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Gothic Clover #03

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「グフッ」

 内臓に衝撃を受けて飛び起きた。びっくりして手元に置いておいたナイフを持つ。

「うわぁ危ねぇ!」
「捩斬、俺だよ俺!」

 掻太と灘澄だった。

「……何の恨みでキミはボクにこのような仕打ちヲ?」
「だってお前なかなか起きねぇじゃん」
「だからっていきなり腹部に踵落としカヨ?」
「悪かったって。だからそのナイフをしまえ。」

 ボクはナイフを鞘に戻す。

「ったく、危ないな」

 寝ている途中の人間の腹部に衝撃を与える奴の方がもっと危険だと思う。
 どうやらボクはビニールシートの上で寝てしまったようだ。

「ったく、折角海に来てんだからもっと楽しめよ」
「なんだ捩斬、寝不足か?」
「いや、今のでもう目が覚めたヨ」

 ボクはむっくりと起き上がった。

「で、何やるノ?」
「ちょっと待て。女子来てからな。おい灘澄」
「今呼んだ」

 灘澄が携帯を閉じる。

「アレ? 女子達は?」
「お前が海に来た途端に寝ちゃったから、買い物行ってた」
「何を買いに行ったんダ?」
「肉だよ肉」
「旅館から道具借りてバーベキューするんだって」
「マジカヨ」
「ビールもあるぜ!」
「マジカヨ!?」

 ちなみに種類はドラフトワン。

「買い出し部隊、ただいま到着〜」
「あ、捩斬クン起きてる」

 夕暮と見七、人飼が大量のビニール袋を抱えて到着した。

「悪いな、女子に買い出しなんかさせちまって」
「別に構わないっす」
「掻太、火つけちゃっていいな?」
「オッケ、ジャンジャンやっちゃって」

 新聞紙に火がつけられる。

「ねぇ、野菜はいいんだけど、肉ってどうやって捌けばいいの?」
「えーっと……」
「ボクがヤル」

 刃物の扱いと肉の解体は昔から得意だ。ボクはまな板の前に立って、肉をスライスにしていく。

「あら捩斬クン、うまいのね」
「人飼もやってミル?」
「……うん」

 人飼は包丁を持って、慣れない動きで肉を切る。

「……あ」

 指を切った。

「できると思ったんだけどなぁ。」
「その根拠は一体どこカラ?」
「あいつの喉は斬れたのに、肉は切れないなんて、皮肉なものね」
「……多分、関係ナイと思ウ。」

 奏葉坂造は経験に入らないだろう
 ボクはスラスラと肉を切る。傍らでは夕暮が野菜を空中で斬り刻んでいた。見七が野菜を投げて、夕暮が斬る。
 ……さすがにあれは無理だ。

「んじゃ鉄板に並べるぞー」

 ぼんぼんと鉄板の上に肉やら野菜やらが投げ込まれる。

「全員ビール持てー」

 ボクはビールを開ける。

「かんぱーい!」

 それと同時に戦争が始まった。
 箸と箸が交差する。肉と野菜が空を舞う。
 参加する気は毛頭無い。
 肉と野菜のスペアは隠し持っている。みんなが満腹になった後に、それを食べればいいだろう。

「どぉりゃあぁぁぁ!」
「危ねぇ!」

 箸が分断される。

「血染ちゃん、刀使うの禁止だよっ!」
「ちっ」

 夕暮は紅金魚を腰に収めた。
 ……これ多分、死者出るぞ?
 そういえば人飼はどこだ? 昨夜のことを話したいのだが。でもあの戦地にはいないし……あ、いた。人か……人飼?!
 人飼はビールを大量に飲んでいた。足下には既に4本ぐらいの空き缶が転がっている。

「ナ……人飼?」
「ん、どうした捩斬?」
「人飼ガ……」
「あ! 誰だ! 音廻に酒呑ませた奴は!!」
「どうした、もしかして人飼は酒に弱いとか?」
「あー、そうか、お前ら高校に入ってからの人飼しか知らないもんな」
「そういえば血染ちゃん、音廻ちゃんと中学同じだったっけ?」
「一度クラスの打ち上げで、ふざけて酒が出た事があるんだが、それを音廻が飲んで酔っ払った事がある」
「弱いのか?」
「弱い。たくさん飲むくせにかなり弱い」

 ためしにボクは人飼に話しかけてみた。

「人飼、大丈夫カ?」
「……あ?」

 目が座ってる。
 顔は紅潮しているが、目が座ってる。
 かなり怖い。

「…あなた、誰?」

 頭を!?

