イミューンシステム
「こんにちは。ようこそID38485bbo9福見マルセオさん」
俺が通信回線を開くより早く脳内に声が響く。脳内通信回線の強制オープンの権限などセントラルぐらいにしか認められていないはずだが。
「福見さんの疑念はごもっともですが、ここに至る過程やこのような環境。野暮な詮索は無用でお願いできますか?」
まともでない事など端から覚悟の上じゃないかと自分に言い聞かせ、無機質な声の主に従う。
「わかった。余計な詮索はしない。俺はあんたの言う「リアル」ってのが何なのかが気になるだけなんだ」
「いいでしょう。早速ではありますが「リアル」を提供させて頂きます」
「ああ、頼む」
この時正直な気持ちを言えば、様々な疑問が頭をよぎっていた。匿名システムを掻い潜ったID付きの書き込みに始まり、排他地域に構えられた施設や個人の脳内通信システムへのハッキング。いくつの法に抵触するのか。そもそも技術的にそんな事が可能なのか?
「では、これよりとあるゲームを提供させていただきます」
俺の内心の不安などお構いなしといった具合で、無機質な声は説明を続ける。
「これより福見さんにプレイしていただくゲームは福見さんのPCC及び小型擬脳素子のEPD(ElmentalPersonalityDate)にアクセスさせていただくことで初めてプレイが可能になります。PCCと小型擬脳素子の外部アクセスをオープンにしたまま部屋の中央の椅子へ」
エレメンタルパーソナリティデータだと。なんだ、それは。PCCと小型擬脳素子にそんなデータ領域があるなんて聞いたがことない。
「さぁ、福見さん」
俺はもう一度思考を停止させた。わからないことを聞き始めればきりがないし、わかった所で何になるというのか。
案内に従って、外部アクセスをオープンにして椅子に腰掛ける。
「それでは、どうぞお楽しみください」
目を閉じPCCのコンソールビューを開き、外部アクセスからゲームのデータを受け取る。「ICSystemFile」と銘打たれたファイルを開き、俺は「リアル」を感じられるという謎のゲームのヴァーチャル世界へと感覚ごと落ちていった。