The SevenDays-War(緑)
「断る」
アーノルドの口から発せられた明確な拒否。
それを受けたウマは、やっぱりね、という困り顔を見せた。
「自分で言うのもどうかと思うけどさ、いい女だと思うよ?」
「冗談は止めてくれ。いや、冗談で言っているのではないことは分かる。だが、そうしなければならない理由が知りたい」
「理由がないとアタシを抱けない?」
「当たり前だ」
アーノルドは強く机を叩く。
「アタシは門、アーノルドは鍵。門がアタシだけじゃないように、鍵もアーノルドだけじゃない。でも、アタシにとっての鍵はアーノルドだけなの」
「そういうことを聞いているんじゃない」
「エルセントの血を、精を取り入れることで、門としての能力は失われるの」
「なぜ俺なのだ」
誰に訊ねるでもないアーノルドの物言いに、ウマは悲しげな表情を見せた。
「そんなに嫌……なの?」
「……。」
潤んだ瞳に、アーノルドは答える声を失う。
「彼女が好きだったのね」
「話し方がそっくりだ」
「当然よ、彼女に教えてもらったんだもの」
「……彼女は、ユーノは苦しんだのか?」
ウマはふるふると小さく首を振った。
アーノルドは、ユノフィアが苦しまずに逝ったことにだけは、素直に良かったと思うことができた。しかし、もう一度、もう一目だけでも会いたかった、という思いはまだ拭いきれずにいた。
七年も昔に、たった一晩泊めただけの異民族の女。
挫けぬ心という名を持つに相応しい、真っ直ぐな目をした女。
認めないことで存在していた想いが形を得て、そして認めてしまったがために音も立てず崩れていった。
しばしの沈黙の後、アーノルドは自嘲するように笑った。
「なぜ、わかった?」
「だって、貴方が呼ぶ“ユノフィア”はアタシに向けられていなかったもの」
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近