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Gothic Clover #03

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 混浴ではなかったが。
 海で死ぬほど(シャレじゃない)遊んだボクらは旅館に帰るとお風呂に入ることにした。

「覗くなよぉー」

 と言ったのは掻太の方だ。

「誰が覗くかよ」
「逆に覗かれそうだけどね」
「下劣……」

 そう言いながら女子達は女湯に入っていった。

「…………」
「行くか」
「アア」

 露骨に落ち込む掻太をひっぱり、灘澄とボクも男湯に入った。
 服を脱いで風呂場に入る。
 風呂場はボク達以外、誰もいなかった。時間帯の問題だろう。多分、女湯も同じ状況のハズだ。とりあえず先に体を洗い始めた。ボクはタオルをお湯で濡らして備え付けのボディーソープを染み込ませると、ナイフホルダーを外して体をタオルで擦った。

「お前、風呂場までナイフ持ってんのかよ。」

 灘澄の声が風呂場で反響した。
 ボクは「あー、まぁネ。」と簡単に答える。

「確かそれで、中学の頃の修学旅行で問題になって教師に呼び出し食らってたよな」
「その話はやめてくれヨ。あまりいい思い出じゃナイ」

 ボク達は体を洗うと、外の露天風呂に向かった。

「うおーー!!」

 意味なく叫ぶ掻太。
 露天風呂は海が一望できる位置にあった。ちょうどさっき泳いできた浜辺が見える。

「よっしゃぁ!」

 掻太が他の客がいないのをいい事に、露天風呂に飛び込んだ。

「うりゃあ俺もっ!」

 灘澄も負けじと飛び込む。
 そしてそのまま風呂の中で乱闘を開始する。
 さっき散々海で遊んだハズなのだが……こいつらの体力に限界は無いのだろうか。
 とりあえずボクも2人の被害が及ばないように距離をとって露天風呂に入った。

「この野郎、急所狙いは反則だって言っただろうがっ!!」
「悪かったってぶふぁっ鼻にお湯がばぅはがぶきぁぶかぁなたぁかあぁ」
「頼むから静かにしてクレ」

 小学生か貴様らは。

「そーいえばよぉ、捩斬」
「なんだヨ?」
「折角、海に誘ってやったんだぜ?」
「だからナニ?」
「ムード満点だぜ?」
「何が言いたいんダ?」
「人飼に告らないの?」

 ボクはナイフを投げた。

「危ねぇっ!」

 掻太はそれを紙一重でよけた。

「え? 捩斬って人飼のこと好きなの?」
「他人なんぞに恋愛感情を感じた覚えはネェ」
「だっていつも一緒にいるじゃん」
「それ言ったら掻太だってそうダロうガ」
「でもやっぱ捩斬の人飼に対する態度には何かを感じるぜ?」
「そういうつもりは一切無いのダガ」
「じゃあ捩斬はどういう女が好みなんだよ」
「いや、それといってハッキリとしたヴィジョンはナイ」
「つまんねー野郎だな」
「そうだよ。裸なんだしトークも裸同然、丸出しで話せよ」
「じゃあそういう掻太はどんな女が好みなんだヨ。」
「俺? まぁ、かわいくて胸が大きいなら文句ねぇな」
「平均的ダナ」
「灘澄は?」
「メイド服着て俺のことを『御主人様』って読んでくれる外見年齢が小学生くらいの女の子」

 永遠のように長い一瞬の間

「ボクもう上がるワ」
「俺も」
「え、なんで? ダメ? アウト?」
「いろいろとアウトだろ」
「特に外見年齢がアウトだナ」
「だって小さい女の子に御主人様って呼ばれるのは男の夢じゃないのか!?」
「そんな夢はねぇ」

 ……ごめん、掻太。
 ボクちょっとその気持ちは分かるかもしれないわ。

「捩斬もそう思うよな?」
「う〜ん、まァ──」
「え? まさか捩斬もそう思うのかよ」
「いや、そういうワケじゃないケド──」
「じゃあなんだよ」
「ボクとしては、『御主人様』って呼ばれるよりも、むしろ『御主人様』って呼びたいナァ〜って思っテ」

