戦え☆僕らのヒーロー!
日本列島が梅雨入りし、僕が住む地域も例外なく梅雨になった。
毎日ジトジトと雨が降り、むわっとした湿気がこの研究所にも立ちこめる。
薄暗い空を見上げると面白いほど雨が降ってくる。
その様子は結構楽しい。僕は雨が嫌いじゃない。
もちろん反対に大嫌いな人も居るだろう。
「っだーーーー!!汗が気持ち悪ぃ!!」
例えば向こうで叫んでる赤井とか。
「うるさいぞ、赤井。」
心なしか青山先輩も不機嫌そうだ(まぁ、いつものことだけど。)
皆が決め技の練習をしている間、僕はただただ雨空を見上げる。
こうしていると周りの騒音が気にならなくて済む。
窓の向こう側から聞こえる僅かな雨音は僕にとって心地いい音楽だった。
「何か見えるかい?」
声の方を見ると、白石先輩が微笑んでいる。
こんなにジメジメした空気に負けない爽やかな笑みだ。
「…雨が見えます。」
僕の当り前の答えに、白石先輩はふ、と噴き出した。
「そうだろうね、…雨が好きなの?」
「どちらかといえば、好きです。」
「そう。」
白石先輩はそう言ったきり、話さない。
けれど僕の返答に呆れたとか飽きたとかそういう感じでもない。
どちらかといえば静かに過ごしたい僕の気持ちを酌んでくれてるみたいだ。
こういうところは本当に「大人」な人だ。
つんっと服のすそを引っ張られる感じがして、そっちを見ると黄河先輩が珍しく目をくりくりさせて起きていた。
黄河先輩のこんな姿は珍しい、この人がこんな風になるのは食事の時とエロい話する時くらいだ。
「どうしました?」
「優一は雨が好きなのか?」
「はい。」
「俺も好きだぜ。」
それは少し意外だった。
こんなジメジメした日は寝苦しそうなのに。
「だって雨に濡れて透けた服はマジ神の如きエロさだろ!」
キラッキラした瞳で黄河先輩は言いきった。
「も、さいっあく〜〜っ!」
まるで渋谷に居るギャルのような口調で、そのくせ低い声でそう言いながら桃川さんが部屋に入ってきた。
その身体はびっしょりと濡れ、白いTシャツは体に張り付いて、そのラインが浮き彫りになっている。
「…黄河先輩、透けた服ってあんな感じデスカ?」
「ん、・・・うん、俺が悪かった。」
黄河先輩はげんなりとした顔で項垂れた。
「傘誰かに盗られたのよ、もー、…私のファンかしら。」
「…桃川の傘を盗むとは、なかなかのチャレンジャーだな。」
青山先輩が眼鏡をくいっとあげながら呟く。
はっきり言います、僕も同感です。
この前おそらく敵だと思う奴らと戦ったけど、桃川さんはその言葉通り鬼神のような強さでバッタバッタと倒していった。
潜在能力が飛びぬけて高いのは知ってたけど、まさかあそこまでとは…。最後の方はもう桃川さんが戦う姿を僕たち4人で傍観していた。(黄河先輩は例のごとく寝ていた)
「もぉ、びしょびしょで脱ぎにくーぃ。」
えいっと可愛い仕草で桃川さんはTシャツを脱ぎ捨てる。
あらわれた身体に僕を含め全員が一瞬息を飲む。
桃川さんがいつもぴっちりした服を着ているため、がっちりした体形なことは理解していたが、その背中には数え切れないほどの無数の傷があった。
「・・・。」
「あ、ヤダ、みんな、何見てるのよーっ。」
プリプリと怒る桃川さんに皆がなんと言えばいいのか困ってる中、俺の隣で声が上がる。
「うわ、すっげー!!何その傷!?」
あっけらかんと言う黄河先輩。その偉大さを改めて感じる。
「え、ああ。背中の傷?」
「うん、超でかい傷もあるし、痛くねぇの?」
「平気よ、昔の古傷だもの。」
うふふ、と、桃川さんは意味ありげに笑う。
桃川さん的には魅惑的に笑みを浮かべたつもりだろうけど、正直気持ち悪い。
「やんっ、黒須くんたら青褪めちゃって、ウブね。」
ツンッと額を突かれ、その勢いで窓に頭を打ち付ける。
…相変わらず馬鹿力だ。
「青褪めてたらおかしいだろ。普通は『赤らめる』じゃねーの?」
赤井の冷静なツッコミも桃川さんには届かない。
僕は打ち付けた頭を押さえながら、改めて桃川さんを見る。
見れば見るほど、ものすごい筋肉だ。
確かに白石先輩も体格は良い方だけど、均等のとれた筋肉質、な体だ。
桃川さんは比べ物にならない。
軍人か何かだったのかも、僕はふとそう思った。
背中の傷だけでなく、その体のあちこちに細かい傷がある。
(ちなみに体格の良さは、桃川さん>白石先輩>赤井>黄河先輩>青山先輩>僕、だ。)
僕の視線に気づいた桃川さんがニヤリと笑う。
「なぁに?私のこのボディに見惚れちゃった?」
「・・・はぁ、まぁ。」
言い訳するのも面倒くさいので僕は適当に頷く。
でも、コレが問題だった。
この後急に赤井が怒りだした。
「てめぇ、いつも俺の裸見てるくせに見惚れたりしねーじゃねーか!ホラ、好きなだけ見惚れろ!!」
そう叫びながら僕の前で服をガバッと脱ぎだす。
「…もう見慣れてるから、早く服来て下さい。」
僕は居たたまれなさにそう言ったのに、なぜかくいつかれた。
「…どういうことか詳しく教えてくれるかい?」と、白石先輩。
「キャーー!何、二人ってばそういう関係?」と、桃川さん。
「優一、俺のも見て!」と、Tシャツどころかズボンとパンツまで降ろし始めた黄河先輩。
唯一、青山先輩だけが腕を組んで壁に寄り掛かり、俯いている。
さっきから騒々しいことに青山先輩は苛立ってたはずだ、カミナリが落ちるのも時間の問題だろう。
「あ、青山せんぱ、しゅ、収集つけてください…。」
僕がそう懇願すると、青山先輩がズンズンズンと僕の方へ近づいてくる。
無表情で近寄られると、たださえ怖い顔が余計に恐い。
「あ、あの…。」
青山先輩が僕の両肩を両手でガシッと掴んだ。
キッと睨まれる。
僕は蛇に睨まれた蛙になった。
と、その瞬間青山先輩の両目からぶわっと涙があふれた。
「っ、自分の体はもっと大事にしろっ!!」
ええええええーーーーー。
作品名:戦え☆僕らのヒーロー! 作家名:阿古屋珠