The SevenDays-War(緑)
「ペディーニ卿が麦の出来高を調べる密命を受けていると聞いているが、あんたらもしかしてそれか? 協力を要請されていたんだが……」
三人の男たちは、互いに目配せして小さく頷きあった。
「知っているなら話が早い。開放してもらおう!」
「証拠は? 書面でもなんでもいい」
「我らは直々にお言葉を頂いて拝命したのだ。そんなものはない」
「直々に?」アーノルドは問い返す。
「そうだ」返事は間髪を入れずに返された。
アーノルドは一歩下がり、傍に控えていた事務官を右腕全体で指し示した。
「紹介しよう。ペディーニ・カーン卿だ。こんな安い手に掛かっていては特命騎士の名が泣くぞ。尤も、それも嘘なんだろうがな」
アーノルドは部屋の外で控えていた衛士を呼び、命令を与えた。
たった一言、吐かせろ、と。
「私の名前が役に立ったようで、なによりです」
アーノルドの補佐役兼事務総長であるペディーニ・カーンは、相も変わらず無表情のままだった。
しかしアーノルドは、その声に確かな親近感を感じていた。それはアーノルド自身の心境の変化がもたらしたものだ。
足早に廊下を抜け、建物から出る。
「連れてきた蛮族たちはどうするんだ?」
「彼らの言葉を解する者に心当りがあります。ご心配なく」
蛮族たちは、いまだに檻馬車に乗せられたままだった。奴隷商人によって加えられた暴行の痕が痛々しい。
近づくアーノルドを見る瞳には、恐怖も敵意もない。勿論、友好の意も。
「スナッテ」
よろしく、といった意味合いを持つ友好的な挨拶の言葉だ。それが皮肉なのかどうかは、言葉を発した者の目を見ればわかる。
二人の蛮族は、言葉を発したアーノルドに驚きの表情を向ける。
「テニポポマ。テニセッセ。ヘレ」
ポポマではない。言葉は分からない。待っていてくれ。そういう意味合いの言葉を告げる。
「リター、リター」
「水を飲ませてやってくれ」
アーノルドは呆然と立ち尽くしていた衛士に命令する。
「意外でしたな」
カーンは素直な感想を漏らした。
「これ以上の会話は無理だ」
「しかし、彼らも安心したでしょう」
「そうでなくては困る。それで、彼らに何をさせる気だ」
「森に帰ってもらいます。そして、村を襲う集団がいるということと、我らと共通の敵であるということを伝えてもらうのです」
「我らの言い分を信じてもらえるかな」
作品名:The SevenDays-War(緑) 作家名:村崎右近