The SevenDays-War(緑)
通路の先には木製の扉。それは申し訳程度に備えつけられたものだが、辛うじて扉としての役割は果たせている。
部屋の中央には、男が宙吊りにされていた。その男は匿名騎士を名乗った三人の内の一人だ。全身に及ぶ青痣が、ここで何が行われていたのかを物語る。
「たったいま、気を失いました。これから下ろすところです」
「いや、目を覚まさせる」
アーノルドは手桶に水を汲み、吊られている男におもむろにぶちまけた。
宙吊りにされた男は顔を歪めながら目を覚ます。
「ただで済むと……思うなよ」
そして、眼前のアーノルドを見るなり暴言を浴びせる。
「バレるようなヘマはしないさ」
アーノルドは男の正面に立つ。
男は吊られているので、アーノルドが見上げる形となる。
「この程度の拷問で口を割ると思ったか」
「やはり隠し事があるのだな」
アーノルドはニヤリと笑う。アーノルド本人も、相手を怯えさせるこの笑みをいつの間に習得したのかを把握していない。
「つい先ほど、村が焼き討ちされたという報せを受けた。これで三つ目だ」
その口調からは、無理矢理に抑え込んでいる怒りがこれでもかと感じ取れる。
「ここで油を売ってる暇はないんじゃないのか? 中隊長殿」
「分かっているのなら、手間を掛けさせないで欲しいものだな」
男は余裕の表情を見せる。
それが虚勢かどうかは本人のみが知ることだが、アーノルドはどちらでも構いはしなかった。
「逆の立場だったら、すんなり話すか?」
男は青く腫れた口の端をつり上げて笑う。
「そうだな」
答えながら、背後に控える衛士に男を下ろすよう指示を出す。
「お前の主は恐ろしい人物のようだ」
「……」
「これほどの大掛かりな計画だ。しくじったお前を、ただで済ますはずはない。素直に白状して開放されでもしたら、恐ろしいご主人様のきついお仕置きが待ってるってわけだ。ここで拷問を受け続けた方がマシだと判断したのだろう?」
下ろされた男は、そのまま床に伏していた。座る体力すらも残っていないのだ。
「……へっ。おめでたい野郎だぜ」
「お前の憎まれ口が時間稼ぎだということは分かっている。夕暮れ前に、マイッツァー・ダリオが五百人の兵士を連れてやってきた。彼の名は誰でも知っている。エルセント随一の剣の名手にして、サンク卿の懐刀だ」
その名を聞いた途端、明らかに男の顔色が変わる。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近