 永遠のように長い一瞬の間

「「このマゾが…」」(×2)

 う〜ん、まぁ、
 否定はできない。


 夕食はなかなかおいしかった。地元でとれた新鮮な魚を使った料理が多く、しかも刺身から煮物までとバリエーションが豊富だ。しかもデザートにかき氷がついているというのが、さすが夏季専用旅館といった感じだった。
 さて、夕食を終えたボク達は次なるイベントのために砂浜に来ていた。泳ぐためではない。
 花火をするためだ。

「打ち上げ花火行っきま〜す!」
「やめろ掻太!こっち向けるな!」

 いきなり大ピンチだった。

「莫迦、いきなり打ち上げ花火をする奴いるカ!」
「そうだよ! そういうのは最後の方になってから…ってもう火つけてる!!」

 どどーーーーーーん

「……危なかった」
「……………」

 なんとかよけた。

「打ち上げ花火を地面と平行に打ったら危ないよ?」
「ったく、普通にやれよな。」

 見七と夕暮はそう言うと普通の棒状の花火を持った。

「じゃあ次、ロケット花火行っきまーす」
「だからこっちに向け─」
「発☆射!」

 バシュウッッ
 ロケット花火が掻太の手から放たれた。しかし、それと同時に銀色の閃光が走る。
 夕暮だった。夕暮がその腰にある刀『紅金魚』でロケット花火を一刀両断したのだ。

「瞬牙参式──堕上」

 ───ちんっ
 夕暮は刀を腰に収めた。と同時に、二つに分断されたロケット花火が炸裂して散る。
 今の技名?
 この小説のジャンル何だったっけ?

「掻太」
「うぁはいぃ?」
「次やった場合、斬るぞ」

 目がヤバい。

「えーっと、その、ごめんなさい」
「分かればよし」

 あの掻太が土下座した。
 夕暮、恐るべし。

「ねぇ、私この花火やりたいわ」

 人飼はそう言いながら手の中の何かを蝋燭の火に近付ける。

「人飼、それナニ?」
「名前わからない。でも、見たらわかると思う」

 そう言って人飼が火を着けたのは、
 しゅ〜〜〜〜っ

「……………」
「…楽しい?」
「……虚しいわ」

 ヘビ花火だった。

「おーい、ドラゴン花火行ってもいいかー?」
「アー、好きにしテ」

 掻太達は花火を振り回して遊んでいる。
 しかし、花火か。

「懐かしいもんダ」

 ボクは線香花火の束を持つと、蝋燭の火を別の蝋燭に移し、みんなから離れた場所に座った。
 花火。
 彼が好きだった花火。
 やりたがっていた花火。

「フン」

 ボクは線香花火の束から1本抜いて、蝋燭の火を着けた。
 線香花火は火が着くと火の玉を作りだし、始めは控え目に、そして次第にバチバチと火花を散らし始めた。
 しばらくボクはその火花を見るコトだけに専念する。
 ……。
 ………。
 …………。
 ……………。

「捩斬クン?」
「ヌぉッ!」

 気付くと人飼がボクを超至近距離で見つめていた。
 ボクは驚いて顔をのけ反る。
 その拍子に線香花火の火の玉が落ちてしまった。火の玉は地面で一瞬だけ燻ると、すぐに消えた。

「な……なんダヨ、人飼」
「いや、なんか捩斬クン、いつも以上に哀しそうな目をしてたから」

 そんなにボクの表情が普段とは違かったのだろうか。

「隣り、いい?」
「ドウゾ」

 ボクは2本目の線香花火を束から取った。

「それ……」
「ン?」
「私もやりたい」

 ボクはもう1本線香花火を取ると、人飼に渡した。

「で、捩斬クン」
「ナニ?」
「一体、何を恐れているの?」
「……」
作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる