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Gothic Clover #02

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「……ま、見つかったのは昨日の深夜だからナァ」

 またいるよ、あの警官&刑事達。
 ……しかも前回と同じ人達だ。

「どうスル、掻太?」
「…………」

 無言だ。

「オイ、人飼」

 右回りに振り向いたが、そこにはあるハズの人飼の姿は無かった。
 逃げやがった。
 あの女ァ……
 まだ近くにいるハズだ。
 一瞬、彼女を追いかけようと思ったがやっぱりやめた。
 追いかけようと思えば追いかけられたが、追いつくのは無理だろう。
 ボクは溜め息をついて振り返った。
 そしたら掻太は既に警官に捕まっていた。あの莫迦……
 話し声が聞こえる。

「あ、いや、違います。別に意図して現場に来たワケじゃありません。本当ですってば! え? いや、何故かと言われても……おつかいです! ハイ! 酒刃地域限定ポッキーがここの酒刃にあるスーパーに売られていると聞きまして……ごめんなさい。嘘です。嘘でした。だからもう勘弁して下さい。胸倉つかむのやめて下さい! え? ちょっと! お願いしますよ!学校に連絡って……いや、本当、学校は駄目っすよ。卑怯っすよ……。ウソ! 卑怯ってのウソ! だからその携帯から手を話して下さい! 頼みますよぉぉ!!」

 アホだアイツ。
 まぁ、掻太があれだけ騒いでいればボクは見つからないだろう。ボクもさっさと逃げよう。
 戦いに犠牲は付き物だ。許せ掻太。また会おう。
 ……後でアイス奢ってやるよ。

「あ! 捩斬! おーい!!」
「…………」

 思わず『この莫迦野郎! 地獄に墜ちろ! この愚図が!!』と叫びたくなる気持ちを抑える。

「えーっと、キミもそうだね?」

 警官に話しかけられる。

「……ハイ」

ここはとりあえず言うことを聞いておこう。逃げると逆にやばい。

「またキミ達か」

 若い刑事風の男が声を張り上げるように言いながら近づいてくる。

「今回こそ学校に連絡させてもらうぞ! というか今の時間は授業中じゃねぇのかッ?!」

 掻太が悲痛そうな顔をした。
 まぁ、学校を途中で無断早退している掻太は確かにヤバイだろう。

「まぁ落ち着けよ狭史」

 気付けば、物分かりの良さそうな初老の刑事が近づいてきていた。
 ボク達を拘束していた警官と代わると、ボク達の前に立ちはだかる。

「まだ二回目じゃないか」
「しかし、」
「狭史、落ち着けと言っている。」
「……」

 どうやらこっちの、初老の警官の方が話はできそうだ。

「さて、キミ達」

 その警官はボク達の方を向いた。
 しかし、もしこの初老の警官の物分かりが良いとしても、言うことはどうせ回りくどい注意事なのだろう。

「君達、確かこの前もこの事件についての現場に来たんだっけ?」
「……ハイ」

 なるべくぶっきらぼうに聞こえるように言った。

「前回、生徒帳で確認してもらったけど、高校一年生だよね?」
「……ハイ」
「山舵高校一年、首廻捩斬と桐馘掻太か。俺は奏葉坂造(かなはさかぞう)っつーんだが、高校一年生と言えば、一番行動力豊かな歳だ。身の回りの事は何でも自分で確めたがる。実際、君達みたいに現場に無断でくる学生を俺は何人もみてきた。あっちは真棚狭史(またなはざし)っつってな、俺の後輩なんだが、アイツも君達みたいに現場によく忍び込んできたもんだ。狭史と俺は狭史が学生時代の頃から知り合いでね」

 こうやってわざわざ名前を教えて親しげに話すのは、少しでも当たりを柔らかくしたいからだろう。高圧的に話しても会話が良い方向に進まないことを把握している辺り、人格者と言える。
 とはいえ、それはただのクッション代わりのようなものであり、言いたいことはどこにでもいる大人と同じことを言うのだろう。

「ちょっ、おやっさん!」
「しかし、考えてみたまえ。君達のような高校生何人かが興味本位で起こした行動が……」

 ここでボクは耳からの情報の認識と理解を停止させる。耳は機能しているが、言葉の意味は分からない。理解出来ない。理解しようとしない。
 全く……。
 ボクは思考を開始する。
 大人という存在はどうして未成年者への否定を好むのだろう?
 飲酒を体に悪いと禁止し、成年誌を教育に悪いと禁止し、未成年者の犯罪が起きれば漫画や小説、ゲームを目の敵にしてわめきちらす。
 未成年者の犯罪。
 そのエネルギーはもしかしたらその大人への、社会への不満エネルギーなのかもしれない。
 じゃあ、結局悪いのは大人達なのだろうか?
 いや、違う。
 大人達は悪くない。
 彼等はよかれと思ってやっている。ただ、大人達の思考はボク達未成年とは違うだけだ。しかし、社会の常識や法律を作るのは大人達だけだから、ボク達は満足しないのだ。所詮はお互いの自己中心的満足がぶつかりあっているダケなのだ。
 全く。
 下らない。
 つまらない。
 世界は本当に笑えない程に腐っている。

「……さて、わかってくれたかな?」

 いきなりボクに声をかけられた。

「あ、……ハァ」

 適当に返事をした。

「……ふむ」

 ボクの受け答えがどうやら多少不満らしく、初老の警官は首をかしげた。

「まぁ、とにかくこれからは好奇心につられて無暗に行動をしないことだ。いいね?」

「ハーイ」

 これも生返事。
 ちゃんと返事をする気は無い。そもそも話すら聞いちゃいない。
 ボクは掻太と一瞬目を合わせた後、「それでは、失礼しました。ご迷惑かけてすみませんデシタ」みたいな意味の言葉を吐き出してからダッシュでその場を去った。
 ボク達が去って行く中、狭史さんが「いいんすか? おやっさん」みたいなコトを言っていたが気にしない。
 そのままボク達は歩き続けた。

 人飼は酒刃駅にいた。

「オラァァァァァ!!」

 掻太がサイヤ人の如く人飼に突っ込んで行くのを、ボクは襟首を掴んで阻止する。

「ただいマ」

 ボクは言った。

「お帰り」

 人飼は呟くように言った。

「ケッ、随分と逃げ足が速いようで」

 掻太が拗ねたように言う。

「あなた達が遅いだけでしょう?」
「でもだからって友を捨てるのかぁぁぁぁぁ!!」

 掻太は叫んだ。
 あんまり大きな声を出すな掻太。迷惑だ。
 人飼は一瞬驚いたような顔をした。しかしすぐにいつもの哀しそうな顔に戻った。

「ま、確かにそうね。悪かったわ」

 人飼はこれ以上面倒なことにはしたく無かったらしく、素直に謝った。

「で、収穫はあった?」

 人飼はボク達に聞いてきた。
 ふむ、なんて答えればいいものか。
 そうだ。

「たっぷりあったヨ」

 悩んだ末、ボクはこう答えた。

「ボク達のような好奇心溢れる高校生の有意義な時間の使い方を、今さっきそこの警官の方々からたっぷり聞かせてもらったサ。このありがたい知識こそ収穫と呼べるものなのかな?」

 皮肉いっぱいに言ってやった。
 人飼は首を振りながら手を上げることでボクに応えた。

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作品名:Gothic Clover #02 作家名:きせる