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Gothic Clover #05

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 殺人組合、恵之岸歌劇団。殺人狂の殺人狂による殺人狂のための組織。山舵市東部を覆う団体。

「壊滅……ネ」

 ボクはカップにコーヒーを注ぐ。

「ミルクと砂糖入れますカ?」

 こくりと頷く石砕さん。マスクをまた装着している。ボクは片方のカップにミルクと砂糖を入れて、石砕さんに渡した。石砕さんは、今度はマスクを外すと普通にコーヒーを飲んだ。

「デ、石砕サン。あらすじを教えてくれませんカ?」

 首をかしげる石砕さん。

「なんで恵之岸歌劇団が壊滅したのかヲですヨ」

 石砕さんは静かにカップを置くと、またマスクを口元に装着する。

「……罪久ちゃん、殺されちゃったでしょ?」
「……エエ」

 石砕さんの声は、まるで和音のように響きが良い、岩の隙間に染み込んでゆくような声だった。

「それが私達に知られた途端、団長が私達に『決戦』を言い渡したんです」
「決戦?」
「はい、『完全に完璧に一匹残らず全てを殺せ。あいつらは私の息子を2度も殺した』と」
「…………」
「そして恵之岸歌劇団と人喰倶楽部の決戦が始まったんです。そんな中、私達は罪久ちゃんを殺した人物を特定するためにネジくんの所に向かいました」

 なるほど、それで筋が通った。あの晩に襲撃された理由もわかる。

「それデ、恵之岸歌劇団はその『決戦』に負けテ、壊滅してしまったというわけデスカ」
「いや、性格には……相打ちです」
「相打ち……っテ、もしかして人喰倶楽部も壊滅したんですカ!?」

 こくりと頷く石砕さん。

「こっちは団員の10分の7と団長が、向こうは部員の全員と部長が殺されて、終結です」
「10分の7が残ったならあなた達の勝ちじゃないデスカ」
「でも団長が殺られました。だから、私達も壊滅。相打ちです」
「…………そうですカ。ということは人喰倶楽部の方は全員死んだってことですヨネ?」

 それは良かった。罰浩と罪久を殺した犯人を見つけ出すけとは出来なくなるが、これ以上何かを失う心配もなくなるということだ。

「いえ、それは残念ながら違いました」

 石砕さんはボクの考えを否定する。

「そうだと良かったのですが、ただ一人、残党がいることが今日になってわかったんです」
「残党? だってさっきあなたは『部員は全員殺した』ト……」
「その存在は『部員』ですらない、というより『部の道具』と言った方がいいような存在です」
「『部の道具』?」
「存在する前から兵器としての存在を決められた存在、破戒こそが存在意義。そんな『ぶっ飛んだ奴』が人喰倶楽部内にいたんです。いや、作られていたんです」
「まサか……そいつガ……」
「ええ、恐らくですが、その人が罪久ちゃんを殺した人物でしょう」
「……もしかして、昨日襲ってきた奴デスカ?」

 ボクはクナイによって穴を空けられた柱を見ながら言う。

「いえ、あれは人喰倶楽部第12席、自影恐怖の柿垣 釘鍵(かきがき くぎかぎ)です。私にとっては雑魚もいいところですね」
「……そうですカ」
「で、その存在は今現在暴走しているようです」
「暴走?」
「ええ、枷が無くなってしまったので、自身の力の暴走が止められないようです。破戒こそが存在意義、ですからね」
「じゃあもしかしてボクの学校の殺人事件モ?」
「ええ、多分……」

 そいつが、罰浩と罪久を、そして見七を殺したのか。

「その人物ってどういう人なんですカ?」
「……わからないです」
「わからナイ?」
「元々『秘密兵器』みたいなものだったらしくて、名前はおろかその姿を見た人さえもいません。つまり姿を見た人は全員、殺されているんです」
「でもそういう『秘密兵器』が存在しているのがわかったってことハ、当然見た人や聞いた人はいるってことでショウ」
「ええ、見た人はいます。でもその人はその存在の事を私に伝えた後に、絶命しました」
「え、その人っテ……」
「灰薔薇さんです」

 重い。いきなり重い。

「灰薔薇さんは、両腕を無くして内臓を腹から出しながらも私にその事を告げ、私を隠した後にそいつに殺されました」
「……その時、そいつの事見なかったノですカ?」
「見ませんでした。見れませんでした。なんせ私ゴミ箱の中で、恐怖に飲まれて耳を塞いでガタガタ震えることしか出来ませんでしたから」
「……そんなに強いんですカ?」
「だって灰薔薇さん、内臓を吐きだしながら『手も足も出なかった』って言ってたもん」

 淡々と語る石砕さん。

「…………」
「私が出てきた頃にはそいつも、灰薔薇さんの死体も何もありませんでした」
「……悲しくないんですカ?」
「悲しい?」
「灰薔薇さんが死んデ」
「………………………そりゃ、悲しいです……哀しいですよっ……だって灰薔薇さん………………えぐっ」
「あ、アーすみまセン! 余計なことをお聞きしまシタ!」

 しまった。泣かせてしまった。どうやら今まで我慢していたらしい。さっきの淡々とした態度は感情を隠していたからこそだったのか。ボクはテーブルの上にティシュ箱を置いた。石砕さんはティシュを取る。

「えぐっ……ひぐっ……くっ……」

 うーん、最近ボクの前で泣く人多いな。いや、まだ2人目か。

「で、その後にボクの家の前に来テ、ボクに抱き着いたというわけデスカ」
「あ、あのごめんなさい! 私その時気が動転していて、つい……」
「イエイエ、全然構いませんヨ」

 むしろ大歓迎。

「その時マスクもうっかり取っちゃったし、本当にすみませんでした」
「ン? どういうことですカ?」
「…………私、武器が口なんです。口っていうか、顎」

 そう言って石砕さんはマスクを外し、中身を飲み干したカップを口元にもってくると、 ばきり と囓り取った。

「ホラ」
「…………」

 どさくさ紛れに、こんな危険な凶器の封印をボクの前で解いたのかと思うと背筋が冷たくなる。ちなみにそのカップの値段は500円。安物といえど、弁償は……して欲しいけどやっぱりいいです。

「じゃあ石砕サン、これからどうするつもりデスカ?」
「これからって?」
「そのまんマ、これからデスヨ。これからどうやって生きるつもりなんですカ?」
「うーん、また殺人に適する環境を創り直すのもあるけど、とりあえずここに居座らせてもらおうかな」
「ゲフゥアッ」

 ボクは飲みかけたコーヒーが驚きのあまり気管に入り、生命維持のためボクの体は自動的に気管に入ったコーヒーを吹き出した。

「ケホッエホッ……ケホッ……え、えエ!?」
「や、やっぱり駄目だよね、迷惑だもんね。私みたいな殺人狂なんか信じて貰えるはずないよね。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「いや、そういうわけデハ……」
「じゃあいいの?」
「う、ウーン……」
「ほら、やっぱり良くないんだ」
「…………」

 他人の意見をすぐに二極化しないで欲しいのだが。
 単に迷っているだけなのだ。

「第一、あなたみたいな女性が一人暮らしの青少年の家なんかに居候なんかして大丈夫なんですカ?」
「大丈夫ですよ、いざとなったら噛みますし」
「……ハァ」
「いざとなったら噛みますし」
「イヤ、でもやっぱりそういうコトは……」
作品名:Gothic Clover #05 作家名:きせる