The SevenDays-War(緑)
朝が訪れた。
アーノルドは、物見櫓の上で東の地平から昇る朝日を背に受けていた。脇には事務官のカーンが控えている。
「アーノルド殿」
常に冷静であったカーンの声に、僅かに感情が宿っていた。
弟を、我が子を諭すような、そんな温かな声であると同時に、自身に対する戒めを行うような、そんな厳しさを持った声であった。
「まずは、やるべきことをおやりなさい。私憤に惑わされて動きを鈍らせるなど、騎士には許されぬことです」
視線を足元に落とし、何事かを考える様子を見せていたアーノルドは、唐突に顔を上げてカーンに顔を向ける。
「騎士とは、何だろうな」
それだけを言うと、西に広がる大森林に視線を飛ばす。
問いかけともつかぬ言葉は、他に答えを求めるものではなく、自らの中にある答えを再確認するためのものだ。
そのすぐあと、マイッツァー・ダリオが物見櫓を上がってきた。
「我らはもう間もなく出発する予定だ。貴卿の協力に感謝する」
アーノルドは騎士の礼を取る。
「微力ではありますが、お役に立てたのならば、光栄です。どちらへ向かわれるのか、お尋ねしても、よろしいでしょうか?」
嫌味なのか、敬語に慣れていないのか、アーノルドの言葉はたどたどしく、普段から表情に乏しいカーンの顔色からも、それを判断することはできない。
「蛮族の村がある場所を掴んでいる」
マイッツァー・ダリオは、その一言を残して詰め所を去った。
鉄で身を固めた兵士たちは、大地にその足音を響かせつつ進む。目的地は蛮族の森と呼ばれる大森林。
昨夜、アーノルドとカーンは一連の事件の全貌を知った。しかし、まだ隠されている部分は多いというのが共通の見解だ。
森の中に蛮族が住んでいた住居跡を作成し、それを炎上させる。
あらかじめ流しておいた蛮族の財宝の噂と結び付け、欲に駆られた不届き者の仕業とする。
蛮族による報復に見せかけ、農村を襲撃する。
その繰り返しだ。
マイッツァー・ダリオと五百人の軍隊の話は聞かされていないと言い、二人はそれを信じた。この期に及んで嘘をつく利点が見当たらなかったからだ。
まだ真実は明かされていない。ただし、これだけは言える。
これは人間の諸行ではない。
このようなことを企て、実行する者を、同じ人間と呼んではならない。決して許してはならない。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近