ、掻太会いたかったよ」
「…………」
「キミなんだロ? みんなを殺したノハ」
「…………」
「もう、わかっているヨ。残念だけド、わかっているんだヨ」
「……くくっ」

 掻太は、顔を上げる。

「そうだ、俺が殺した」

 そして真実を肯定した。

「一つ聞ク」

 ボクはナイフを構えながら言う。

「罪久を殺したのも君カ?」
「罪久……ああ、あいつね」

 掻太は笑いながら答える。

「いやぁ、あいつよく似てるよな。俺もうびっくりしちまったよ。本当、うれしかったぜ。また出会えてさ」
「でも、殺シタ」
「いや、違うね」

 掻太は笑う。

「だから、殺した」
「……」
「くくっ」
「……やっぱりお前なのカ、罰浩を殺したノモ」
「ああ、そうさ」
「何故殺シタ!!」

 ボクは叫んだ。気付けば自分でも驚くくらい自分は怒っている。そうか、俺は怒っているのか。みんなを殺した掻太を。ボクの世界を壊した掻太を。

「何故ってそりゃあ……」

 掻太は困ったように頭をかく。
 まるで、足し算が出来ない小学生を見るかのようにボクを見る。

「友達を、殺してみたかったのさ」
「…………」

 ボクは黙る。

「……てっきりキレて暴れると思ってたんだけど」
「見七と灘澄と夕暮を殺したノモ同じ理由カ?」
「う〜ん、いや、なんつーか……なりゆきかなぁ?」
「ナリユキ?」
「あの罪久とかいうガキを殺して廃工場出たんだけどさぁ、そこにどうやら生徒手帳落としちゃったみたいでさ。俺もあの時興奮してたからなー。んで『やっべぇ』と思って次の日現場に引き返したらもうサツでいっぱいでさ。でも生徒手帳は見つかってないみたいで、『なんでだろー』と思ったら見七からメールが来て……」
「あのメールダロ? 『生徒手帳は私が預かってる』ってヤツ」
「ああ、だがら『こりゃあいつもう気付いてるなー』って思って……」
「思っテ?」
「殺しちゃいました」
「……」
「後はもう連鎖反応。見七の奴、灘澄に生徒手帳渡してたみたいでさ、灘澄の奴なんか血色変えてやってきてさ」
「デ、殺シタ?」
「ああ、殺した」

 掻太はポケットからナイフを取り出した。

「これ、捩斬のナイフだろ?」
「…………」
「これで灘澄の喉、掻き斬ってやった」
「……夕暮ハなぜ殺シタ?」
「ん。あいつもなんか一枚噛んでるみたいだし、殺しとこうと思ってさ。いや、むしろ、前から殺したかったのかな? 夕暮も……見七も灘澄もさ」
「それで、ボク達も殺すのか?」
「ああ、やっと自由になれたしな」
「…………」

 兵器。
 自我保有凶器。
 武器として育てられた超人。

「わかるだろ? この言葉の意味が。捩斬がこっち側の人間と関わりがあるのはもう知ってんだよ」
「だから、殺すノカ?」
「ああ、殺す」
「……人飼はどこダ?」
「あいつならあそこだよ」

 掻太は後ろを示す。
 掻太の後ろには、イスに縛られた人飼がいた。目は相変わらず虚ろなままだ。多分、あまり抵抗もしなかっただろう。

「…………」
「あいつはてめぇを誘い出すエサさ。人飼を殺すのは、捩斬を殺してからにしてやるよ」

 掻太はボクのナイフを構えた。

「こうやっテみんなを殺した後、お前はどうする気ダ?」
「ん?」
「これかラどうするんダ、と聞いているんダヨ」
「……さぁな」

 掻太は笑う。
 さながら、狂人のように。

「それは捩斬を殺してから考えるさ。捩斬こそ、どうするんだ?」
「ア?」
「諦めて俺に殺されるのか、無様に足掻いて俺に殺されるのか、どっちにする?」
「ンー、それハ……」

 ボクは考えた末にこう答えた。

「キミを殺してから考えるヨ」
「いい回答だトラブルメーカー」

 そう言って、掻太はボクに飛び掛かった。
 空中に飛び上がってナイフを振るい……そのまま投げる。ボクは一歩引いてそれをよけた。
 が、次の瞬間。
 掻太は既にボクの後ろにいた。
 莫迦な。
 だってさっきまでは空中にいたはずだ。
 そう考えている間に、掻太の拳が向かって来る。
 狙いは……頭!
 ボクは自分の顔の前にナイフをもってくる。あと少しで拳がナイフに刺さる、その一刹那前に、拳の軌道が変わる。
 なに?!
 腹で、爆弾が炸裂した。
 ボクは空を舞い、屋上のフェンスにぶつかってやっと止まった。
 腹が熱い。
 痛い。

「カハッ」

 嘔吐感が沸き上がるがなんとか堪える。
 くそっ、違う。
 スペックが違う。
 あの文化祭で出会った爆弾魔も恐れるワケだ。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおい」

 掻太がボクに歩み寄る。

「あんまりがっかりさせるなよな。今までこっち側の人間と戦ってきたんだろ?」

 ボクは立ち上がってナイフを構える。

「……くはっ♪」

 掻太は拳を後ろに構える。
 今度はボクの方から掻太に飛び掛かった。ナイフを掻太の頭めがけて振るう。掻太は案の定、首を曲げるだけでナイフをよける。しかし、ボクはその位置からそのまま掻太に蹴りをいれた。ボクの蹴りは掻太のみぞおちに当たる。いや、掻太は当たる直前にボクの足に手を添えていた。
 そう気付いた途端、世界が回る。
 クソッ、捩られた。
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる