戦え☆僕らのヒーロー!
僕は昔からおとなしい地味な奴だった。
小学校でも中学校でも『クラスに居るか居ないかわかんない奴』の一人だったと思う。
特別に苛められてた記憶は無いけど、クラスでは大抵一人だった。
それは寂しいと言えば寂しかったけど、でも、一人で居るのは嫌いじゃ無かった。
ボスに『アナタニハヒメタチカラガアリマース。』と声を掛けられて、後は悪徳商法に引っかかるが如く、あれよあれよと言うまに研究所に連れてかれて今に至る。
その時は思わなかった。
こんなに僕の周りに賑やかな人たちが集まるなんて。
あのまま一人だったら、きっと知らなかった。
「仲間」とか「友人」と呼べる人たちの居る幸せを。
なんて、現実逃避しても始まらないよなぁ。
「だからよ、俺は『熱き鼓動・・・燃える魂・・・怒りの鉄拳、ファイヤーレッド!!』が良いわけよ。」
研究所の休憩室で休んでいる時、赤井は突然そんなことを言いだした。
一瞬皆赤井の言葉にポカンとしたけど、それが敵と戦う前の決め台詞だと気がついて各々が反応する。
「ハハ、素敵だね。」と、白石先輩は爽やかに笑う。
「…馬鹿か、そんな長いセリフ言ってる間に攻撃される。」と、冷やかな青山先輩。
まぁ確かに青山先輩の言うとおり、テレビの特撮ヒーローのように敵さんはこっちが変身したり決め台詞を待ってくれるようなことは無い。
向かいあったらヤンキーの喧嘩のように「てめ、何見てんだよ?」から始まり、なし崩し的に戦いは始まる。
だから、変身というかコスチュームにはこの研究所で着替えてから出動することになる。
幼いころは『変身ベルト』とかに憧れてたけどあんなものは存在しない。
「…すげー。格好いい…。」
珍しく目をパチクリさせてそう呟いたのは黄河先輩だった。
赤井の言葉に目を輝かせてる。
「俺も考えるー。」
そして滅多に見ない眉間にしわ寄せた黄河先輩の真剣な顔。
青山先輩は「いつもそんな風に真剣になってくれ。」と呆れてる。
「…思いついた!」
『趣味はギター!特技はサーフィン!黄色い河に大きく輝く黄河大輝20歳!ヨロシクネ☆』
満面の笑みで言いきった黄河先輩に皆固まる。
それ、敵に自己紹介してる…。
本名をわざわざ漢字までわかるようにバッチリ自己紹介してる…っ!
「…あ、もしかしてそれが大輝くんの合コンでの自己アピールテクなのかな?」
白石先輩が優雅に微笑んで、気がついたように言った。
「あ、わかったー?」
えへら、と黄河先輩は笑う。
「…黄河、お前ギターとサーフィンなんてやってたのか…?」
「へ?…嘘も方便って言うじゃん!」
青山先輩の問いにあっはははは、と笑う黄河先輩、青山先輩は肩を落とす。
「つーか、全然ダメだろ!それ。」
赤井が呆れたように言って、ふふん、と笑う。
「せめて『溢れるエナジー、漲る魂…輝く一筋の光…シャイニーイエロー!』とかよ。」
さっきから思うけど、赤井はよくもまぁあんな恥ずかしいセリフを恥ずかしげも無く言えるよ…。
僕は違う意味で赤井をすごいな、と思いながら見てた。
「はーい、私も考えたわよ!」
と、突然桃川さんが手をあげた。
皆がそっちを見ると、桃川さんはうふっと笑う。
『ラブリースマイル、エンジェルボディ!あなたのハートを打ち抜くわvピュアピンク!…ちなみにスリーサイズはヒ・ミ・ツw』
指を拳銃の形にしてバキュンッと打ち抜くジェスチャーをした後、最期は投げキッス。
「「「「うわぁ…。」」」」
と、全員が心の中で思ったのは明白だ。
セリフ長いし、なにより『エンジェルボディ』って。
俺はムキッムキに鍛えられた堅い胸板と、広い肩幅を見た。
あれがエンジェルじゃ、敵にとって悪夢も良いとこだ。
だいたい『ハートを打ち抜く』もその言葉通りで桃川さんのパンチをボディにまともにくらえば、一発でむしろ『ハートを打ち砕く』ことが可能だろう。
「つーか、ピュアはねーよ。」
赤井がぼそりと呟いた。
「『ピュア』っつーのは、普通ホワイトに付けるもんじゃねぇの?」
どうやら赤井はソコが気に入らないらしい。
白石先輩がクスリと笑う。
「じゃぁ俺が『ピュアホワイト』かな?」
にっこりと、爽やかに笑うその微笑み自体は確かに『ピュア』ではあるものの、その腹の中に抱える物は案外底知れない。
「・・・やっぱ『ピュアホワイト』もねーわ。」赤井は白石先輩から目を背けて言う。
「俺ねー、亮哉は『クリアホワイトニング』が良いと思う。」
黄河先輩がにこやかに言う。
桃川さんが思わずというように噴き出した。
ソレ、歯磨き粉の名前じゃ…ピッタリだけど。
「んで、佐助は『サムライブルー』でどうよ?」
「…おい。」
青山先輩はヒクリとこめかみを動かした。
“サッカーかっ!!”
僕は心の中で突っ込んだ。
「…そういえば優一くんにはまだ、名前がついてないね?」
白石先輩が、ふと、気がついたように言う。
巻き込まれたく無くて、ほとんど発言しないように気をつけてたのに、白石先輩の気遣いはたまにありがためーわくだ。
「いえ、僕は別に…。」
「んな、遠慮すんなってーっ。」
黄河先輩、僕が遠慮してない事に気がついて下さい。
「優一くんこそ、『ピュアブラック』とか似合いそうだね。」
「そうね、似合うわー。純粋な感じがv」
白石先輩の言葉に桃川さんも同意する。
僕はなんでも良いと、傍聴することに徹底した。
のに、赤井の奴が聞き捨てならないことを言いだした。
「『ピュア』っつーより、『チェリー』だろ?」
・・・・。
…人が気にしてることを…アイツめ!
「それ、良い!!」
激しく興奮した様子なのは黄河先輩だ。
何がそんなに良いのかわからないが、鼻血を吹きそうな勢い…あ、鼻血が垂れた。
「…いや、そんな丸わかりな名称じゃいくらなんでも優一くんが可愛そうだし・・・何より敵にそれを知られるのは嫌だな。」
白石先輩が真顔で言う。
「俺も同感だ。万が一黒須のソレが狙われたらどうするんだ一体。」
青山先輩も真顔で言う。
・・・ソレってなんだろう。
「さしずめ『危うき蕾、初々しさ満開…優しくして、ネvチェリーブラック!』てことね!」
桃川さんが未知の言葉を発してる。
「…安心しろ、何かあったら俺が責任取ってやるよ、な?」と、赤井が僕の肩をポンと叩く。
そうか、わかった。
責任とって赤井には明日東京湾に沈んでもらおう。
きっと知らなかった。
『仲間』が居なきゃ、『友人』が居なきゃ・・・。
こんなにも人を憎たらしいと思うことなんて☆
作品名:戦え☆僕らのヒーロー! 作家名:阿古屋珠