Gothic Clover #03
「どうしてって、そりゃこの辺は俺様の生息地なんだから出現してもなんの不思議もないだろう」
「デモ……」
「だってネジくん、旅行に来てるって自分から言ってたじゃん。この辺で宿泊施設といえば、この朝顔荘だろ」
「……マジカヨ」
「どうせ買い出しだろ? あそこの部屋みりゃわかる。手伝ってやろうか?」
「……じゃあ頼むワ。折角また会えたことダシ」
「運命の再会ってやつですか?」
ボクの場合シャレじゃない。
ボク達は歩いてすぐのコンビニに入った。
「とりあえず酒とツマミ、あと酔った時用に烏龍茶を買ウ」
「大変だなネジくんは」
「ああ、全くダ」
ボクはカゴに酒を適当に選んで放り込む。菓子とツマミは罪久が持ってきた。
ついでにホットスナック(唐揚げ棒)を2本買う。外に出たらボク達は海の堤防に座りながらホットスナックを食べた。
「しかシ、キミも暇人ダナ」
「ああ、暇で暇で堪らないよ。まぁ、隠遁生活中は目立った行動は出来ないしな」
「隠遁生活中?」
「あー、昨日言ってなかったっけ?」
「聞いてナイ」
「んじゃ話すか。実は俺もこの辺の人間じゃないんだわ」
「どういうことダ?」
「いや、地元でイザコザ起こしちゃってさぁ、1ヶ月くらい前からこっちに逃げてきてるワケよ」
「1ヶ月前っテ、宿ハ?」
「テント」
なるほど、だからあの晩、後ろからついて来たボクを殺そうとしたのか。
普段から警戒して生活してるんだろうなぁ。
「ヘェ、じゃあ元はドコに住んでいるんだ?」
「神奈川」
「同じダ。で、何市?」
「山舵市」
「……同じダ」
「あれ?ネジくんも山舵市?」
「ウン」
「わぉ。赤い糸ですか?」
「マジカヨ……。しかシ、ボクの住んでる町で、キミみたいな殺人鬼が裏で仁義なき戦いをしているわけカ。全然知らなかっタ」
「知られてたまるか」
「大変ダナ罪久」
「いや、そうでもない。ただ殺せばいいだけだ。単純な作業の繰り返しさ」
罪久にしてみれば、そうなのかもしれない。でも……
「他人の理由で人を殺すって面倒臭くないカ?」
「他人の理由って……だから別にヤクザじゃねぇって言ってんだろ」
「違うノカ?」
「違ぇよ。ああいう組織と言うよりは、むしろ共同体というか……あれ、それとも協同体か? ん?」
「イヤ、もうイイ」
ボクの住んでいる町の事とはいえ、やはり首は突っ込みたくなかった。
「あなた知りすぎ。とりあえず消えて下さい」「御断りダ」「ばーん。あなたは死にました」「なんじゃこりゃー」みたいな展開は望んじゃいない。
「で、何の用カナ?」
「へ?」
「用もなくボクに会いに来たワケじゃないダロ」
「いや、ただネジくんに会いたかったから会いに来た。それだけ」
そう言って罪久はニヘッと笑った。
そうだった。彼はあいつと同じだったんだ。
「まぁ、一応言えるなら言おうと思ってた話はある」
「ナンダ?」
その途端、罪久は口調を……いや、発音方法を変えた。
「最近俺をつけている奴がいる」
「!?」
「しかも獲物が普通の刃物やナイフじゃない。体の動かし方が違う。おそらくありゃあ、紐やワイヤー系だ」
「ワイヤーっテ…」
「しゃべるなよ。折角俺が腹話術使っているのに」
確かにさっきから罪久のしゃべり方が違った。音と口の形が全く合っていないのだ。
「奴は多分追手だ。しかも奴はわざと俺に気配を悟らせている。誘っているんだ」
「……」
一体それがボクに何の関係があるというのだろうか。
「そして、追手は2人いる」
「……」
「片方が俺を、そしてもう片方がネジくんを監視している」
「!?」
「もともとは二人とも俺の敵だが、多分、俺に接触したお前を怪しんでいるんだろう」
「……」
これが今回のトラブルか。
くそっ
くたばれ。
「大丈夫だ。変な動きさえしなければそのうち監視は外れるだろ」
変な動き、か。特定されているようで、曖昧だ。
「それじゃ、俺は先に行く。ネジくんは12秒数えたら旅館に帰って」
「……OK、わかったヨ」
罪久は堤防から飛び降りて「じゃあな」と普通に言って、立ち去った。
以上、罪久の「ボクに言えるなら言おうと思ってた話」でした。言ったらそれなりに用心するし、言われなかったら意識せずに普通の生活をする。変に意識して逆に怪しい行動を取ってしまうよりかはいいかもしれない。確かに言っても言わなくてもいい話だ。
しかしなぁ……
ボクは12秒数えると、旅館へと歩いていった。
夜空を見上げてボクは呟く。
「つまらなくなってきやがっタ」
やってくれるぜトラブルメーカー。
作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる