Gothic Clover #01
なるほど。だんだん彼女が解ってきた。
彼女は死体を創る殺人鬼にただ興味があるだけなのだ。
しかしタブーは存在する。人を殺すこと、または人を殺す人に興味をもつこと。それは社会的には非常識であり異分子とされる。
禁忌に触れたいと思うからこそ生まれるどす黒さ。
いいねぇ。
気に入った。
「でも証拠になる物はみんな警察が持って行ったんじゃないかナ」
「そうみたい」
残念そうに言う彼女。
本当に残念そうだ。
「捩斬クンは第一発見者なんでしょ? 何か見てない?」
「いや、ボクはキミ程調べてないし……」
「そう……」
ボクは足元に転がるゴミをつま先で弄りながら会話を続ける。
ゴミ……スーパーで売ってるマヨネーズのキャップだろうか。
こんな場所にわざわざ不法投棄するより、普通にゴミの日に出した方が楽だろうに。
「帰ろうヨ。次にまた情報が出るのを待とウ」
「そうね」
僕達はその場に背を向ける。
次の情報が出るのを待つ……つまりそれは、次の被害者が出るのを待つということであった。
++++++++++
「で、彼女とはどこまでいったの?」
放課後。
ボクと掻太は帰り道に着いていた。
「変な言い方をするなヨ。ボクと人飼はそんな仲じゃなイ」
「チッ。つまんねぇ」
掻太は笑いながら呟いた。
「しかし、デートに殺人現場ねぇ……」
「だからデートでもねぇヨ」
コイツの「色恋沙汰になるとしつこい」という性格は困る。
まぁ人間は大抵そうなんだけど。
「でもなんで眼球なんて取るのかねぇ」
ん? あぁ、事件のコトか。
いきなり話題が変わってビビった。
「お前、眼球とかって欲しいと思う?」
掻太にそう言われてボクは人飼の瞳を思い出していた。
……もしかしてボクはあのどす黒い目を欲しがっているのだろうか?
だとしたら……
だとしたら最高に笑える。
でもボクは笑わない。
笑えない。
「下らないネ。眼球なんか持ち帰ってどうするって言うんだヨ。ネクロフィリアもいいところサ。殺人者の気持ちなんてわからないネ」
ボクは答えた。
「ハッ。本当にそう思ってるのか? お前みたいなマゾ野郎が?」
掻太はボクの左手首を指差しながら言った。
そこには一閃の傷があった。
確かにボクは中学の頃に一回自殺しようとした。しかしそれは出血多量で気を失ったあとに止血されてなんとか助かってしまったというなんとも馬鹿馬鹿しい結末だった。
そしてその原因といえば、昔に起きた、ある殺人事件にある。ま、友人が殺されれば、当時中坊だったボクも気持ちが乱れるってモンだ。しかもそれが初めての殺人事件というわけではなく、実は小学生ぐらいの頃からボクの周りでは殺人事件が起きてるって言うんだから驚きだ。まったく、人飼の言う通りである。
「お前、本当はそういう犯人の気持ちとか解るんじゃねぇの? もう何回も殺人事件に巻き込まれてるんだろ?」
ボクが何故このような一見愚民にしか見えない男と付き合っているのか? それは、コイツは他人の心を見抜くスキルがちゃんとあり、そして他人との距離の取り方が判っているのだ。だからこそボクは彼と行動を共にしているし、友達として見ている。
「あ〜そうか。お前自覚がない……というより自分でも判ってないのか」
まぁ、だからといってなんでもお見通しってのは困るのだが。
今回は少し踏み込み過ぎだぞ、掻太。
「別にキミには関係無いヨ」
「冷たい回答だねぇ」
何をいまさら。
「そういえばキミ、部活ドコにするツモリ?」
掻太は演劇部に所属していた。もしかしたら人の心を見抜けるのは演劇をやって登場人物を演じてたからなのかもしれない。
いや、関係無いか。
「ん?あぁ、部活ね。やっぱ演劇部かな? でもこの学校の演劇部、大会とか出てないみたい」
「ふぅん」
演劇って大会あるんだ……。知らなかった。
「ちょっと待テ。じゃあ中学の頃は大会であの劇やったノカ?!」
「うん? 何の劇?」
「ホラ、『演劇界初の試み!』とか言っテ、テーマを『スーパーロボット大戦』にしてやったヤツ。わざわざハリボテでロボットの腕とか足とか著作権ギリギリで作って練習してたじゃないカ」
「ああ、あれか。あれは燃えたね。ただ時代が早すぎたかな、審査員にはウケが悪くてねぇ。参加賞だったよ」
当然の結果だと思う。
その後ボク達は大通りの十字路で分かれてそれぞれの帰路に着いた。
作品名:Gothic Clover #01 作家名:きせる