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果てる世界に微笑んで 第一話

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「笠木家は商家。商人なんて、百人集めて一人信用できたら、良い方ですよ」
 まるで、社会に失望した若者を諭すかのように、東城は言う。笠に隠れた顔には、相変わらず、暗い影が入っている。
「どうせ、お前のところも米も余っているだろう。笠木家に出入りできるのだからな」
 シロガネは、自分の隣で優しく微笑むこの男が、笠木家に入ってきたのは、実力行使だということを言うべきかどうか心底迷った。
「米が余るなんてことはありませんよ。いつだって足りていない」
 藍色の着物を揺らす風が、僅かな悲鳴を上げる。
「知ってます? 米は食べるためのものなんですよ」
 食は楽しみではない。それは、生と死の駆け引きの場。東城はいつもそう言っている。
 向かってくる刃に、体を翻し、シロガネに刃がこない場所に立ちつつも、それを避けながら、腰に手を伸ばす。次の瞬間、激しい金属音が鳴り響く。
「十手……役人か?」
「腐れ政府の狗になど、なった覚えはありませんねぇ」
 十手が捕えていた二本の刀が、カランと音を立てて落ちた。
「お前は……」
「東城空夜です。侍になり損ね、結婚しそびれて、僧侶にもなれなかっただけの普通の男ですよ」
 端麗な顔に、ふんわりと笑みを浮かべ、漆黒の十手を下げて、風を纏う。十手使い東城空夜。夜の似合う黒髪の男。
 しかし、シロガネは、自分で言っていて悲しくならないのか、という方が気になった。