variable―ヴァリアブル― 1
商店街の夕暮れ
学園の前の通りを東へと進み商店街へと到着した。
周りのみんなはなにやらいろいろと荷物を持っていた。
リュオンさんが言っていたものだろう。
外からでは何が入っているのかはわからないが
おそらくクローズと闘うための武器だろう。
「さて彩涼君、だいたい雰囲気はわかったか?」
「ええ、なんとなくは」
「そうか、では念のためこの付近の地図を渡しておくから参考にしてくれ」
「あ、どうも」
地図には学園を中心に店舗一軒一軒まで細かく記されていた。
ちなみにこの商店街は『サンティールロード』という名前らしい。
「さて諸君、現在時刻は午後4時ジャストだ。
クローズの目撃時刻までまだ1時間半ほどある。
私は所用で少しいなくなるが
その時間を使って彩涼君にこの商店街を案内してほしいのだが?」
「はーいわかりましたー。
二人ともいいよね?」
「おう、全然OK!」
「・・・しょうがないわね」
案内は申し訳ないのでいらないと思っていたが、
三人から了承の言葉をもらったのでお言葉に甘えさせてもらうことにしよう。
やはり地図があるとはいえ、
社会の仕組みもわからない状態で町を一人でうろつくのは不安が大きい。
「では頼んだぞ」
そう言うとリュオンさんは商店街を外れ路地裏へと入って行った。
「さてと、エコはどこに行きたい?」
「えーと、案内の前に聞いておきたいことがいくつかあるんだけどいいかな?」
「ん、何?」
「この国ではどういうふうに買い物をするの?」
「え?そりゃあお店にある物をお金払ってに決まってるでしょ」
「そっか、資本主義なんだね。じゃあ次にそのお金を見せてほしいんだけど」
「あ、ごめん私、今お財布持ってないや」
「小銭だけだけど俺持ってるぜ。
ほらこれが1コイン、10コイン、100コインだ」
「ん?5コイン、50コイン、500コインってないの?」
「あー昔はあったんだけどな10年くらい前に無くなっちまったんだ、
あれなんでだっけ?」
「金属資源の減少が原因。
あとこれが紙幣、1000チケット、5000チケット、10000チケット」
「うわ、クリスやっぱりお金持ちだね」
「うるさい」
「ありがとう、質問はこのくらいかな。
また何か思いついたら聞くこともあるかもしれないけど、その時はよろしく」
「はいはーい、まかせといて」
「ああ、何でも聞いてくれて構わないぜ」
「・・・」
「んで、どこに行くんだ」
「そうだなあ、ここで食べ物が売ってるとこを見たいかな」
「レストランとか喫茶店とかってこと?」
「いやそうじゃなくて食材が売ってるところがいいんだけど」
「八百屋さんとかスーパーとかってこと?」
「そうそう」
「わかったよ、じゃあ近い順に教えるね」
「うん、よろしく」
*
ユリに先導され、肉屋、魚屋、八百屋、スーパー2軒と計5軒の食材屋を見終わった。
この国の物価とお金の価値がわからないため何とも言えないが、
物の値段は日本と大差ない数字となっていた。
「あ、そうだクリスティさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「・・・何?」
「宿直室に料理することができる場所ってあります?」
「水道とコンロがある小さい台所ならついてるけど?」
「そうですか、わかりました」
「なになに、エコって料理するの?」
「うん、料理は好きだよ」
「へー、それじゃあ今度何か作ってほしいな」
「うんいいよ。お礼の気持ちも込めてみんなにごちそうするよ。
まあ、お金が稼げるようになってからだけどね」
「うん、楽しみにしてるよ」
「俺も期待してるぜ」
「まあ、がんばりなさい」
「うん、がんばるよ・・・」
ふと、利夜と約束したことを思い出した。
(煮込みハンバーグ・・・作るって約束したんだよな。
怒るよな・・・約束破ると利夜、怖いからな・・・)
「どうかしたの?」
「あ、いや、なんでもないよ、何作ろうか迷っちゃってね」
「そう?ならいいんだけど」
「さーてと、食材屋も見終わったことだ。次いこうぜ、次!」
「そうだね、これだけじゃ少ないもんね」
「んー、じゃあみんながおすすめのとこを案内してほしいな」
「おう、まかせとけ!」
*
まず初めにたどりついたのはユリの行き付けだという店だった。
「到着ー。そこのお店が一つ目のおすすめ、<画材屋 ツートンブルー>だよ」
ユリが指差した所には水色と濃い青色で豪快に荒波が描かれた店があった。
ぱっと見では画材屋ではなくサーフショップか何かと間違えそうな店だった。
「場所覚えた?んじゃ、次行こっか」
*
続いて訪れたのはラニスのおすすめだという店だ。
「<ホット&クール>だ。俺的におすすめ度No.1のラーメン屋だ」
壁が赤と青で塗られ、模様が某ひげのおじさんを思い起こさせる。
ラーメン屋というよりファーストフード店ぽい店だった。
夕方だからかお客は多く店の前には小さな行列ができていた。
「ちなみに俺のおすすめのラーメンは普通の塩だ」
「へー」
*
次にユリのおすすめパート2の店<雑貨屋 クマのぬいぐるみ>だ。
名の通りクマのぬいぐるみをモチーフにしたアクセサリーなどが売っているらしい。
店内にある大きなクマのぬいぐるみが外からでも見てとれる。
*
最後にクリスティが教えてくれた店だ。
そこは<適材適所>という名の本屋だった。
見た目は小さな店舗だが奥行きがあり中はかなり広い。
入口からでは店の奥が見えないほどだ。
「ここは新書だけでなく、古本も扱っていて図書館並みの蔵書量があるわ。
ほしい本がある時はここで探すのもいいかもしれないわね」
「うん、お金が稼げるようになったら来てみるよ」
「まあ、がんばんなさい」
*
商店街の見学も一段落ついたころ、
タイミングを見計らったかのようにリュオンさんが戻ってきた。
「あ、リュオン先輩、おかえりなさい」
「ああ。彩涼君の案内の方はどんな具合だ?」
「もうあらかた見終わりましたよ」
「そうか、それならば時間も近いからな、準備に入ろうと思うが問題ないか?」
「はい、僕はもう大丈夫です」
「よし、では見回りを開始しようと思う。
全員で回っても効率が悪い、二手に分かれるぞ」
「わかりました。ところで二手にはどう分かれますか?」
「そうだな、彩涼君の様子を見たいからな、私は彩涼君と組むことにしよう。
残りは3人で行動してくれ」
「わかりました」
「先輩、俺もエコの実力見たいです。一緒に行かせてくださいよ!」
「まあ待て。クローズが必ず出現するとは限らないんだ。、
それにシューツァー君が抜けたら残りのメンバーが女性だけになってしまう」
「リュオン先輩、ラニスがいなくても特に問題ないですよ」
「そうね、いなくてもいいわね」
「いなくていいって・・・そりゃないぜ・・・」
作品名:variable―ヴァリアブル― 1 作家名:ファーストウッド