ふるさと
Act 4 金色の草原
グラウンドを横目に南へ歩き、再び十字路に戻ってきた。道の交わる中央では、先ほどのUFOが赤く点滅を始めている。
あたりは充分に明るいが、暗くなるのを待ちきれなかったのだろう。
私はそのまま南に向かって直進した。
目の前に、すでに稲が刈り取られた後の田園が広がる。
剥き出した土と残された稲の根本は、コンクリートで舗装された農道によって押さえつけられ、天空へ舞い上がることを許されない。
園児の頃、半日で一面の稲穂が無くなってしまったのは、空へ吸い込まれたからだと思い込んでいた。
農道を歩くと、時折強い風が吹き抜ける。
この風にのって空へと舞い上がれるのだと強く信じていた風だ。
自分の周りを黄金色の稲穂が囲み、それら全てが風に揺れている。
稲穂は揺れるたびにざわざわと声を出し、それは風と稲穂の会話のようだった。
天空へと舞い上がる日を相談しているような、悪戯を考えているような、ちょっと秘密めいた会話。
稲穂のステージで、風という名の踊り子達が舞う。
どんなに目を凝らしても、決して見ることの出来ない踊り。稲穂のステージに、その動きの軌跡だけが残る。
目を閉じ、稲穂の囁きに耳を傾けると、確かに風は踊っている。
天空へ舞い上がる儀式。
この時期だけ出来あがる黄金色のステージ。
月と星のスポットライト、踊る風に併せた稲穂の伴奏。
神秘的な雰囲気の中では、嘆きも、怒りも、その他のあらゆる感情を曝け出せた。
家族にも友達にも言えない秘密さえも。
この場所さえあれば、私は怒りを他人にぶつけることなく生きて行けると思っていた。
一人だが孤独ではない。そんな場所だった。
時々すれ違う、犬の散歩やジョギングをしている人、農家の人々は、皆そろって礼儀正しい。こんにちは、という挨拶が必ず交される。
隣の住人とも一言も言葉を交さない街中とは違う。
朝陽も夕陽も星空も人間も。
ここはこの世のすべてを味わえる。
私はここに来たかったのかもしれない。
様々な出来事に振り回されて、疲れきってしまったから。
ここに来て、あの頃のようにすべてを曝け出したかったのかもしれない。けれど、すでに黄金色のステージは天空へとあがってしまっている。
ここへやってきた目的を思い出したというのに、もうそれは手遅れだった。