「えーっと、捩斬ですケド、OK?」
「………げぷっ」
「…………」
「………おーけー、大丈ぶうぇっ」

 駄目っぽい。
 とりあえず人飼はビニールシートの上に寝かせておいた。

「麦茶飲むカ?」
「……うん」

 しばらく人飼は再起不能だろう。ボクはその場を離れて戦地に戻る。

「音廻ちゃん、大丈夫?」
「ほっとけば無問題だと思ウ」
「捩斬、言っとくけどもう肉ねぇぞ」
「大丈夫、スペアがアル」
「あ、てめぇ!」

 各面々がまた箸を伸ばす。お前らの胃に限界は無いのか?
 結局、ボクも戦争に参加。肉を取られるワケにはいかない。

「捩斬クン……」

 後ろを見ると、人飼がいた。もう大丈夫なのだろうか?

「人飼、大丈夫ナノカ?」

 その途端、人飼は金網の上に箸を伸ばした。

「私も食べうっ……キモチワルイ」

 おとなしく寝てろ。

++++++++++

 夕食を食べ終わった後でも、みんな男子部屋に集まって酒を飲んでいた。
 少し飲み過ぎだと思うが、そういうツッコミは今この場には必要無い。
 ちなみに人飼はなんとか夕食は食べたが、まだ頭が痛いというので男子部屋で寝ている。何故男子部屋なのかと言うと、「乙女を誰もいない部屋に一人にする気か! 外道め! 死ね!」という夕暮の抗議があったからだ。
 ……布団取られた。
 しかし、困ったな。これだと人飼に、罪久の話をすることが出来ない。ま、いざとなれば旅行が終わった後でもいいか。人飼は悲しむだろうけど。

「だからストーンフリーは純粋に、ただ糸になれるだけのスタンドなんだよ、エメラルドスプラッシュだのなんだのは出さないんだよ!」
「なー、美那って誰か好きな人いる?」
「じゃあつまりストーンフリーはハイエロファントグリーンの劣化版ってことか?」
「ひ、秘密だよぅ」
「ふざけるな。劣化版とかじゃあない。性質からして根本的に違うんだ」
「誰だよ、教えろよ」
「何が違うって言うんだ?」
「別にいいじゃんそんなこと!」
「体が糸になるかスタンドが糸になるかだ!」

 あーもう何が何やら。
 別の会話を同時同所でするな。

「……お前ら、まだ飲む気ナノカ?」
「あ? まだ2時だぜ?」

 寝ろ。

「捩斬さっきからあまり飲んでないな」
「酒はあまり飲まない方なんダ」
「俺の酒が飲めないってかー!」
「黙レ未成年」

 酔ってやがる。
 未成年の飲酒、ダメ。ゼッタイ。

「ビール飽きたー。捩斬!」
「ン?」
「アルコール入ってるのだったら何でもいい、買ってこい」
「泥水でも飲んデロ」
「んだとこらー!」

 夕暮はキレたと思うといきなり刀を抜いた。

「御乱心御乱心!」
「城内でござる! 城内でござる!」
「抜刀禁止ー!!」

 ボクは財布を持つと部屋を出た。斬られたら堪らない。
 まぁ、10本ぐらい買ってくれば事足りるだろう。ボクはフロントで女将さん(らしき人)に会釈して靴を履いて外に出た。

「買い出しかい?」

 罪久がいた。

「ナ……!?」
「やっほ、ネジくん」
「ど、どうシテ?」
作品名:Gothic Clover #03 作家名:きせる