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Gothic Clover #04

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 午後4時を回り、やっと学園祭は幕を下ろした。
 やっと終わった……。
 ボクはイスに座り、テーブルに倒れる。
 この恥ずかしい格好からようやく解放されるのだ。あー、カムバックマイメイルライフ。
 そういえば、罪久は大丈夫だろうか?人杭を殺すだのなんだの言っていたハズだ。ボクは携帯を取り出して罪久に電話をかける。

『合言葉をどうぞ』

 良かった、まだ生きているみたいだ。

「7424wff5g」
『はいしょーにん』
「どうだっタ罪久?」
『うん?』
「人杭ダヨ」
『あー、無理だった』
「無理?」
『いないんだわ。どこ探しても』
「…そうカ、もう帰ったのかもしれないナ」
『そっち行方不明者とか出た?』
「いやまダ。でも『殺す』って言ってたからまだわからないけどネ」
『ん、わかった。じゃあまた何かあったら連絡する』
「アア、気をつけろヨ」
『じゃあな』

 プチッ
 通話終了
 結局何もしてこなかった。何かしたと言っても、ボクの知らない、赤の他人が殺されただけだろう。ふぅ、なんだか肩の荷が降りたような感じだ。
 さて、これから後夜祭か。確か夕暮が出るハズだ。行ってやるか。

「掻太、行こうゼ」
「ん、おう」

 ボクと掻太は体育館に向かう。
 その時だった

ぴんぽんぱんぽーん

 放送前のお決まりのメロディ。そして、その後に流れた放送内容はとんでもないモノだった。

『あー、テステス……聞こえているんですかね……コレ……』

 どこかで聞いた声。まさか……

『えーっと……コレなんて読むのでしょうか……くびまわり……ざん……きり君……? くびまわりざんきり君……至急放送室まで来て下さい……繰り返します……』

 ボクは走り出した。
 掻太が何か言っていたが気にしている暇はない。
 あの野郎…捩斬は「ざんきり」じゃなくて「ねじきれ」だ!
 ボクは走る。
 階段でつまずく。
 スカートがひるがえる。
 気にしてられるか。
 廊下を走り、壁を蹴ってかどを曲がる。
 そこで急に立ち止まる。

「……ハァ、ハァッッ…ハァ」

 一旦、呼吸を整える。

「……ッハァ」

 そしてドアに手をかける。
 ガチャリ

「遅い……」

 入っていきなり文句を言われた。

「……これでも全力疾走だったんだけどネ」
「でも……遅いです……」
「それト、ボクの名前は『ねじきれ』ダ。『ざんきり』なんかじゃナイ!」
「おやおや…不正解でしたか…」

 生徒名簿を見る人杭。どこで手に入れたんだ?

「わざわざ呼び出して何の用ダ?」
「あなたは……」

 人杭は唐突に話題を切り出した。

「あなたは……私が『人を殺す』と言っただけで……私をこの場から追い出そうとした。でも……あなたは赤の他人が死んだだけで……一喜一憂するような人間ではない……。少なくとも……私にはそう見える」
「……いきなり何を言っているんダ?」
「いえ……ずっと気になって……いましてね。で……どうなんですか?」
「会って一日も経っていない人にそんなこと言われるなんて心外だネ。そんなのそっちの思い込みダロ」
「いや……それは違う。あなたは『そういう』人間だ……。しかし……あなたは……他人を守ろうとした……。私にはわからない……。まるで……何かを──」
「五月蠅イ」
「まるで何かを恐れて──」
「五月蠅イ!」
「まるで何かを恐れているかのようです……」
「……」
「何を…恐れているのですか……」
「それは……」

 ボクは思考する。
 そういえば何故だ? 何故ボクはここまで必死になる?
 全部背負って、傷ついて、傷つけて、もうボロボロじゃないか。もうやめることだってできるはずだ。
 でもボクは、戦う。
 戦う?
 何のために?
 何を守るために?
 守る?
 なんで「守る」なんだ?
 …………。
 そうか
 ようやくわかったよ。
 結局ボクも人間だってコトか。
 ボクもまだまだ捨てたもんじゃないな。
 まったく
 ああ、つまらない
 つまらなくなってきやがった。

「ボクが怖いのは──」

 ボクは答える。

「──世界の破滅ダ」

「……破滅?」
「ボクの世界はボクの物ダ。ボクが作り上げた物ダ。ボクの世界の外で他人が死のうガ知ったことではナイ。たダ、ボクの世界が他人の手によって壊れるのは我慢ならナイ。折角ここまで面白くなってきたんダ。その世界の重要な、大切な登場人物を貴様なんかに壊させるワケにはいかナイ」

 必死で守る。なぜなら、この世界のみがボクの居場所だからだ。
 世界とは、ボクの回りにいるみんなのこと。それがいつの間にか、ボクの世界になっていた。
 その世界の外……例えば、他の地域の人間や外国、この地球のどこかが破壊されたって、ボクは一向に構わない。
 でも、その世界の内側……ボクの生きる日常だけは、ボクは守り抜きたい。
 気付けば、一緒にいたいと思う友人が出来た。
 気付けば、もう少し生きていたいと思うようになってきた。
 気付けば、僕は生きる為に必死になっていた。
 何よりも僕を変えたのは――

 脳裏に、あの、黒い彼女が、流れてゆく。

「ここは、ボクの世界だ。お前なんかが壊していい場所じゃない」

 これ以上、壊させるものか。

「なるほど……確かに……それは正解ですね……。最高の解答です……」

 人杭は満足そうに頷いた。
「だけど……」と人杭は続ける。

「あなたは重大なミスを犯しましたよ……」
「?」
「その『世界』とやらを守りたいのなら……あなたは私と出会うべきではありませんでした……」
「どういうことダ?」

 人杭は笑う。
 おかしそうに笑う。

「私は先ほど『殺したい人間がいる』と……言いましたよね……」
「……アア」
「その『殺したい人間』って誰だと思いますか……?」
「サァ? 知らないナ」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
「……ではもう一つ……私はその『殺したい人間』を殺すために……その人を逃がさないために……ある措置を施しました……。それは何だか……わかりますか?」
「そんな質問をするタメにわざわざ放送室を使ってボクを呼び出したノカ?」
「わかりますか……?」
「知らないネ」
「ファイナルアンサー?」
「回りくどいナ。お前はみのもんたかヨ。さっさと用件を言エ」

「私は、あなたを殺すために人質をとらせていただきました」

「……ア?」
「私が殺したい人間とはあなたのことですよ……ねじきれ君。しかしあなたはこのままでは逃げてしまうかもしれない……。だから人質をとらせていただきました……」

 な、殺したい奴ってボクだって? そんな…じゃあ今回のトラブルはボクのせいだと言うのか?

「人質っテ……」
「ああ……あなたと同じ制服を着ているクラスを見ましてね……多分あなたと同じクラスだと思いまして……」
「何をしタ!?」
「そのクラスには、少なからずともあなたの友人がいると思いまして…そのクラスにちょうど置いてあった薬を、カプセルをすり替えました」

 カプセルって……もしかして人飼のあの風邪薬のカプセル?
作品名:Gothic Clover #04 作家名:きせる