Gothic Clover #03
なるほど、あの2人は2人に入らないということか。
「デ、キミは誰?」
「オイラ?」
「キミしかいないダロ」
「人喰倶楽部第12席。遊ぶ利己主義、創口突潮(きずぐち つきしお)」
「………」
また変なのが出てきやがった。
正直、無視したい。
「デ、キミはボクを殺すワケ?」
「必然的に当然だ。監視するよりさっさとデリっちゃう方が早いからな」
デリる…デリート(削除)のこと。
「それじゃ、サクッと殺っちゃいますか」
突潮は親指を下げる。
「生憎、ボクはまだ死ぬワケにはいかないんでネ」
ボクは中指を立てる。
「そうかい!」
そう言って突潮は、やはり、義手を前に突き出した。義手が『カシャン』と開く。飛び道具か!?
シパパッ
何かが飛び出した。その何かがボクの髪の毛をかすめる。何だ?見えなかった。義手が開いたのを確認した時点で頭を下げなければ、その何かが眼球に当たっていただろう。
「反応速度はこんなもんか。なかなか鋭いじゃねぇか」
「……何を発射したんダ?」
「わからないならそのままで結構だ」
更に義手からその何かを発射する。電車の屋根に当たり、制止して初めてわかった。針だった。数は5本。同時に5本を発射可能らしい。打ち込まれると取り出すのに厄介だ。
「変なモン飛ばしてきやがっテ」
ボクはナイフを投げるが、それは左手の義手によって弾かれる。
「ハン、無駄だね」
「……その義手、かなり精密な物ダナ」
「ああ、これね。回路が神経と直結していて、微弱な電気信号でも動くんだ。反応もかなりいいぜ」
神経と直結……か。
ボクはナイフを構えて彼に向かって走る。
こうやって暢気にボクの質問に答えてくれている辺り、相手は油断しているのだろう。確かに、ボクはただの一般人だ。だからこそ、相手が油断しているうちにケリをつけなければいけない。
「おっと」
突潮は義手を突き出して、また針を発射する。でもその起動は直線運動。よけられないワケでは…
「ウグゥッ」
しかし、ボクの脇腹に針が数本刺さった。莫迦な。軌道からはよけたハズだ。
「甘いな」
突潮はそう言うと、その本性に相応しく、禍々しく笑った。
「グ……ウ?」
「わからないなら……そのままで結構だ」
彼は義手からまた針を発射する。ボクはその針をナイフで弾くが、軌道から全然外れた足に針が刺さる。
くそっ、まただ。よけたはずなのに。
「オイオイどうしたどうした黒いナイフ遣い君?」
突潮は右脚をやや曲げて左手を構える。
シパパッ
針が翔んでくる。なんとかよけたはずだが、また左腕に刺さる。
……。
「一ツ、質問がアル」
「なんだ、死ぬ前に知りたいコトでもあるのかい? 答えてやらないこともないが、攻撃方法は駄目だぜ?」
そんなことはもうどうでもいい。
ボクは釣り用に持ってきていたワイヤーをポケットから取り出して、ナイフに結ぶ。
「聞きたいのはボクの連れについてサ。ボクが死んだ後、あいつらはどうなるんダ?」
「まぁ、事が起こる前に殺すことになるだろうな」
「あー、やっぱりそうカ」
「大丈夫、同じ海に放り込んでやるよ」
「そレはそれハ……」
無駄な心配だということこの上ない。
ボクはナイフを投げた。
「だから無駄だってば」
突潮は義手で弾く。
「残念、ナイフは2本ダ」
もう1本、ボクの結んだワイヤーがついたナイフが、突潮の右脚に刺さる。
「な…しまった!」
ズボンが破れ、中から義足が覗く。
「安いトリックだナ」
左腕の義手で相手を翻弄し、その隙を右脚が突く。針を発射しているのは左腕だけではなく、右脚の膝からも発射可能だったのだ。どうりでズボンがボロボロなワケだ。
「こんなセコ技使うヨリ、男らしくぶつかろうゼ?」
ボクはワイヤーを引っ張る。ワイヤーの先の、関節の間に刺さっているナイフが足を引っ張って突潮が転倒する。本来は釣りで使うかもしれないと思って持ってきた物だが、こんな場面で役に立つとは思わなかった。
「くそっ!」
突潮は左腕の義手から針を発射するが、ボクはそれを首を曲げてよける。仕掛けさえ解れば簡単だ。
「ぐぅぅぅぅぅ」
右脚が動いていない所を見ると、どうやら神経と直結している回路とやらは、ナイフによって切断されたらしい。ということは、切断面はナイフに触れているということか。都合がいい。
「サテ、男らしくぶつかろうと言ってモ、キミがそんな状態じゃア正々堂々闘おうというワケにはいかないナ。じゃあとりあえず気軽にできるやつデ…
チキンレースなんてドウダ?
お互いの根性とやらを競うには丁度いい方法だと思うケド」
ま、ボクなんかに根性も何もないけどね。
ボクは左手でワイヤーを持って、頭上の送電線にワイヤーを絡める。突潮もボクがしようとしていることがわかったらしく「やめろ!」などと言うがもう遅い。
痛いのはボクもだ。お互い様だよ。
どっちが先に死ぬかの瀬戸際勝負。
良くて相打ち。
負ければ死亡。
「チキンは一体どっちカナ?」
体に高圧電流が流れた。
++++++++++
不幸と幸運は表裏一体である。少なくとも僕はそう考えている。不幸な時、幸運な時、どちらか一方だけが訪れる時なんてない。いつも不幸と幸運はボクの人生において同時に存在し、バランスを保っている。
で、今回のボクにとっての不幸は、針が何本も体に刺さり、更に、ロープを通していたとはいえ体を高圧電流が流れてこれから一ヵ月はろくに体も動かせないこと、それが不幸。そしてボクにとっての幸運は、まずワイヤーがその高圧電流に耐え切れず、ろくに電気も流さずにすぐに焼き切れてくれたこと、また、その何本も打ち込まれた針が電気を吸収、更に体中に仕込んであるナイフと二日酔いを解消するためにがぶ飲みした水も電気を吸収、拡散してくれたおかげで、電気のダメージは比較的軽傷で済んだということ、か。
不幸中の幸いとやらだろうか。じゃあ、その幸いの要素が含まれている不幸は、総合的に見れば幸運なのか不幸なのか……。
「体が動かネェ」
どちらにしろ、僕の体はやばかった。
しかし、突潮の方がもっとやばい。なんせ神経と直結している回路にナイフを通して高圧電流が流れたのだ。直接脳に電気が流れたようなものだ。たった一瞬しか電気が流れなかったと言っても、重傷……じゃあ済まないだろう。見てみれば突潮の体はまるで一つの体に幾つもの意思があるかのように四肢が別々にビクビクと痙攣……というか、意志を持っているかのように動いていた。グロい。
さて、どうしたものか。
「やっほ終わった?」
罪久が屋根に登ってきた。
「……そっちこそ終わったのかヨ」
「ああ、とーぜんのパーペキだ」
「そうかい……イテテ」
ボクはゆっくりと起き上がる。
「こいつ誰?」
「えーっと確か創口突潮だっケ? 何発か針打ち込まれちまっタ。突潮はどんな感じになってル?」
「死んでるなこりゃ」
「罪久、悪いケド針抜いてくれル?」
「OK」
作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる