The SevenDays-War(緑)
―― 黒が現れた。
それはあまりにも唐突に。
何の前触れもなく。
理不尽なほど圧倒的な存在感を一瞬で示した。
黒よりも黒い、漆黒。
炎のような妖気を身に纏う闇の騎士。
アーノルドは目の前の“黒”と同じ“者”を知っている。
「……ルドラ?」
その疑問は、脇に控える鎧姿の骸骨が抱えていた物体を目にすることで解決した。
「ウマ!!」
Y字型の柱に鎖で縛り付けられたウマは、意識を失っており返事はない。抵抗した際に負ったのであろう体中の傷からは、大量の血が流れ出て衣服を赤黒く染め上げていた。
「門が開く。いまこそ憎きパズゥの手から世界を解放するのだ」
黒は誰にともなく告げる。
「いまを生きる者は、そんなことを望んでいない!」
アーノルドは叫ぶ。
「パズゥに造られた人間よ。我ら黒炎の騎士は、真なる神、創造主の第一の僕にして代弁者なり。汝ら人間には、世界の行く末を決める権利はないと知れ」
「ポポマたちも争いを望んでいない! ポポマは古代の民なのだろう!?」
「ポポマはゲルパドの民。ルドウラやナウタラが何を言おうが知ったことではない。世界の解放は、我らの悲願なのだ。その方法が目の前にある。使わぬのは愚か者のやることであろう」
「させぬ!」
アーノルドは剣を構える。
「門が開くまでの余興にもならんが、相手をしてやろう」
馬を降りた黒炎の騎士は、両手に一本ずつの剣を構えた。その刃は微塵の光も反射していない。
「我は黒炎の騎士、アイ――」
一閃。
「騎士は廃業したんだ。悪いが名乗りを待つ理由はない」
黒炎の騎士の上顎と下顎が分断される。直後、大量の黒い煙を立ち昇らせて、黒炎の騎士は消滅した。同時に、召喚されていた骸骨兵も土に還る。
「百人いたとしても、ルドラの足元にも及ばんな」
アーノルドは鎖を断ち切ると、両腕でウマを抱え上げた。
そうしている間に、ウマがここにいることを知らないポポマの戦士たちは、エルセントの兵士たちを次々と切り倒していく。
魂に七曜の方円セブンデイズを刻まれた、“パズゥが造り出した人間”エルセント人。門と呼ばれる血筋を受け継ぐポポマが、その死のエネルギーを取り込むと、異界への扉が開く。
門となるポポマにも、鍵となるエルセント人にも、その一切を拒否することは出来ない。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近