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ファーストウッド
ファーストウッド
novelistID. 9116
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variable―ヴァリアブル― 1

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 「ん?あれっ!?・・・どこだ・・・ここ?」
 (さっきまで自室にいたのに・・・なにが?)
ほんの数秒前のかすかな記憶、ゲーム機のスイッチを押した途端
激しい光に呑まれて辺りが真っ白になったと思ったら・・・、
今いる教室のような部屋にいた。
窓や扉は無く、壁と天井は一面真っ白。
床は草原のようになっていてとても不自然な光景だ。
そして部屋の真ん中には一組の机といすがあり、
そこに現在、僕が座っている状態にある。
 「・・・・・・・」
現在の状況を理解しようと試みるが、
ここにはヒントとなるものが少なすぎる。
 (さっきのあの光・・・ゲーム機から出てたよな?
  て、ことは・・・。<ヴァリアブル>が原因な可能性が高いと。
  またはあのときゲーム機がショートして爆発か何かがあって、
  僕は死んだとかありきたりな展開とか?
  まあでも、ショートくらいで爆発なんてまず起きないか)
いくら思考を重ねてもどれも予想の域を出ないものばかりだ。
死後の世界だとか、ゲームの中だとか、
実はさっきまでの世界が偽物で今いる場所が現実だとか、
どれもフィクションの見過ぎな考え方だと自分でも思う。
しかし、この状況だとどんなに現実離れしている考えでも
ほんとっぽく思えてきてしまう。
思考に頭を悩ませしばし天井を見上げていたが、
首が疲れたので前に向き直ると、机の上に紙とペンが現れていた。
突然の出来事に少し焦ったが、これは新たな状況理解のための重要な糸口でもある。
さっそく紙を見てみると<ヴァリアブル>に入っていたあの紙と
同じ内容が書かれてあり、下の方に新しく署名欄が足されていた。
 「名前を書けってことだよな・・・」
僕はしばらく悩んだがここでこうしていてもしょうがないので、
名前を書くことにした。
『お名前 彩涼工児 』
名前を書き終わると紙とペンは消えてしまった。
かわりにいつのまにやら、扉が1つ現れていた。
正面の壁に不意に出現した扉、かなり怪しいが出口はそこしかない。
しかたなく扉に手をかけ引く・・・。
すると静かに扉が開いた。
                *
扉を開けるとそこはどこかの都市のようだった。
高層ビルが立ち並び道路がビルの間を走っている。
辺りは薄暗いが物が見えないわけでもなく不便はないが、
空には星ひとつ無くただ闇に覆われていた。
さらに人の姿がまったくなくゴーストタウンのようだ。
 「まじめにゲームの中とか、死後の世界ルートな気がしてきたよ・・・」
ふと先の方から、かすかな音が聞こえてきた。
僕は辺りを探りながら音のした方へと進むことにした。
                *
音の出所はすぐに分かった。
しばらく進んでみたところ道路の真ん中に紙が1枚落ちていたのだ。
風か何かで動いた時の摩擦音が聞こえたのだろう。
紙をみると先ほどまでの物と同じらしいことがわかった。
『              適性試験1
      この試験はあなたの能力を確かめるものです。
     下記に示されている場所にたどりついてください。
  注、試験ではあなたの安全を保証できませんのでご理解ください   』
説明の通り、下の方には地図が書いてあった。
とりあえず地図に書かれたゴールと思われる場所に向かうことにするが、
最後に書かれていた安全を保障できないという言葉がとても不安である。
もう一度地図を確認すると目的地はビルの中にあるらしいことがわかった。
おそらく前方に見える一番高いビルのことを示してあるのだろう。
30階くらいの高さがあるように見えるそのビルは少し距離があるが、
わかりやすくてよかったと言っていいだろう。
 「それにしても、ほんとに何もないなぁ。
  ビルがあって道路があるだけじゃないか」
周辺には車なんかはもちろん、木もなければ、ゴミすらも落ちていない。
さっき見てきたのだがビルの中にも何も無いようだ。
 (それに安全を保障できないってどういうことなんだろう?)
嫌な予感がした。できれば当たってほしくない予感だ。
 「まあいいや、早く行こ」
                *
ここにきてから30分は経過していた。
続けざまに不可解な事が続いていたことにより、
ここに慣れてきているようだ。
今この瞬間よくわかった。
現在、僕は目的のビルの目の前まで来ているが
先に進むことができずに困っているところである。
目の前に黒い獣のような巨大な生物が姿を現したからである。
しかもその生物は明らかに僕を狙っている。
 「そうか、安全じゃないってこのことだったんだなぁ」
のんきに構えていると、黒い獣は僕に向かって突っ込んできた。
さすがにあんな巨体に吹っ飛ばされたらただでは済まなさそうだ。
こんなわけのわからない場所で死んだりするのは嫌だし
とりあえず目的地には着きたい。答えは一つ。
 「逃げるか」
僕はとりあえず突進を避けるために右の方へ走った。
すると黒いのはこちらを見ていないのか、
方向を変えることもせずまっすぐに走りぬけて行った。
しかし僕がいた場所を過ぎると、
急停止しこちらに向き直りまた突っ込んでくる。
動きを見た限り単純な動きしかできないようである。
スピードはあるが横に避ければあたらない。
この程度の動きなら逃げることはさほど難しくはないだろう。
しかし目的地に着くにはこいつをどうにか足止めできないと難しいだろう。
 「よーし、なら」
僕はビルの壁を背に移動する。
やはり黒いのはさっきまで僕のいた所を過ぎると、
こっちへ向かってきた。
 「よし。きた」
僕は目的のビルへと全速力で走った。
後ろからは激しい倒壊音が響いてきた。
振り返ると先ほど背にしていたビルが無残にも瓦礫の山と化していた。
おそらくあの黒いのが突っ込んでビルが崩れたのだろう。
さすがに10階分の瓦礫に潰されれば動きは止まるだろう。
 (それにしても、よかったぁ。ひびが入ってるの確認しておいて。
  普通のビルだとそう簡単には壊れたりはしないだろうしね)
                *
地図によるとこのビルの最上階が目的地のようだ。
ビル内部にはエレベーターと階段があるのみだった。
エレベーターがあるだけで現実感がただようのは、
他のビルには階段しかなかったからだろう。
だがさっきまでのことを考えるとエレベーターに乗るのは危険に感じる。
仕方がないので階段で昇ることにした。
エレベーターを見たらこのビルが33階まであることがわかってしまい
少々・・・いや、かなり気が滅入ったことは言うまでもない。
                *
 「はぁー。やっと着いたぁー」
ここまで階段階段また階段のオンパレードだった。
しばらく階段を昇るのは勘弁してほしい気分だ。
辺りを見回すと廊下の突き当たりに扉が一つだけあった。
おそらくあの中が目的のポイントだろう。
扉の前まで行き、開けると、そこは初めにいた部屋と同じような場所だった。
しかし机といすが無く、代わりに白い球体がふわふわと浮いていた。
大きさは直径30cmくらい。
糸や何かで吊るされているわけではないようだ。