Gothic Clover #04
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「学祭だぁ────っ!」
ボクの友人、桐馘掻太(きりくび そうた)は、今日は一段とハイテンションだった。
「叫ぶな五月蠅イ」
「だってよぉ、学祭だぜ?テンションめっちゃ上がるんだけど」
「ハイハイ」
ボクは看板を釘で屋台に固定する。今年のクラス企画はメジャーに喫茶店だとか。ちなみに喫茶店「March hair」のウェイトレス、紫鹿詩波(ししし しなみ)さん完全監修。もちろん全員ファミレス風の制服。男子からは、女子はメイド服がいいという意見も出たが、それはさすがに却下になった。
……いや、残念ではない。
「で、捩斬はこれからどうするの?」
「クラスの裏でのんびりスル」
「つまんねぇー、一緒にオバケ屋敷とか回らない?」
「この格好デ?」
男子→全員ウェイター姿
「別にいいじゃん。宣伝になるし」
「面倒クセェ」
できればここでゆっくりコーヒーでも飲んでいたい。
「掻太クン……っくしゅ」
横を見れば黒いウェイトレス姿の人飼音廻(ひとかい ねね)がいた。
くしゃみをした姿に、僕は思わず顔色を見る。
「大丈夫なのカ? くしゃみ出てるけド」
「風邪気味なだけ。支障は無いわ」
確かに、ここ数日ずっと学祭に向けての準備に大忙しだったからな。体調を崩してしまったのだろう。
「あまり無理すんなヨ」
「ええ。それより掻太くん、呼ばれてるけど……」
「あ、おう。じゃあ行ってくる」
「え、何デ?」
「オプセレの準備らしいわよ」
「掻太オプセレ出るノ?」
「おう」
オプセレ→オープニングセレモニー。
ま、要するに学園祭の開会式みたいなもんだ。
「そんじゃ」
掻太はいそいそと教室から出ていく。どうやら着替えるらしい。
「捩斬クンは……」
「ン、何?」
「捩斬クンは今日はどこかに行く?」
「いや、そのつもりはナイ。面倒臭いシ」
「捩斬クンらしいね」
「フン」
学祭でやることなんて決まっているし、そもそもボクは人込みが嫌いなのだ。
「そこの2人」
スタッフオンリーののれんをくぐって珠世灘澄(たませ なだすみ)が顔を出す。
「なんダ灘澄」
「そろそろオプセレ始まるよ」
「……わかっタ」
「捩斬クン、辛そうね」
「……人込みは嫌いなんダヨ」
ボク達は体育館へと移動する。
体育館にわらわらと集まる愚民共。校長の、長い上に下らない話が済むと、次に学祭実行委員の無意味なスピーチ。そしてやっと始まる各企画の紹介。舞台の上に出てきては30秒以内に全てを伝えようとする生徒達。これに掻太が出るらしい。
「ウチのクラス何番目?」
近くにいた見七美那(みなな みな)に聞いてみる。
「わかんない。灘澄くん知ってる?」
「確か24番目だったと思う」
『エントリー23番、2年1組』
「次だね」
「ダナ」
「どんなことするんだろう?」
「それは見なきゃわかんねぇだろ」
サンマとタケシのモノマネが終わると『エントリー24番、1年4組』とスピーカー越しに司会者が叫ぶ。
そこには、バケモノがいた。
「来た──ってええぇえぇぇぇぇぇ!?」
「おぉぉ!!」
「…………」
「……パシャリ」
灘澄は叫び、見七はただ純粋に驚き、ボクは絶句し、人飼は携帯で写真を撮った。
理由は一目瞭然。
掻太が女装をしていた。
ウェイトレス服
しかもフリル付き。
気持ちが悪い。
掻太はマイクを持つと裏声で叫ぶ。
『1年4組、喫茶店‘Labbit’やってまーす。私達が誠心誠意、御奉仕致しますので是非来て下さいね〜』
無駄に盛り上がる体育館。
頭痛がしてきた。
つーか御奉仕ってなんだよ。
「まぁ、定番だね」
「……ああ、でも効果は絶大だな」
「学園祭の恒例っちゃあ恒例だけどネ」
「かしかしかしかしかしかしかし…………」
人飼は携帯をいじっている。おそらくさっき撮った写真を編集しているのだろう。無表情で携帯をいじる人飼。怖っ!
全ての企画の紹介が終わり、それぞれの持ち場に帰ってゆく生徒達。
「サテ、ボク達も帰るカ」
「おう」
教室に帰ると、一足先に掻太が帰って来ていた。女装姿のままで。
「おっす」
「お疲れ様です掻太くん」
「掻太何だよその格好」
わらわらと掻太のまわりに生徒が集まる。掻太の奴、結構人気あるからなぁ。だからこそあの女装も許されたという点もあるが。
ピチピチのウェイトレス服の隙間からはみ出る、スリムながらもしっかりとした筋肉がついた体。
「掻太」
「なんだ捩斬?」
「その衣装、どうしたんダ?」
「詩波さんが作ってくれた」
詩波さん、やってくれやがる。GJとでも言うべきか。
GJ→グッジョブ
「あ、そうだ捩斬」
「ナニ?」
「詩波さんねぇ、捩斬の分も作ってくれた」
教室の隅の紙袋から、何やらフリルとかリボンとかがいっぱいついた黒い服を取り出す掻太。
なんだそれは!
なぜそんな物がこの世に存在しているんだ!?
つーか詩波さんは一体どこでいつボクの服のサイズを知ったんだ!?!?
詩波さん、やってくれやがる。JOとでも言うべきか。
JO→地獄に堕ちろ
いや、ボクが勝手に作った造語だけど。
「じゃあ早速……」
「断ル」
「問答無用」
服を押しつけられる。
「……やってられるカァ!!」
脱兎──だが、何者かにタックルをかけられて阻止される。
「ナイス人飼!!」
「……人飼?」
タックルをかけたのは人飼だった。え、何故に人飼? というかなんで片手にあの衣装を持っているんだ? なんでボクの服のボタンに手をかけているんだ? なんなんだその目は!?
「まさカ、人飼!?」
数々と浮かび上がる謎は次々と予想に昇華され、そして最終的には真実へと至りゆくのであぎゃ──────
で、結局人飼とその他クラスメイトの多大なる協力により、ボクは女装をさせられた。
「かしかしかしかしかしかしかし…………」
携帯を無表情でいじる人飼。多分、ボクの女装姿の写真を編集しているのだろう。
人飼音廻、改めて怖っ!!
「しかし捩斬の女装姿も結構、型にはまるなぁ」
「五月蠅イ」
「捩斬、女装はどんな気分だ?」
「死にたい気分ダ」
むしろ殺したい。
「このスカート短すぎないカ?」
「このくらいが普通だろ」
なんかスースーして落ち着かない。
「じゃあそろそろ着替えるカ」
ボクは衣装を脱ごうとする、が、
「駄目」
人飼に遮られた。
「ナンデ?」
「クラスの宣伝で、どっちかが女装してもらわないといけないから、できれば捩斬君が…」
「………」
どんな服を着ようとボクの勝手だと思うが。
「よしじゃあ捩斬、こうしよう」
「こうしようってどうするんダ掻太?」
「今からこの百円玉を投げる。数字が表、絵柄が裏だ。で、俺が百円玉を投げて捩斬が表か裏かを当てる。外れたら捩斬は一日中女装。当たったら、俺が一日中女装だ」
「却下」
「ちなみに勝った方には今日一日学園祭の仕事をサボれる権利をあげまショウ」
「乗っタ」
確率も同じ。リスクも同じ。悪くない。
「そんじゃいくぜ」
作品名:Gothic Clover #04 作家名:きせる