Gothic Clover #03
6
帰りの昼。
「あ゛ーう゛ー」
「水くれ水……」
「痛ぇよおぉー」
「……」
二日酔いが4人いた。
「捩斬、荷物持ってくれ……頼む」
「昨日あんなに飲むからダ。自業自得ダロ」
「うぅううぅぅぅ」
本当に辛そうだ。そう言うボクも実は少し頭が痛い。少し飲み過ぎたようだ。さっき水をお腹がタプンタプンになるまで飲んだが、頭はまだ痛い。幸い、あとは電車に乗るだけなので移動にそんなに苦労はしないだろう。
「人飼は大丈夫ナノカ?」
「昨日寝てたから」
なるほど。
『まもなく2番線に電車が参ります。白線の──』
「電車来たゾ」
「うー」
荷物を運ぶのを手伝い、やっと電車に乗り込む。
プルルルルルル
電車はベルを鳴すとゆっくりと発車した。
「じゃあ俺達しばらく寝るわ」
「駅着いたら起こして」
「ン、わかっタ」
ボクはイスに座って窓の外を見る。窓の外の海は穏やかに輝いていた。
「どうしたの捩斬クン」
「イヤ、旅が終わったなぁっテ」
「短かったね」
「マ、2泊3日じゃネ」
電車の中にはボク達以外誰もいない。いや、隣りの車両に一人いた。あれは……罪久!? 何故に!?
罪久はこっちに気付くとニヤリと笑った。
「人飼、ちょっとここにいてクレ」
「……捩斬クン?」
「大したコトじゃナイ。すぐ戻ル」
ボクは隣りの車両へ向かった。
「罪久!」
「よぉネジくん」
「何故こんな所ニ?」
「ネジくんが帰るらしいから俺もついでに里帰りでもしようかなって思って。」
「……大丈夫ナノカ?」
「監……のことか?今もいるぜ」
ボク達の他に客は……屋根だろうか?
「とにかくボク達には迷惑かけないでくれヨ?」
「大丈夫だって。心配すんな」
不安だ。
「前に俺が言った通りにすりゃいいだけだ」
「……わかっタ。そのへんはお前に任セル」
ボクは人飼達がいる車両に戻った。
「ただイマ」
……。
返事はなかった。
そこにあるのは荷物だけだった。
「ナ……!?」
ボクは後ろを振り向く。
「罪ヒ……」
「人喰倶楽部第8席。人形遣いの裟刀錐孝(さとう きりたか)」
それは後ろにいた。
ボクはまた後ろを振り向くことになる。
後ろにいたのは長身の手長足長、夏なのに全身を革製のコートで包み込んだ緑髪の男性。そしてもう一人、男性と同じく革製の、しかし露出部が極端に多い服を纏い、首や手足に拘束具をつけられた少女だった。
この2人がボクと罪久をつけていたのだろうか。
「裟刀……錐孝?」
「左様」
「こっちの子の名前ハ?」
「人形に名などない」
「……フ〜ン」
言うなれば御主人様と下僕というやつだろうか?
というか、そうとしか見えない。
……。
やーん
「デ、ボクの連れはドコ?」
「……あぁ、あの人間共か。邪魔なので一番前の車両に移した」
とりあえず無事らしい。
「なんの用カナ?」
「貴様、喰臓罪久とどういう関係だ?」
「他人からやっと知り合いになったばかリの関係」
「多分仲間に違いない」
「話聞いてル?」
「ふむ、信用出来ないのでとりあえず2人とも殺すことにしよう」
「……」
こいつ、人の話聞いてねぇ。コミュニケーションを取れない人間は嫌われるぞ?
