The SevenDays-War(緑)
鬱蒼と生い茂る森の中に一本の道が伸びている。
石畳で丁寧に舗装されたその白い道は、森の緑を切り裂いて奥へと続く。
「あれから、七年も経つのか」
アーノルドは一人、馬に任せた歩調で道を進んでいた。
その手には、先日受け取った通行証が握られている。
エルセント南西にある大森林、通称『蛮族の森』とは違うのどかな雰囲気に包まれている。道の左右に茂る木には、野生の小動物や小鳥などが見て取れる。
この奥で女神に出会えるのではないかという妄想に胸をときめかせてしまう。
七年前、アーノルドがエルセント北門の門兵長代理を務めていたころ、大地を抉り城壁を削る大嵐が起こった。実際の原因は、人ならざる者ルドラと統治神の放った刺客との戦いであった。
多勢に無勢、ルドラは神の刺客に敗れた。
しかし、神はルドラとの契約を破っていたためそれ以上手を出すことができず、人間の手によって封印するにとどまった。
アーノルドが向かっているのはミンミ修道院。
ルドラが封印されている場所だ。
森林の中を伸びる石畳の道をたどれば、鉄柵の門に行き着く。
門は閉じられてはいるが、鍵はついていない。訪れる者などいないからだ。
石造りの壁に掘り込まれている複雑な紋様が、聖教会の所有地であることをただ静かに告げている。
アーノルドは門を押し開ける。
門は微塵の音も立てずに開き、やがて自動的に閉じた。
「いつ来ても気持ち悪いな」
アーノルドは苦笑い見せた。
開かれた際に押し上げられた重石が、その重さで徐々に降りることで自動的に閉まるように蝶番に仕掛けが施されている。
キィとでも鳴ってくれれば雰囲気が出るのにな、とここを訪れる度にぼやき続け、早七年が過ぎていた。
内部に入ると、途端に物々しい雰囲気に包まれる。
ここミンミ修道院は、戦闘のエキスパートを育て上げるための訓練場であり、大聖堂直属の実働部隊の詰め所でもある。
騎士団の主目的は、魔獣などの人外生物の脅威を排除することにあり、大聖堂直属部隊の任務は、対人関係に限定されている。
諜報組織の戦闘部隊。それがここミンミ修道院の本当の姿だ。
本来ならば、騎士団に所属するアーノルドが足を踏み入れられる場所ではない。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近