Gothic Clover #01
3
午後7時
ボク達はマックでハンバーガーを頬張っていた。
「夜に学校に忍び込ム?」
ボクは人飼の提案に驚いていた。
「うん。もうちょっと詳しく調べたいの。理科室だけじゃなくて、被害者の人のクラスとかも。」
「俺は賛成だぜ。」
掻太はノリ気だ。
もともとコイツはこういうコトが好きな奴なのだ。
「私の家は普通に『友達の家にいて遅くなる』って言えば大丈夫だから」
「俺ん家の親はそういうの無頓着だし」
二人は俺を見る。
「承諾しなければ殺す」と目が言っている。というか、掻太の目怖っ。
「承諾しなければ殺す」
実際に掻太に言われてしまった。
いや、家族については大丈夫なのだが、なんと言うか気分が乗らないのだ。
実際ボクは面倒事は遠くから眺めていたいタイプで、巻き込まれたくはない。夜の学校に忍び込むというのは、授業をサボるよりリスクが大幅に高い。
二人が現場検証に行くのは大いに結構だが、できれば僕は同伴せずに結果と情報だけ欲しいところなのだが。
「行くよな?」
掻太、頼むからその目をやめてくれ。
怖い。
「……わかったヨ」
ボクは渋々承諾した。
++++++++++
「とまぁ、そんな会話がつい三時間前にありましたとサ」
ボク達は校門の前にいた。
「よし、警備員見回り終了時刻になったわ」
人飼、お前どこからそんな情報を?
「今から二時間の間、警備員は部屋から出ない。さ、行くわよ」
校門を飛び越える人飼。それに続く掻太。
ボクは溜め息をつきながら校門に足をかけた。
ドサッ
落ちた。
正確にはコケたと言った方がいい。飛び越える際、足が校門に引っ掛かったのだ。
「……痛イ」
「何やってんだ?」
「コケた」
「大丈夫かよ」
「大丈夫。ボク、マゾだかラ」
立ち上がって前を見る。
「さぁ、行こうカ」
「てぃっ」
「あブふッ」
いきなり人飼に頬をはたかれた。
結構痛い。
「……ボク、キミに何かしタ?」
「いや、マゾだって言うから……」
「冗談のつもりだったんだけド」
健全な高校生活を送るため、一応冗談だと言っておいた。
実は結構うれしかったということは絶対に秘密だ。
「時間は限られているんだロ?早く行こウ」
ボク達は校舎の方へ急いだ。
++++++++++
生物教室にはやっぱり何もなかった。他にも化学教室、物理教室と探していったが、大した物はなかった。
そーゆーワケで、ボク達は被害者のクラス、2年2組の教室の前にいた。
「被害者の出席番号ハ?」
「え〜っと、5番だって」
掻太は教員室から持って来た出席表を見ながら言った。
ボクは5番にあたる机の中をゴソゴソと調べた。
ノートやら何やらがいろいろと出て来た。ノートをパラパラと開く。ふむ、授業の内容がきれいにとってある。どうやらボク達とは違って真面目な生徒だったようだ。
ボクがノートを見ている間にも、人飼が机の中をゴソゴソと探っていると、何枚かのプリントがこぼれ落ちた。
「ん?」
人飼は、その中から一枚のプリントを拾いあげた。
部活継続届だ。
どうやら手芸部のものらしい。
「へぇ、手芸部か」
掻太が覗きこんできた。
「手芸部とはまたマイナーな部活に入っていたもんだ」
演劇部のお前に言われたくはないと思うぞ。
「手芸部ってたしか家庭科室でやっていた部だよね」
ボクはあまり仮入部はしていないからよくわからないケド、どうやらそうらしい。
「行ってみる?」
ボク達はそうするコトにした。
++++++++++
家庭科室にて、冷蔵庫の中身を見ていた。
家庭科室と言えば料理をしたりする部屋なワケで、そこには当然料理をするためのキッチンや道具があるワケで、そして当然そこには調味料を保管するための冷蔵庫があるワケだった。
冷蔵庫の中には様々な調味料が保管されていた。
砂糖 塩 醤油 味噌 ソース ケチャップ マヨネーズ 酢 ポン酢 味醂 七味 辣油 山椒 チリペッパー……
こんなに調味料がある冷蔵庫も珍しい。
生徒がなくしたのか、キャップの代わりにサランラップで蓋がしてある物もある。
「ないね……目」
人飼はつまらなそうに呟いた。
掻太は既に家庭科室の探索を開始している。ボクもすぐに同行することにした。
一時間後
収穫は乏しいものだった。
わかったコトと言えば、家庭科室にある包丁、スプーン、フォークなどは眼球をえぐり取るのに使えるというコトだけだ。
「もう帰ろうぜ」
掻太は飽きてきたようだ。
ボクは構わず家庭科準備室の教員用の机を荒らしていた。すると、引きだしの中から成績表を見つけた。
「担当 瀬水傍嶺(せみず はたみね)」
どうやら家庭科の教師らしい。でも手芸部の顧問というワケでは無いみたいだ。手芸部の顧問は別で形多症子(かたた しょうこ)という教師がいるらしい。
「そんなの見てどうするの?」
いつの間にか後ろに人飼が立っていた。
コイツ、気配がまるでねぇ……。
「それともこの教師が犯人だとでも?」
確かに、その可能性はある。
しかし、
「いや、ただの興味本意サ。第一にももし、この二人のどちらかが、あるいは共犯だとして被害者の眼球をくりぬいているのだとしてモ、証拠となるものが一つもなイ」
ちなみに、さっきからこの部屋をずっと探索しているが、眼球らしきものはどこにも無かったし、それを隠すスペースは化学教室と同じく二階に位置するこの家庭科室、家庭科準備室にあるワケがなかった。
あとはそれぞれの教師の自宅も調べられればいいんだが……
「そっか……。わかった。もう帰ろ」
人飼も諦めたらしい。
ボク達は家庭科室を後にした。
ん?
なんだ?
この感覚は。
ボクは廊下で立ち止まった。
「どうした?捩斬。」
掻太が不思議そうに言う。
なんと言うか、空気が死んでいる。
匂いが、気配が、空間が、
死を叫んでいる。
死が充満している。
ボクは廊下を走り始めた。
「!? 捩斬クン!」
「捩斬!?」
二人がボクの後を追って来る。
ボクは2年2組に駆け込んだ。
そこで、翳瀬萎理が、死んでいた。
もちろん眼球は無い。
遅れて二人がやって来る。
「オイ!捩斬・・・!!!」
「捩斬クン、コレ・・・」
「あア、翳瀬萎理ダヨ・・・」
「俺達が来た時、これあったか?」
「あったら気付いてるわよ」
人飼の言う通りだ。
というか気付かない方がおかしい。
ということは、この屍体はボク達が家庭科室にいる間にここに運ばれたというコトか?
犯人は学校にいた?
ボクは翳瀬萎理だった屍体を調べ始めた。今度も死因は喉の傷らしい。生徒手帳はあったが、変わったトコロは無かった。
「? なんだコレ。」
掻太が何か見つけたようだ。
「ドレ?」
「これ」
掻太が示したものは赤色の液体だった。
いや、液体よりドロドロしている。
一見したら血みたいだけど・・・
「ケチャップ?」
指で掬い取ってみたが、それはケチャップだった。
作品名:Gothic Clover #01 作家名:きせる