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Gothic Clover #05

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 次の日

「……入って」

 インターホンを3回ぐらい鳴らして、やっと夕暮はドアを開けた。

「飲み物なんかいる?」
「何かあるノカ?」
「コーラがある」
「じゃあそれデ」

 テーブルの上のコップにコーラが注がれる。ボク達はイスに座ってコーラを一口二口飲んでから、会話を始めた。

「親は何時帰ってくルんダ?」
「1時」
「じゃああと2時間ぐらいカ」
「そうね……」
「……」
「……」

 ───よし。
 ボクは覚悟を決めた。

「ジャア、質問を開始していいカナ?」
「……うん」

 このために来たんだ。実行しなければ意味がない。

「これから言う質問には正直に答えて欲しイ。今までの間、もし嘘をついていたトしても目をつぶろウ。頼ム、本当のコトを話してクレ」
「……わかった」

 ボクはまたコーラを一口飲んでから、イスに座り直した。体制を整える。

「見七が殺される前、見七と接触しタ?」

 ボクは前回と同じ人に前回と同じ質問をする。

「……うん」

 夕暮は、今度は頷いた。

「何をしたんダ?」
「手紙を渡された」
「手紙?」
「うん」と夕暮は頷く。
「『もし私に何かあったら灘澄に渡してくれ』って言われて、さ」
「…………」
「ごめん。でも、誰にも言わないでって言われてたし……」
「別に怒ってないヨ。今更つべこべ言っても進まないしネ」

 しかし、その手紙とやらは気になる。
『私に何かあったら灘澄に渡してくれ』
 つまり『自分に何かある』ということを予想していた?

「……デ、その見七の手紙は?」
「一昨日……じゃなくて三日前の夕方ぐらいに、灘澄が取りに来た」

 三日前。ボクが灘澄と一緒に、見七が殺された現場に行った日だ。時間的には、現場に行った後だろう。

「中身ハ?」
「見なかった」

 ……いい奴だな。

「サイズはどんな感ジ?」
「普通の便箋くらいの大きさだった」
「……ムゥ」

 ボクは考え込む。
 見七も見七だが、なんで灘澄もボクに情報をくれなかったんだ?
 約束が違う。
 全く……

「あの、ごめんな。話してなくて」
「ン? いヤ、いいヨ。口止めされてたんダロ」
「まぁ、そうだけどさ」

 夕暮はうつむく。

「……他にあの二人について、情報は無いカナ?」
「…………多分ない」
「そうカ」

 ボクはまたコーラを一口飲んだ。

「……なぁ捩斬」
「ウン?」

 そこでいきなり。
 いきなり夕暮は顔を挙げた。

「なんで人間って、人間を殺すんだ?」
「……」
「殺すって嫌じゃないか。痛いじゃないか。辛いじゃないか。苦しいじゃないか。悲しいじゃないか。哀しいじゃないか。怖いじゃないか。恐いじゃないか。マイナスの要素でしかないよ!」
「…………」
「だいたい、なんで人間って死ぬんだ?」
「…………」
「死なんて嫌じゃないか。痛いじゃないか。辛いじゃないか。苦しいじゃないか。悲しいじゃないか。哀しいじゃないか。怖いじゃないか。恐いじゃないか。マイナスの原因でしかないよ!」
「………………」
「なぁ、なんでさぁ、なんでさぁ……」
「…………………………」
「なんであいつら、殺されちまったかなぁ……」
「……」

 ボクだって不思議だ。
 なぜ、みんな同じ疑問を抱くのだろう?皆、人が死んだ原因について考える。
 原因……か。

「なぁ、捩斬くん……」
「……」
「私、つらいよぉ……」
「……」

 人は人を殺す。
 殺された人を見て、人は悲しむ。
 それは孤独感なのか、それとも喪失感なのか……。

「夕暮」

 ボクは夕暮に声をかける。
 夕暮はゆっくりと顔を挙げる。

「悲しむのは別にイイ。いくらでも悲しめばイイ。でモ、」

 ボクは言う。

「デモ、そこから進まなければ意味がナイ。悲しみながらでモ、進まなければ意味がナいんダ。」
「……死んだあいつらの為にか?」
「違ウ、そうでは───イヤ、そうだナ。そうダ、彼等の為ダ」

 ボクはそこで嘘をついた。
 それが彼女の為だと思ったからだ。
 本当は違う。
 前に進むのは彼等の為ではなく、まず自分の為だ。彼等が死ぬことによって停滞したのが原因で、自分まで停滞しては話にならない。それでは死んだ彼等も浮かばれないってものだ。

「進むって……どうすればいいんだよ」
「色々あるケド、とりあえず死ぬナ」

 ボクはキッパリと言った。

「死ぬナ。絶対に死ぬナ。なんとしてでも死ぬナ。死んだら全部終わりダ。だから死ぬナ。生きてるからコソ続けられるシ、進んでいケル」
「……わかった」

 夕暮がボクのような人間だとは思わないが、一応言っておきたかった。ボクは死なない程度に死んでいるが、彼女にはそうなって欲しくはないのだ。


「もう行くのか?」
「アア、まだまだやるべきことがタクサンあるからネ」

 玄関で靴を履く。ついでにマフラーも首に巻いた。

「……そうか、わかった。じゃあね、捩斬くん」
「…………」
「……ん、どうした?」
「あのサァ、それなんだケド」

 昨日から気になっていることだった。

「なんで急に『くん』付けナノ?」
「え、あー……」

 夕暮の顔が硬直する。何かまずい事でも聞いたか?

「いや、なんつーか、ホラ。私、女で捩斬くんは男じゃん? だからやっぱり女は男に対して『くん』を付けた方がいいかなーって思ったり」
「今更そんなコトを意識するのカヨ」

 ワケわかんねぇ

「いいじゃん別に!!」
「まァ、確かに別にいいけどサ……」

 何を今頃になって言っているのやら。
 ボクはドアに手をかける。

「それジャ」
「ああ、またね」

 ボクはドアを閉める。

「またね」 か。

 またね。
 またな。
 また会おう。
 また会いましょう。
 また生きて出会いましょう。
 再会の予約。
 生存の約束。
 果たして、彼女にまた出会うまでにボクは生きているだろうか?

++++++++++

 夕暮の家からの帰り。
 ボクは町をブラブラと歩いていた。
 実は昼食を外食で済ませる程これといった用事はなかったり。でも石砕さんに「昼食はいらない」って言っちゃったからなぁ……。
 というワケで、ボクは実際に昼食を外食で済ませることにした。
 もちろんMarch hairだ。
 ブラブラ歩いているのも、March hairに向かう為だった。

 カランカラン

 ドアについたベルが聞き慣れた音を慣らす。

「あー捩斬くんじゃん。いらっしゃい」
「こんにちハ。昼食食べに来たノですガ、今日はお兄さんいますヨネ?」
「いるけど……私の料理じゃ不満?」
「当たり前デス。だから上目遣いでこっち見ないで下サイ」
「くすんくすん」
「棒読みで嘘泣きしないで下サイ」
「つまんねー。で、何を頼むのかな?」
「じゃあコーヒーとピザグフッ」

 喉を突かれた。

「あ?」
「ゲホッケホッ……ピッツァでお願いシマス」
「ラジャ〜」

 ……むぅ。
 まだこの設定が生きていたとは……。
 今後気をつけよう。

「あ、あと捩斬くん」
「ハイ?」
「あの人、捩斬くんのこと知ってるみたいなんだけど、知り合い? さっき話ちょろっとしたんだけど」
「エ?」
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる