Gothic Clover #01
2
次の日。
登校したら、クラスは騒然としていた。
「おはよう掻太、なんなんだ?この騒ぎハ」
「おはよ。なんか行方不明になった人がいるんだって」
掻太は笑いながら答えた。
「行方不明?」
「うん。昨日から帰って来てないらしいよ。眼球が無くなって見つかるのは明日か明後日ぐらいかな」
なるほどね。
こんな話が上がっても、ボク達は蚊帳の外だった。
++++++++++
昼休み。
ボク達はいつも通り屋上で弁当を食べていた。
いや、いつも通りではない。今日は人飼が一緒だ。
「人飼音廻か。俺は桐馘掻太。よろしくな」
「ふぅん……あなたが捩斬クンの友達ねぇ……。なるほど、ね。よろしく」
二人は丁寧に正座をしてお辞儀をしている。
握手とかでいいだろ普通。
タイミングを見計らってボクは聞いてみることにした。
「……で、今回の被害者は誰?」
「2年2組の翳瀬萎理(かざせしおり)だって。最後に見たのが昨日の帰りのHRで、それからもう音信不通。誰も見てないってさ」
「へぇ・・・」
「犯人はまず、狙った娘を誘拐して、その後に殺して眼球を取るらしいよ」
ボクはその話を聞きながら、手元にある雑誌の記事を見た。
「連続猟奇殺人!犯人は眼球をこよなく愛する殺人鬼!!」とまぁ、よくあるテンポの悪い見出しの後に死体の写真がデカデカと載っていた。
こんな写真、よく許されるなと、つくづく思う。
「おかげで女子は明日からしばらく登校禁止だって。まだ入学したばかりなのに……」
人飼がつまんなさそうに呟いた。
でも、それが学校側として適切な処理といったところだろう。
空を見るとヘリコプターが飛び交っている。
最近、この事件のおかげでボク達の学校も随分有名になった。
予鈴が鳴る
「次の授業何?」
「自習」
「かったるい……」
「じゃあ、もう少しここで事件について話さない?」
人飼が提案した。
確かに、自習ということは、どうせ教師共は今回の事件について会議でも開いているのだろう。つまり、先生は会議で、教室に来ないのでサボってもこの前みたいに先生なんかに怒られるコトにならないのだ。
……多分。
ボク達はボク達なりの「会議」を始めた。
++++++++++
「犯人ってやっぱ男かな?」
「ドコにそんな根拠があるのよ」
「だって女子ばっかり狙われてるんだぜ!?」
「だからって男? レズという可能性もない?」
「犯人性別不特定……ト」
「なんで眼球なんか欲しいんだ?なんか実験材料にでも使うのかな?」
「きっと眼球フェチなのよ」
「気色悪いなそれ」
「あなたって何フェチ?」
「俺は足……変な事言わせるな!!!」
掻太、お前足フェチだったのか。
「犯人動機不特定……ト」
なんだか埒が明かない。
さっきからこの調子で時間が無駄に流れてゆく。
ボクは無駄が大嫌いなのだ。仕方なく口を開くことにした。
「現場の位置とかどうなっているノ?」
「学校の回りをぐるりと囲んでいるよ」
「やっぱり、犯人はこの学校の中にいるんじゃね?」
「今からまわって見ていこうかしら」
「そうしてみますか?」
「いや、いったところで無駄足だヨ。証拠になる物は全部警察が回収されているサ」
「そっか……」
「なんとかして会えないかしら」
そういえばどうしてボクは人飼のためにわざわざこんな事をしているんだろう。
もしかしたらボクは人飼の事が……
はい、ありえません
ラブコメじみた考えに走った自分が少しおかしかった。ボクが人間を好きになることなど絶対にありえないのだ。……いや、だからといって二次元に走るコトも無い。変な誤解はよしてくれ。でも二次元に走る人の考えもわからないこともないよな〜。だってああいうゲームやアニメの中の女の子って殺しても……なんでもない。
ま、きっとボクも犯人に会いたいのだろう。
それこそ何故……いや、それは今はどうでもいい。
……そういえば、犯人はどうして眼球を取るのだろう。
やはり、愛でるためだろうか。
どうやって?
眼球を直接持って頬擦りでもするのか?
いや、そうするとせっかく手に入れた眼球が傷ついてしまう。やっぱり腐らないようにホルマリン漬けにするか、冷蔵庫にでも入れておくだろう。
それに、掻太の言っていた「犯人はきっとこの学校の中にいる」という考えは、あながち間違いには聞こえない。
現場の位置を見てもそうであるし、何より、その方が面白い。
それに、身近な奴から洗い出していくというのも一つの方法だ。
「……取った眼球はどうやって保管しているんだろウ」
「ん?やっぱホルマリンとかに漬けて瓶詰にでもしてるんじゃない?」
「ホルマリン……理科室?」
「……あ」
掻太も気付いたようだ。
確かに理科室にはホルマリンもあるし、冷蔵庫だってある。
「よし、行ってみるカ。」
ボク達は屋上を後にした。
++++++++++
冷蔵庫の中はからっぽだった。
何も入って無い。
ボク達三人は生物教室にいた。
生物教室内をいろいろと調べてみたが、ホルマリン漬けの標本の中に眼球らしき物はなかったし、冷蔵庫の中はさっき言った通り何も入っていなかった。
他に物を隠せそうなスペースは残念ながら見当たらなかった。
「どっかに隠し部屋とかないかなぁ。」
「ここ二階よ。そんなスペースあるわけないじゃない。」
「むぅ……」
人飼の言う通り、生物教室は校舎の二階、それも端の方に位置していた。地下室や秘密部屋など造れる環境ではない。
「そもそも俺達、教師が犯人だって前提で動いているよな」
「だって襲われているのはこの学校の生徒ばかりなのよ」
「ま、そう考えるとそうなんだろうけど」
ボクには別の説も思い浮かんでいたが、面倒なので口にしないでおく。多分、言い始めたらキリが無い。先に「犯人はこの学校の教師である説」を潰しておくのも一つの手だ。
ボク達はいつの間にか戸棚に置いてあるホルマリン漬けの標本に興味が移っていた。
「コレ何?」
「ネコだって」
「ネコの内臓って小さいな」
「そりゃネコですカラ」
「あれ?・・・コレ、眼球!?」
「ウシの眼球よ」
「なんだ、違うのか」
「こんな所に犯人が被害者の眼球を堂々と置くワケないでしょ」
「だよなぁ・・・」
この二人、結構楽しそうである。
ボクはトカゲの標本に目を移した。
瓶の中ではトカゲが内臓を出してくたばっている。
チャイムが鳴る。
「さーて、帰りますか」
掻太がぐ〜っとのびをする。
「結局収穫無しカ」
ボク達三人は教室に帰って行った。
教室に帰ると生徒達が移動を開始していた。どうやら体育館で全校集会があるらしい。まぁ、普通そうだよな。どうせ「帰り道に気を付けろ」とか「集団行動をしろ」とか下らなくて意味の無い話が展開されるのだろう。
ボクは憂鬱な気分で体育館に向かった。
ボクは人込みが苦手なのだ。
作品名:Gothic Clover #01 作家名:きせる