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午前0時の桜吹雪

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頭には、内側から頭蓋骨をたたき割らんとでもしているようなズキズキとした断続的な痛み。胃には、ボウリングの玉が縦横無尽に転がっているような鈍痛。視界はぼんやりと歪み、足元もおぼつかない体たらくであるにもかかわらず、意識だけはしっかりとしているのは、不運としか言えないだろう。
 数メートルの間隔で設置されている街灯が少々頼りない灯りで住宅街の夜道を照らす。そんなおぼろげな明るさを頼りに、俺はふらつく足取りで一歩、また一歩と自宅へと歩を進めていた。
 今日は少し飲みすぎたかもしれない。体中を苛む不快感に嫌気がさして、今更ながら後悔を覚える。だが、飲まずには居られなかったのも事実だ。
 酒の席での俺は終始虚勢を張り続ける事に専念していた。
「元々やめる気満々だったんだぜ。辞表も用意してたし。イヤ、ほんとだって」
営業回りですっかり癖になった笑顔を全面に張り付かせ、早口で俺は続ける。
「それを向こうから言ってくれたんだ、気兼ねする必要もなければ退職金だって貰える。良い事尽くめさ。俺はついてるんだって!」
 俺が自由への門出の祝杯に付き合ってもらうべく、携帯のメモリーを片っ端からあたり、不運にもその電話を取ってしまったばかりに、はしごを含め3軒も付き合う羽目になってしまった酒井は、その強がりを聞いてどんな顔をしていたか。
 俺はどちらかと言えばアルコールに強い方だと思う。結構な量を飲んだとしても、気持ち悪くなったり、頭痛に見舞われることはあっても、理性のタガが外れたり、記憶が曖昧になったりといった類の酔い方はしない。だからあの時、俺の愚痴を聞きつつ「そうだな」と言った酒井の顔を、あの表情を、俺はきっと一生忘れない。いや忘れられないだろう。
 酒井は今日のような突然の呼び出しにも応じてくれるいい奴だ。「明日も仕事があるんだけどなぁ……」とぼやきながらも終電まで付き合ってくれた。そんな酒井が見せたあの、憐れみの目。見下すような目。
作品名:午前0時の桜吹雪 作家名:武倉悠樹