The SevenDays-War(緑)
アーノルドは、眼下を進み行く五百の兵士を悲しげに眺めた。
その刃が農村を襲わない保証はなく、逆に農村を襲うという確証もない。
「また俺は、見送ることしか……できないのか」
固く握られた拳は、どこへと向かうことも許されず、静かに揺れていた。
ただ静かに、揺れていたのだ。
アーノルドとカーンの二人は、どちらからともなく歩き出して物見櫓を下り、執務室に戻った。
そうして、机を挟んで向かい合うように立っている。
「状況を整理しよう」
「そうですな。地図をご覧ください」
それぞれが用意された台本を読み上げるように声を発した。
カーンは机の上に広げた近隣地図に次々と筆を走らせる。
「大雑把ですが、薄く塗られた部分が我々の平時における警戒担当範囲。数字は焼き討ちを受けた村の場所とその順番」
「地図を見たところで、何も分からないな」
食い入るように地図を睨んでいたアーノルドは、顔を上げて後頭部を掻きむしりながら自嘲した。
「ポポマを労働奴隷として使役していたという共通点は、昨夜の襲撃によって覆されました。毎晩一つずつ村が焼かれていますから、恐らくは今夜も」
「標的が南側の村だと分かっていても、それを防ぐ手立てはない」
アーノルドの声に苛立ちが宿る。その苛立ちは、自身の無力に対するものだ。
「なぜ南側だと?」
カーンが疑問を投げ掛ける。
「騎士団が南進すれば、自治都市マイラへの侵攻と受け取られてしまうからな」
「それを知ってマイッツァー殿は南へ来た、と?」
アーノルドは、ふぅ、と大きく息を吐いて椅子に腰を下ろす。
「すべて計画の内なのだろう。考えてもみろ、これから焼き討ちにしようとする村に、わざわざ手駒を配する理由は?」
「捕らえた“特命騎士”殿は、『有益な人材がいないか確認するためだ』と言っておりましたな」
「農村の住人を労働奴隷としてしか見ていない連中だぞ? そんな奴らにとって有益に映るのは、美人の女ぐらいのもんだ」
カーンは相変わらずの無表情。しかし、アーノルドの言に異論はないようで、黙してその続きを待っている。
「捨て駒だったんじゃないか? 真の狙いを隠すための」
「マイッツァー殿の出陣を知らなかったこともありますし、その可能性は捨て切れませんな。しかし、真の狙いとはなんでしょう?」
しばしの沈黙が二人を包む。
「黄金の財宝」
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近