しかし、やはり殺るしかないのだろうか。ボクはホルダーに手を伸ばす。
「人喰倶楽部第8席。2人は1人に2人分、人形遣いの裟刀錐孝。またすげぇのが出てきたな」
罪久だった。
「ったク、キミのせいでとんでもないコトに巻き込まれてしまったヨ」
「悪い悪い。でもまぁ、ワイヤー系ってのは当たったかな?」
「人形遣いなのニ?」
「マリオネットの要領さ」
錐孝の手から何かが飛び出した。ボクはとっさに身構える。錐孝の手から飛び出したのはワイヤーだった。そのワイヤーは少女の肩の拘束具と連結する。
人形ってまさか……
「危ねぇ!」
罪久がボクの手をとって引っ張った。少女の足が鼻先をかする。
ズドオォォォォォォン
少女が蹴ったイスは轟音をたてて変形した。
「……罪久、質問がアル」
「言ってみなさい」
「なんだよアレェェェ! 死ぬゾ! アレ喰らったら絶対死ぬゾ! まるっきり漫画じゃねぇカ!! ありえねぇヨ! つーかこれ何小説ダヨ! ジャンル変わってねぇカ!?」
「落ち着け! 一体何を言っているんだ!?」
「これは反則ダァ!」
「しっかし、ワイヤーをこんな風に使うとはな」
「こんなのと殺り合うのかヨ」
「殺るしかねぇだろ」
ボク達はそれぞれナイフを抜く。
「ふーっふーっふーっ」
少女の息が荒くなってきた。唾液が口から垂れる。
「……今まで悪趣味な奴等を相手にしてきたガ、ここまで悪趣味な奴は初めて見ル」
「確かに、ありゃ幼女虐待だな」
「2人ともナイフ遣いか」
相変わらず人の話は聞いていないらしい。冗談は通じない奴と見た。
「ふっ」
少女が拳を振るう。
ボクはバックステップで、罪久はバック中でよける。
「ナァ罪久」
「なんだいネジくん」
「こいつの相手、キミに任せてイイ?」
「別にいいけど、何で?」
「ボクは人飼達の所に行きたいンダ。無事を確認したい」
「あの連中か? オッケわかった。任せておきな」
「悪イ」
ボクは窓を破る。
「させん!」
錐孝が指を動かして少女を飛び出させるが、その足を罪久が払う。
「ヲイヲイつれねぇな。折角、俺様というハンサムな男の子がいるのに無視かよ」
「……ふーっ」
「俺別にロリコンじゃないんだけど……」
罪久はナイフを構える。
「最後の肉片の一片まで、あますとこなく喰ってやるぜ?」
罪久は真っ赤な舌を出して言う。
「ふん、ならば……」
錐孝は指を高速で動かす。少女は罪久の前に対峙すると、腕から隠し刃を出した。
「貴様の魂が、その器に愛想がつくまで遊んでやろう」
……どうやらそれぞれキメ台詞があるらしい。
かっこいいと思っているのだろうか? 傍から見れば痛いだけだぞ。
ボクは窓から屋根へと上った。空気抵抗がボクの髪をなびかせる。
「確か1番前の車両って言ってたヨナ」
ボクは電車の屋根の上、頭上を通る送電線に気をつけながら歩く。触ったら高圧電気が流れて一瞬で灰だ。
「やっぱりな」
車両と車両の間から1人の男が出てきた。
「やはり二手に別れると思っていたよ」
年齢はボクと同じ、あるいは少し上ぐらい、短く切った紫色の髪、袖なしシャツにブカブカしていて膝の下あたりからがボロボロの長ズボン、そして左腕のメカメカしい義手。
……アレ?
罪久の奴、監視しているのは2人だって言ってなかったっけ?
「しかし、オイラが相手するのはこいつになっちまうのか」
「え、3人目?」
「ん?」
「イヤ、罪久の奴は『監視している奴は2人だ』って言っていたものデ」
「もしかして裟刀のこと?」
「ウン」
「そりゃあいつらは別格だろ。だってあいつらは、2人で1人だもんな」
「2人デ、1人?」
「いや、こんな言い方だと人使は怒るか。『2人は1人に2人分』だったっけな」
2人は1人に2人分。
作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる