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Gothic Clover #03

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 夜中に起きた。
 時間を見たら夜の2時。掻太と灘澄は布団を撒き散らして寝ている。寝る直前まで大騒ぎしてたからなぁ。
 ふむ、どうしたものか。このまま布団に再度入っても寝れるような状態じゃない。
 そういえば、僕はここに事件の現場を見に来たんだった。機会があったら行こうと話していたが、結局今日は行けなかったな。
 丁度いい、いま行こう。
 ボクは浴衣から私服に着替えた。いびきをかいている掻太をまたがり、部屋を出て襖をそっと閉める。
 人飼も呼ぼうかと思ったが、この時間は流石に寝ているだろう。起こすのも悪いと思い、僕は一人で旅館の外に出た。
 空には雲が全くなく、星が視界いっぱいに広がっていた。
 ボクは公園に向かって歩く。夜の街はとても静かで、少し不気味だ。
 確か公園はどっちだったか? そう考えつつ辺りを見回した時、

 ふと、

 空気が揺らいだ。

 ボクは公園に続く道の先を見る。その前には、一人の人間が歩いていた。
 これはこれは……随分と死臭を振りまいているものだ。
 ボクを息を殺し、気配を消して距離をとる。
 尾行する気だった。あんな人間、なかなか出会えない。
 死臭を振りまいているのは、背は150〜160と小柄、髪型はバッサリとしたミディアムヘア。性別は、服装からして多分男だろう。格好はダボダボのズボンに上はTシャツnの上からゆったりとしたパーカーという、あきらかに何かが仕込んである服装だ。
 脳が警報をガンガン鳴らしている。彼は危険だ。それはわかっている。しかし、そんな警戒心よりも好奇心の方が遥かに勝っていた。
 彼が歩調を変えた。どうやら尾行に気付いたらしい。まぁ、そりゃそうだろう。何せ堂々と後ろを歩いてきたもんな。しかし、振り向かないところを見ると、まだ対峙するワケではないらしい。振り切るつもりか、それとも別の場所に誘いだすつもりか…
 彼が気付いた時点で尾行をやめるという選択肢はあった。しかし、ボクは尾行をやめなかった。
 とにかくボクは彼と話をしたかった。
 彼が、ボクの思った通りの人間ならば──

