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Gothic Clover #03

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 何を言い出すのかと思えば、またいきなり意味不明なコトを聞いてきたものである。

「別ニ? 何も恐れてなんか……」
「嘘だよ」
「……」
「目を見たらわかるもん。捩斬クンは今、何かを恐れている」
「……」
「何が、怖いの?」

 ボクはどうすればよいのかわからなくなった。
 そういえば、初めて会った時もそうだった。人飼は洞察力が高いのだ。
 人飼はボクを見る。
 ボクは人飼を見る。
 数秒か数分のどちらかの時間が経った後、
 先に口を開いたのはボクの方だった。

「この前に人飼、ボクの財布の中にある写真、見たダロ?」
「……うん」
「そいつの名前、知ってるカ?」
「確か、ばつ……はる君だっけ?」
「ああ、罰浩ダ」
「それがどうかしたの?」
「あいつがどうやって死んだのか、知ってル?」
「……知らない」

 ボクは一体、何を話しているのだろう。

「……当時、ボクと掻太と罰浩はよく一緒にイタ。まぁ、親友ってやつだったんだナ。んで、いつも三人でつるんで遊んでタ」
「……」

 ボクは一体、何を話したいんだろう。

「ある冬の日、ボク達三人は『なぜ花火は夏にしかやらないのか』で熱く話し合ってた。『オリンピックでもやってるダロ。』とか『正月でもやってるとこあるぜ。』などなど、色々な意見が出たのだが、罰浩のヤツ『だからって夏にしか花火が店で売ってないのはおかしい』って言うんダヨ」
「それって中3の頃でしょ? 高校受験は?」
「その頃の彼等にとって、そんなのはどうでも良かったんダヨ」
「ふぅん」

 ボクは線香花火に火を着けた。線香花火は火花を散らし始める。

「でさ、罰浩は『そんなに言うなら冬に花火やってみようよ。』って言うンダ。あいつ結局は花火がやりたかっただけなんだよナ。しょうがないからボクと掻太も苦労して花火が売ってる店探して花火買ってサ、次の日の夜中に工場跡地に集まる約束して、別れたんダヨ」

 ボクは
 一体
 何が
 したいの
 だろうか
 。

「次の日の夜、雪が降る中、ボクは花火が入ったビニール袋を持って工場跡地に走っタ。時間に遅れてたから必死で走っタ。で、なんとか工場跡地に着いた。でも2人はもう来ているハズなのに、ヤケに静かで、ボクは約束の場所の広場に向かっタ」

 ボクは
 一体
 何を──

「そこで、罰浩が、殺されてイタ」

 線香花火の火の玉が墜ちてしまった。火の玉は今度は燻るコトもなく瞬時に黒くなった。
 ボクは思い出す。
 雪の降る中、まるで当たり前のように転がっていた罰浩の肉片を。
 白い雪の中、赤く紅く緋く朱くなってしまった罰浩を。

「だから多分、人飼が言った通リ、怖いのかもしれナイ」
「何が?」
「今が楽しいこの日常ガ、壊れるのガ」
「……」

 人飼は、無言で線香花火に火を着けた。

「ボクはこの日常ガ、この世界が、ボク達の世界がまた壊れるのが怖いのかもしれナイ」
「今の、この関係が?」
「今の、この状態ガ」
「……」
「というか、もう既に壊れそうなんだけどネ。この前だってそうだったダロ? 危うく殺されかけタ。高校に入学したての頃もそうだったシ、中学時代も、そしてもっとその前モ」
「そんなに、事件が相次いだの? 地元?」
「ウン」
「でもニュースとかじゃそんなに騒いでいた記憶がないんだけど」
「何件が揉み消したからネ」
「……なるほどね。じゃあ、結構死んでるんだ」
「アア、ボクに関わった何人もの人間が死んダヨ」

 昔からそうだった。
 ボクの周りではトラブルばかり起こる。

「ボクは要するにトラブルメーカーなんだヨ」
「……」
「この旅行だって、何が起こるかわかったもんじゃナイ」

 だから、怖い。
 ボクは、また日常が崩壊するのを恐れているのだ。
 人飼は線香花火から手を離すと立ち上がった。

「捩斬クンがどう思おうと勝手だわ。でも─―」

 人飼は黒い瞳でボクを見た。

「──何か起きたからって、また全部自分のせいにして一人で背負い込まないで」
「背負い込むだなんてそンナ……」
「捩斬クンは、もう充分すぎる程背負ってる」
「……オマエなんかに何ガ分か─」
「分かるわよ」
「…………」
「理解出来なくたって、それくらい分かるわよ」

 人飼はそう言って、またみんなの元に去って行った。

「……つまらネェ」
 本当に、つまらなかった。

 人飼のあとには、見事に最期まで命を散らした線香花火が捨ててあった。

作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる