The SevenDays-War(緑)
(三) 騎 士
物見櫓の上から詰め所の敷地を見下ろすアーノルドの目に映っているのは、五百を越える整列した兵士たちの姿だった。
「蛮族の襲撃を撃退、これを追撃し、本拠地を突きとめよと書いてあります」
書簡を手にした事務官が、その内容を要約して読み上げる。
陽光が整列する兵士たちの武装に鈍く反射し、アーノルドは眉をひそめた。
事務官は淡々と説明を続ける。カーンは二人のポポマを森まで送り届けに行っているため、いまは詰め所にいない。
「黄金の財宝を探し出せと言っているようにしか聞こえないな」
事務官はアーノルドの皮肉を受け流し、説明を続けた。
「最大限の協力を行うようにとの命令書もあります」
事務官が差し出した羊皮紙にはエルセント騎士団長の署名と印が捺されている。もっとも、アーノルドと事務官は、エルセント騎士団長の字体も知らなければ、顔も知らない。
「どう思う?」
「命令書のことならば、本物であると思われます」
「いや、そうじゃない」
アーノルドは、濁した質問をしてしまったことを少し後悔する。
舌打ちしそうになるのを堪えながら、カーンに同じことを聞いても同じような答えが返ってきたのだろうか、などと思いを巡らす。
「腰の重い騎士団に代わり、五百もの私兵を投入して治安維持を図る……か」
突如エルセントから派遣された五百の兵士たちは、さる御仁の善意によって収集されたものであると書簡には記されている。その御仁の名は記されていない。
軍を派遣して蛮族を刺激してしまうと、全面戦争に発展し兼ねないという理由で、エルセントは軍の派遣に踏み切っていない。
軍の派遣は、貴族会議で否決されたのだ。
「救国の士か、それとも……」
アーノルドは再び眼下の兵士たちを見る。
森の中に入って戦うことを前提とした軽装歩兵、または軽装騎兵で構成されている。
森に住まう蛮族は、平野部において有効となる集団戦術を持っていないため、重装歩兵の密集隊形や騎馬突撃に太刀打ちできない。
しかし、森の中では重装歩兵も騎兵もその能力を大きく制限されてしまう。
森の中と外では両者の優位性が逆転するということだ。
お互いに守りに関して絶対的とも言えるアドバンテージを持ち、その枠組みから逃れられるものは、奇襲による第一撃のみ。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近