じゃんけんで勝つ方法
男はアイスコーヒーを一気に飲み干し、大きく息を吐き出した。
『彼女は感情が顔に出やすいタイプなんだ。すぐにわかる。だから逆にわかる。最近オレがこっそり合コンに行ったことも、そこでAちゃんと仲良くなったことも、あわよくば今日のデートをさっさと切り上げてAちゃんとお茶するつもりでいることも、彼女は全然気がついていない。これまでだって浮気がバレたことなんてない。もちろん今回もだ。……つまり、オレは彼女の……コイツの心の中を掌握しているのだ!』
男は力強く頷いた。
『つまりこの女はオレが裏をかいてチョキを出すことに気がついたんだろう。だからコイツはグーを出す。オレはパーを出せばいいってことだ……』
いよいよ勝負。
『……いや、待てよ』
男の脳裏に喫茶店に入った直後の女の言葉がよぎった。
――「今日はぜったい、あたしの買い物に付き合ってもらうからね」
『……コイツ、服ならいつも一人で買いに行くよな。オレが服選びに付き合わされることが何よりも嫌いだとわかってるから。それならなぜ、今日に限って服選びに付き合わせようと? コイツ、……彼女は時々不安になるとオレにどう思われているかを確かめようとするよな。「あたしのことなんか、もう嫌いになったんでしょ?」とかなんか言って。当然オレは、なにいってるんだよ好きだよ、みたいなこと答えればいいだけだけど……。じゃあ今日のは? オレが服選びに付き合わされるのが大嫌いだと知ってるのに、どうしても一緒に行くと言うのは……これはその、つまり、……オレのことを試さなきゃいけない理由があるということなのか? 』
『まさか、合コンに行ったこと、バレてるのか……?!』
『まてまて!落ち着け、オレ!とにかく、このじゃんけんに勝ってからだ。パーを出せば勝てるんだ。勝てるんだから……勝てる……はず。ううん、勝てる。他のことは……おいおい考えることにして……』
手はぐっしょりと汗ばんでいた。男はその汗をこっそりジーンズで拭った。
「じゃあ、いくよ!」女がグーの手をふりかぶった。
「お、おうっ!」
その瞬間、男は脳天に稲妻が落ちたような衝撃を覚えた。
『オレ、【チョキ子さん】相手にパーで勝負しようとしてる!!』
男は青ざめた。
作品名:じゃんけんで勝つ方法 作家名:カズマル