Gothic Clover #02
「オイ人飼、ボクのズボンにナイフがあル。取レ」
「え? あ、うん。」
人飼はボクのズボンの隠しホルダーからナイフを取り出した。
「これ?」
「それはお前が持ってイロ」
「いいの?」
「莫迦、自分の身は自分で守れって事ダ」
ボクは肩から仕込みナイフを口に咥えて抜き出す。
「ああぁぁあぁあああ!!」
奏葉坂造はナイフを手に向かってくる。しかし、決して闇雲に突進して来るワケではないらしい。
奏葉坂造がナイフを突くように振る。手錠のせいで両手が使えないボクは後方回転でそれを避ける。
ちっ、両手を塞がれたのはまずいかった。しかも左腕は負傷中。
どうする?──だなんて考えているうちに
「はぁっ!」
人飼がナイフを片手に奏葉坂造に攻撃をしていた。
まてマテ待て!!
何してんだオイ!!
「人飼! 何してんだヨ!!」
「自己防衛」
「絶対違ぇヨ。第一、相手は戦闘に関してはかなりできる相手だゾ?」
「その通りだ」
奏葉坂造がナイフを構えて言った。
「舐めないで欲しいものだなお嬢ちゃん。」
奏葉坂造はナイフを振るう。
人飼はナイフを避けて走った。奏葉坂造は人飼を追いかける。
「あー、モウ!」
ボクは足を降って立ち上がると2人を追った。
奏葉坂造は人飼を追うように走る。ボクは2人に追い着くだろうか?
奏葉坂造がナイフを振るう。人飼はそれをよける。だが、いつまでよけられるだろうか。それが心配だ。
人飼が跳躍した。勝負に出たか。人飼のナイフが大振りに振るわれる。奏葉坂造はそれをはじく。ナイフとナイフがぶつかる。更にお互いにナイフを振ってははじき合う。金属音が鳴り響く。が、しかし、人飼のナイフの振り方、どう見ても素人だ。このままじゃ、人飼が殺られるのは時間の問題だ。
ボクは走る。
奏葉坂造が人飼の足を払った。人飼が仰向けに倒れる。奏葉坂造がナイフを振りかぶる。人飼は、手元でナイフを上に構える。
「おおオォぉオぉおオオ!!」
ボクは飛び掛かった。もう奏葉坂造はボクの射程距離内にいた。ボクは咥えたナイフを噛み締める。
しかし、そこで奏葉坂造は振り向いた。ボクの方へと振り向いた。
「そろそろ来る頃だと思っていたよ」
彼は笑う。狂ったように笑う。彼は笑ってナイフを振るう。
しかし、ボクは笑わない。
ボクは奏葉坂造の足を払った。
本当の狙いはそれだ。ボクの口に咥えたナイフなど脅威にも及ばない。素手の方がまだ攻撃力がある。だから、ボクは気付いた時点で任せた。
人飼に任せた。
人飼は、手元でナイフを上に構えた。だから、つまり、そういうコトだろう。
奏葉坂造は倒れる。人飼の上へと倒れる。
そして下では、人飼がナイフを構えて待っている。
奏葉坂造の喉から金属が生えた。
「………………!!」
奏葉坂造は何も言う事ができずに血を吐き、もがき、そして、
死んだ。
奏葉坂造は死んだ。
心臓の鼓動は止まり、血液の流動は止まり、呼吸活動は停止して、脳波はなくなった。
奏葉坂造は殺された。
ボク達が、殺したのだ。
「大丈夫人飼?」
「あー、やっぱり人を殺すって、あまり気持ちいいものじゃないわね」
人飼は奏葉坂造の屍体の下から這い出ると、血の付着した服を気持ち悪そうに見た。
「当たり前ダ。人を殺すって結構面倒臭いんだゼ。後始末トカ」
「らしいわね。人を殺して楽しいだなんて言うのは、」
人飼は奏葉坂造の屍体を見た。
「どこかの変態野郎だけね」
「ああ、全くダ」
「それじゃ、さっさと屍体を隠して帰りましょ」
「そうだナ」
ボク達は平然と、まるで面倒臭い宿題をこなすように屍体を廃車のトランクの中に入れた。その前にもちろんボクは人飼に手錠を解いてもらった。奏葉坂造の深緑色の車は適当に窓ガラスを割って、粗大ゴミの中に混ぜておいた。こうして見れば、さっきまで正常に動いていた車とは思えない。
「さぁテ、帰るカ」
「うん」
ボク達はバイクに乗る。人飼の服に付着した血は、人飼がボクの後ろに座ればボクが盾になるので、隠すことができるだろう。
ボクはバイクを発進させた。
バイクはボクと人飼を乗せて、奏葉坂造を後にする。
ボクは記念に、奏葉坂造の拳銃をもらっていった。それはずっしりと重く、ボクの腰のベルトに存在している。
作品名:Gothic Clover #02 作家名:きせる