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果てる世界に微笑んで 第一話

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 笠木家の屋敷からそれ程離れていない小さな寺。そこには、小さな子どもが数人と、年老いた僧侶がいた。
「東城のお兄ちゃん、ありがとう」
 背の高い東城の手を引っ張り、溢れんばかりの笑顔を浮かべる小さな子どもたち。東城は、鬱陶しがることもなく、端正な顔に、優しい笑みを浮かべていた。
「お前たちは早く寝なさい」
 優しく僧侶に諭されて、漸く、子どもたちは東城にお別れの挨拶をして、去っていった。
 丁寧に礼を言う僧侶の勧めで、東城は座布団の上に座った。シロガネも、頑張ってなれない正座をする。
「結婚も人殺しも出家もなさらぬ。一体、あなたは何を糧に生きているのですか?」
「何故、私が人殺しをしていない、と?」
 東城の眼光には、僅かな驚きを含まれていた。
「一度たりとも血の臭いがしたことがありません」
 老いた僧は、目を細めて笑った。シロガネは、そんなことまで考えていたのか、と感心する。
 僧は、それで、と東城に返答を求めた。
「理想でしょうか」
 東城は笑った。
「全ての者が、商人のような生活をしなくても良い。ただ、全ての人が、飢え死にをしないようになれば、と思っています」
 ふわりと東城は笑った。東城の目は、遠いところを見ていない。ただ、目の前にいる僧侶を見ていた。
「大きな理想ですね」
 僧侶は、緩やかに笑った。ただ、その細い目は、遠くを見るようだった。
「大きな理想を抱けない人もいるのです。大きな理想を抱ける者が、抱いておくべきでしょう」
 では、と立ち上がる男は、深く笠を被る。その真意は、誰にも分からない。ただ、口元には、何故か笑みが広がっていた。