variable―ヴァリアブル― 1
着信から3分後。
「ただいまー。お待たせエコ」
ユリが男子二人を連れて戻ってきた。
一人は髪が短くぼさぼさで、背が高く、肉体派なイメージ。
もう一人は、おそらく1つ2つ年上だと思われ、インテリな雰囲気が漂っている。
もちろん二人とも制服を着ている。
背の高い方の男子は僕を見つけると爽やかに笑いながら近づいてきた。
「よお。おまえがエコか。俺はラニス・シューツァーだよろしくな」
「こちらこそ、彩涼工児です。よろしく」
「ん?エコって名前じゃなかったのか?」
「違いますよ、エコっていうのは、僕のあだ名です」
「おうそうか。じゃあ俺もエコって呼ばせてもらうぜ。
俺のことはラニスって呼んでくれ。
あと型っ苦しい話し方は無しの方向でたのむぜ」
「ああうん、わかったよ、ラニス」
続いてもう一人のインテリ男子が軽く咳ばらいをし、近づいてきた。
「では私も自己紹介させてもらいましょうか。
リュオン・ゼアード、この学園の3期生だ。よろしくたのむ」
リュオンという男子はそう言うと手を伸ばし握手を求めてきた。
「彩涼工児です、こちらこそよろしくお願いします」
僕は握手に応じ、挨拶をすませた。
あとこの場にいる人で知らない人は教卓の前に座っている少女一人だけだ。
「ところでエコはもうクリスとお話しした?」
ユリが教卓の前の少女を指差し尋ねてきた。
「えーと、ちょっとだけなら。まだ自己紹介とかはしてないけど」
「そっか、じゃあここで紹介しとくね。あそこにいるのは・・」
「ちょっとゆり!自己紹介くらい自分でするわよ」
「そう?じゃあどうぞ」
「・・・」
自分で自己紹介をすると言ったのはいいが
少女は黙ってこちらを睨んだまま自己紹介をはじめる気配が無い。
ユリたちも黙ってその様子を眺めている。
「・・・そちらからどうぞ」
少女がしびれを切らした様にそう呟いた。
「あ、うん。彩涼工児です、よろしくお願いします」
「知ってる」
だったら言わすな!と言いたくなるような切り返しに少し肩をすくめる。
しばらくすると少女はゆっくりと立ち上がり腰に手を当てた。
「・・・一度しか言わないからよく聞きなさい。
私はクリスティ・ルド・ファミニス、この学園の生徒会長よ」
クリスティと名のった少女はそれだけ言うとまた椅子に腰を下ろした。
「やれやれ、相変わらずだな。クリスのやつ」
ラニスが呆れたように首を振った。
*
自己紹介も終わり僕がここに来るまでの経緯を改めて話した。
ユリはうんうんとうなずくばかり。
ラニスは何かのスイッチが入っってしまったようで一人熱くなっている。
リュオンさんは真面目にメモをとりながら聞いてくれている。
クリスティは聞いてくれてはいるが、半眼で睨んできている。
「ということで、今に至るというわけです」
「くぅーっ、燃えるなその話!異世界か俺もいつかは・・・」
「信じられないが、
彩涼君の話を聞く限り100%嘘ということでは無さそうだな。
それになかなか興味深い、
これは・・・似たような前例を探すのが良さそうだな」
「私は信じられません。そんな突拍子も無い事」
「まあまあクリス、だから今から証拠を見せてくれるんでしょ?」
「え?ああそうだね。
これが話の通り剣に変われば少しはわかってもらえるかも・・・」
僕はヴァリアブルに手を置き頭の中でイメージを始める。
周りのみんなもヴァリアブルに注目する。
前回は意識をせず勝手に剣へと変わったが、
今回は自分でイメージしなければならない。
一度やったことがあるとはいえ、なかなか難しい事である。
(集中して・・・剣をイメージして・・・変われ!!)
変われと強く念じた瞬間、ヴァリアブルが激しく発光した。
その発光は一瞬で光ったかどうかもわからないくらいの短さだった。
そして、すでにヴァリアブルはアクセルセイバーへと形を変えていた。
「ほう・・・」
「すげえマジで剣になりやがった!?」
「っ・・・!?」
「わあ、すごーい♪」
みんなそれぞれ反応は違うが、少しは理解してくれたように思う。
「どうかな?これで少しは信じてもらえればいいんだけど・・・」
「俺は信じるぜエコ!」
「わたしもー」
「すべて信じたわけではないが8割は信じよう」
「私は・・・」
クリスティはいまだ納得しきれないといった様子で黙りこんでしまった。
「完全に信じてくれなくてもいいよ。僕だってこんな話
突然されたら、たぶん信じられないと思うから」
僕の言葉を聞いてクリスティは軽くうなずいた。
「それで?エコはこれからどうするつもりなんだ?」
「それが・・・まだ決まってないんだよ。
何かしたくても所持品がこの着てる服くらいしかなくてね」
「何も持ってないって、それじゃあ生活ができないじゃねえか」
「うん・・・それが一番心配なことなんだよ。
今はまだそんなに時間が経ってないけどこれから先、
お腹も空いてくるだろしね・・・」
さっきまではいろいろあって忘れていたが、
改めて今の自分の状況を見直してみるとなんて絶望的な状況だろうか。
まず自分の部屋に戻るという前に明日を生きていけるかが最大の問題だ。
「心配するなって、働ける場所なら探してやるからさ」
「わたしも何か手伝えることがあれば言ってね」
「ありがとう助かるよ」
「ところであなたはこれからどこで生活するつもり?」
「えーと、公園とかで野宿・・・になっちゃいますね」
野宿という行為は今までしたことは無いがこの状況だ、
四の五の言っている余裕はない。
「はあ。まったく、しょうがないわね。
学園の宿直室が空いてるからしばらくはそこを使ってもかまわないわよ」
「えっ!?ほ、ほんとに!?」
「ほんとよ、ほんと」
「ありがとう恩に着るよ!」
「ただ、公園で野宿なんてされたら利用者に迷惑でしょ。だからしかたなくよ」
どうやら宿無しの心配はなくなったようだ。
「クリスやっさしー」
「う、うるさい。生徒会長たるもの寛大な心は必要なのよ」
顔をほんのり赤くしながら言い訳なのか何なのかわからない言葉を連呼している。
「よかったなエコ、これで仕事が見つかれば生活面は心配なさそうだな」
「うん」
全てを安心するとまではいかないが少なくとも半分くらいは肩の荷が下りた気分だ。
*
「彩涼君の件は置いておいて、今回のこの集まりの議題だが・・・」
「ええ、そうですね。そちらの方が急を要すると思います」
何やら重要な話が始まるような雰囲気が漂い始めた。
「あの、僕はどうした方がいいですか?」
「そうだな・・・、彩涼君にも聞いてもらおうか」
「ちょっと、リュオンさん本気ですか?」
「ああ、彼の話に出てきた黒い獣・・・何か関係があるかもしれないからな」
「わかりました・・・」
どうやら話し合いに参加できるようだ。
何の話かはわからないがこれからどうするかも決めていない状態だ。
聞いておいても損はないだろう。
「ところで、何のお話をするんですか?」
作品名:variable―ヴァリアブル― 1 作家名:ファーストウッド