The SevenDays-War(緑)
今度はアーノルドが素直な感想を漏らす。
「同胞の声なら届くはずです」
冷淡であったカーンの声に感情が宿る。
驚き振り返るアーノルドの目に映ったのは、初めて見るカーンの笑みであった。
「私は蛮族、ポポマです。四十年ほど前に森で捕まり、奴隷としてペディーニ家に買われました」
「そんなバカな……」
アーノルドは絶句する。
「信じられないのも無理はありませんが」
「いやしかし、外見が違う。もっと巨大でもっと筋肉質のはずだ」
蛮族の平均身長は二メートル強とされており、怪力とそれに見合った体型をしている。
「姿形は似れども、ポポマと人間は全く別の種族なのですよ」
カーンはアーノルドの前に進み出ると、檻の中の同胞に向けて声を発した。
「意外などと、よくも言えたものだ」
アーノルドは、たった今できた長年連れ添った相棒の背中に、そう呟いた。
「会わせたい者がいるそうです」
唐突に振り向いたカーンは、アーノルドにそう告げた。
「誰に?」
アーノルドの答えに、カーンはいつもの無表情を返す。
「貴方を探しているポポマの女性がいるそうなのです」
カーンはアーノルドに歩み寄り、そう耳打ちする。
反応を確かめるようにアーノルドの顔を覗き込んだあと、「心当りが?」と小さく呟いたカーンは、当人の返答を待たずに二人のポポマへと向きを変えた。
檻馬車の中の二人は、歓喜の表情を見せる。
「二人は貴方を捜して森を出たと言っています」
「俺を? どういうことだ?」
困惑の色を隠せないアーノルドとの温度差は、誰の目にも明白だった。
カーンが詳しい事情を説明しようとして口を開きかけた、まさにその瞬間、アーノルドの途惑いは一気に消え去った。
「いや、どんな事情があろうと、今ここを離れることはできない」
アーノルドは断言する。自身の迷いを振り払うように。
「此度の侵略は、決して許されるものではない。だが、それはエルセントの総意ではない。我が名にかけて、実行した者と企てた者を見つけ出す」
―― そうでなければ、会わす顔などあるまい
アーノルドは、かつてエルセント北門で出会ったポポマの女性を思い浮かべていた。
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近