Silver. unwritten,white.
『煙草なんて吸わないほうがいい』。
ライターを見せてくれながら、彼は言った。
「いいものじゃない。手放せなくなるし、匂いが始終とれない。体に悪い」
「じゃあどうして吸ってるの」
抗議の意味を込めて訊ね返す。まるで彼と自分の、大人と子供の差を示されているようで嫌だった。
勿論、彼がそんな人間でないことは知っている。先生なのに偉そうでもなくて、子供相手でも適当に合わせたりする人じゃない。けれどどうしたって私には、それは大きな壁に見えてしまうから。
拗ねるばかりの子供を余所に、彼は笑った。
「弱いからだよ。縋りたくなる。何かに依存しないと、生きていけない」
目を眇めて、部屋の隅に視線を逃がした。かけた眼鏡のレンズ越しに黄昏が透けて映り込んでいる。
淋しい色だった。
「煙草吸ってても強い人だっているよ」
とっさに口にする。そう言わないと駄目な気がして。
したたかに生きているようで違う、泣きたくなるような色。
私よりも深くて、私よりも脆い。時折見えてしまう、彼の。
「そうかもね。けど、俺はそうじゃない」
その自嘲的な瞳が、いつまでも目蓋の裏に焼きついて消えない。
“何に弱いの。”
最後まで聞くことは出来なかった。
作品名:Silver. unwritten,white. 作家名:篠宮あさと