The SevenDays-War(緑)
幾つもの厳重な扉を通り、地下へと続く階段を下る。
最下層には一つの灯りもなく、ねっとりと肌に纏わり付く湿った空気が充満している。
「アーノルドか」
闇から響く声は、来訪者の名を呼んだ。
「面白い物を持って来た」
アーノルドは闇に向かって返した。
「それは楽しみだ」
その声が響き渡るのと同時に、松明に炎が灯り周囲が照らし出された。
闇に浮かび上がる黒い鎧姿に、人間は畏怖を覚えざるを得ない。
半神半人の騎士ガーランド・アレックスルドラは、両腕を開いてアーノルドを迎え入れた。
「七年か。人間には長い年月なのだろうな」
アーノルドが持って来た自らの名が刻まれた通行証を手にし、ルドラはたった一言、そう漏らした。
「ユーノは、自分が生きていると伝えて欲しかったんだと思った」
「違うな」
ルドラはきっぱりと切って捨てる。
「ユーノは我の正体を知る者。かような意味のないことはせぬ」
「ではなぜ?」
ルドラはハハハと笑うだけで答えなかった。
「聖教会は一神教。なれば、ルドラの名を戦神と呼ぶは聖教会の者にあらず。我が同胞ゲルパドの民を祖先に持つ者か、聖教会と相対する一派に所属する者か。いづれにせよ、我と同じ“神を敵とする者”であろう。神と呼ぶ必要もないが、あと三年は我が主。契約は守らねばならん」
「何の話だ?」
「人間はパズゥの手で造られた。創造主に似て欲深く、己にとって都合良く真実を捻じ曲げる。親に反抗する子供のように、な。
統治神パズゥがこの世界そのものを創造した者ではないことを知った人間は、自らも神になれると思い込んだ。パズゥがそうしたように、古代の神々の力を制御できると思い込んだのだ。そうして、人間は七曜の方円を完成させた」
アーノルドの発言を遮るように、松明に灯された炎が音を立てて消えてゆく。
「パズゥに残された手駒は少ない。七曜の方円セブンデイズから召喚される古代神と戦える者など、数えるほどしかおらぬ。自らが造り出した人間の手によって、自らの支配を覆されるのだ。これ以上の見世物はない」
地下室は闇に閉ざされた。
出口を照らす松明の炎だけが弱々しく灯されている。
「戦いが始まる。この国を離れよ」
その声を最後に、ルドラの気配は消えてなくなった。
アーノルドは闇に向かいルドラを呼び続けたが、その声は虚しく地下室に響くだけだった。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近