「へぇ、」

 彼が、声をかけてきた。
 後ろも向かずに、このボクに。
 辺りは公園だった。なるほど、誘いだされたか。ボクはビニール袋を地面に置いた。

「久しぶりに夜の散歩でもしようと思って外に出てみたら、面白いのがかかってきたぜ」
「………」
「てめぇ、ナニモンだ?」

 彼はそう言ってナイフを抜いて、振り向いた。

 同じだった。

 ボクはただ驚愕した。
 彼は、彼は、似ている。いや、違う。
 同じなんだ。

「どうした? 刃物見ただけで腰が抜けたか?」

 彼はナイフを構える。

「何故つけてきた?」

 そこで、ボクはようやく口を開いた。

「キミは一体、何人殺したんダ?」

 その瞬間、
 彼は飛び掛かってきた。
 腕ごと体を縦に回転させてナイフを降るう。ボクは後方に回転してそれを避け、太股のホルダーからナイフを抜いた。

「サツの方か? それとも倶楽部の連中か?」
「ハ?」

 何か勘違いしているらしかった。

「とぼけても無駄だっ!」

 ナイフを両手に構え、下から上に切り上げてくる。ボクはそれをナイフで受け止める。そして受け止めた時の反動を利用して、後ろに飛び上がる。

「何のことを言ってるんダ? ボクには闘うつもりなんテ…」
「じゃあそのナイフはなんだよ?」

 話しても無駄らしい。
 このままやるしかなさそうだ。
 ボクはナイフをベルトから新しく抜いて投げた。彼はそれを指の間に挟むようにして受け止めた。更にもう1本。これもまた指の間に挟む。
 彼はボクの投げたナイフを捨てると、ダン、と一度だけ踏み込む。それだけで一気にボクとの距離が縮まる。
 るろ剣でみた、縮地法に似ている動作だった。
 彼がボクの真下からナイフを降るう。ボクは紙一重でそれをよける。そして後方にバックステップ。
 彼は同じナイフ使い。しかも実力はボクよりかなり上。
 ふむ、どうしたものか。
 一瞬、腰の拳銃が頭をよぎったがすぐにやめた。
 夜中の公園で銃を撃つなんて。なにより銃声が周りに聞こえてしまう。
 ボクは前を見据える。彼はナイフを構えると、また足を、ダン、と踏み込んだ。
 来る!
 と思った瞬間、彼の顔が目の前にあった。
 彼の赤い朱い紅い緋い赫色の目がボクを見る。視界の外側からナイフが来る。
 いなせッ!
 ボクはナイフを持っている彼の右手を左手で受け止めてそのまま回転するように流す。彼の態勢が崩れる。ボクは右手のナイフを突き出す。
 が、
 彼は消えていた。
 どこだ?
 その時ふと、自分に影がさしていることに気付いた。
 ──上か!
 見上げる。そこには月を背景に、彼が空中でナイフを構えていた。
 そんなバカな。あの態勢から空中に飛び上がるなんてできるのか?
 彼はボクの手のナイフを蹴り上げた。ナイフは宙を舞ってブランコのイスに突き刺さる。
 しまった。
 ボクは彼を見る。彼は、笑ってボクに向かってナイフを突き出す。

「チェックメイトだ」

 彼のナイフは、ボクの喉に向かって伸びてゆく。
 しかし、
 そのナイフはボクの喉の皮一枚のところでピタリと止まる。
 彼の胸には、彼の心臓にはボクのナイフが向けられていた。手首に仕込むタイプで、つい最近手に入れたものだ。ボタンを押すだけで簡単にナイフが手首から飛び出てくる。

「あのサァ……」

 ボクは言おうと思った内容を整理して口に出した。

「『王手』を取っただけで勝てるだなんテ、そんなに人生甘くないヨ。勝つためにはちゃんと『詰み』にしなきゃ駄目サ」
「てめぇ……」
「ああ、あともう1ツ、ボクはキミを殺すつもりはナイ」
「じゃあ何故にナイフを抜いた?」
「自己防衛だっつノ」
「ったく、そんなに刃物ジャラジャラぶら下げてんじゃねぇよ。信用できねぇっつの」
「……じゃあ、これでいいカナ?」

 ボクは彼の心臓からナイフを離した。

「?」
「これでボクの生殺与奪はキミだけに委ねられタ。キミはなんの代償も払うことなくボクを殺すことができル。ボクはわざわざ自分からこの状態にしてまでもキミを殺すつもりはナイ。さて、キミはどうスル?」
「……」
「ドウゾ御自由ニ?」

 彼は、ボクの喉からナイフを離した。

「……信じてくれるのカナ?」
「敵か敵じゃないかはわからんが、とりあえず悪いヤツじゃなさそうだ」

 彼はそう言って、ナイフを片付け始めた。

「てめぇ、名前は?」
「首廻 捩斬。キミは?」
「俺様か? 俺様の名は──」

 彼は振り向いた。

「─俺様の名は、喰臓 罪久(くぞう つみひさ)っつうんだ」

 そう言って彼は、罪久は、「あはっ」と言って初めて笑った。
 彼と、罰浩と全く同じ笑顔だった。

++++++++++

 夜の公園でボク達2人はブランコに乗りながら、近くの自動販売機で買った缶ジュースを飲んでいた。

「へぇ、じゃあネジくんは旅行でここに来てるんだ」
「まぁネ。友達と一緒に、6人デ」
「しっかしよく俺様が人殺してるってわかったな? なんで?」
「うーん、なんと言うか……匂イ?」
作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる