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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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第1章 不気味な足音(4)


 周りにビルが建ち並ぶスクランブル交差点を行き交う人々。
 雑踏は今日も賑やかに華やかに、街は活気づいていた。
 空に映し出されている巨大スクリーンには、生放送中のお昼のバラエティ番組が映し出されている。途中のコマーシャルでは、最新型の家庭用アンドロイドが映し出されていた。
 空では魔導式のエアカーが管状道路を行き交っている。
 さらに高い空を飛んでいるのは、羽のない魔導式の飛空挺だ。
 非常ベルが鳴った。
 覆面をした男がコンビニから飛び出してきた。手に持っているのはビーム銃だ。
 すぐ近くを巡回していたパトカーがサイレンを鳴らす。
 覆面男が人々を押し倒しながら逃げる。
 先回りしたパトカーから警官が降りてきた。人間ではなかった。メタリックのボディを持つロボット警官だ。
 人型のロボット警官は人間のように走り、覆面男に飛びかかった。
 動作は人間に似ているが、その脚力は遥か人間を凌駕し、腕力もゴリラ並みだ。さらに重量もあるため、押した倒されてのし掛かられた覆面男はひとたまりもない。
 肋骨の折れる音がした。
 苦痛で顔を歪ませた覆面男は逃げる気をそがれ連行されていく。
 高性能ロボットたちは、今や人間の生活と切っても切れない存在になった。先進国では危険な仕事のすべてをロボットにやらせている。ほかにも清掃業や肉体労働の分野でも多く活躍している。最近では、倫理の教師にアンドロイドが就任したというニュースが、話題になったばかりだ。
 ロボットですら仕事に就ける時代なのに、いや、ロボットが仕事を奪ったからこそ、失業者も多かった。街の繁栄の影にあるホームと呼ばれる地域。そこはホームレスで形成されている街だった。
 少女はいつも外の世界に憧れていた。向う側に見える華々しい街。人々がみんな輝いて見えた。
 しかし、現実は薄汚れた躰を包むボロのような服。髪の毛は硬くボサボサで、少し掻くだけでふけが落ちてくる。履き物は最近新しいのを見つけた――つま先に穴の開いた赤い靴だ。
 まだ少女は幼かった。歳は六か七か、厳しい現実に晒されながらも、強く逞しく生きていた。親はいない、兄弟もいない、身内はだれもいなかった。けれど、周りの?男?たちは優しかった。
 ホームでは争いが絶えない。だいたい食料か嗜好品の取り合いだ。少女は比較的食料を回してもらっていたが、それでも腹一杯に喰えることなんてなかった。
 腹が鳴る。
 今日も腹と背中がくっつきそうだ。
 食料を手に入れる方法は、もらうか、買うか、奪うかだ。
 少女はまだまだ自分でお金を稼ぐことができなかった。いつも大人たちの施しで生活していた。
 その日、少女はビルの隙間から街の様子を眺めていた。コンビニ強盗が警察に捕まった。奪うのに失敗したのだ。
 ――自分だったら、もっとうまくやれるのに。
 少女の心に芽生えた黒いモノ。
 街中で赤い林檎が少女の瞳に映った。目の前を通り過ぎたのは、おそらく女性だ。眼鏡をかけた女性だった気がする。
 この時代に眼鏡を珍しい。今はいくらでも手術で視力を回復することができるし、たとえ眼球を失っても再生するか、もしくはサイボーグ化することも可能だ。けれど、そんな時代だからこそ、たまに自然にこだわる者もいる。
 眼鏡の女はなぜか林檎を片手に持ち、それを上に投げてはキャッチして、また投げてはキャッチし、それを繰り返しながら歩いていた。まるで引力に取り憑かれたような行動だ。
 女のあとを白衣を着た男が追ってくる。
「レヴェナ博士! 学会のパーティーを抜け出すなんて、またスポンサーに叱られますよ!」
 まるで聞こえていないように、女は林檎を投げ続け歩いている。
 少女は白衣の男を押し飛ばして歩道を駆け抜けた。
 瞳に映る真っ赤な林檎。なぜだろう、まるで宝石のように見えた。
 林檎が上空に投げられた瞬間、少女は類い希なる運動神経で跳躍し、女から見事に奪い取ったのだ。
 女はぽかんと口を開け、
「……あ」
 と、だけ呟いた。
 代わりに叫んだのは白衣の男だった。
「泥棒だ! そこの子供泥棒です!」
 子供相手ではなく、殺人犯を相手にするような剣幕で叫んだ。
 それに怯えたのは少女だ。
 ただ林檎を奪っただけなのに、どうしてあの大人は恐い顔をするのだろう?
 次の瞬間、急に目の前に飛び出してきたパトカーに少女は撥ねられた。
 まさか地上でこんなスピードを出している車に撥ねられるなんて。
 パトカーを運転していたのは、覆面男だった。奪ったパトカーで逃走中だったのだ。管状道路に入ってしまっては逃げ場はない。逃げるなら地上だ。
「かわいそうに」
 呟いたのは眼鏡の女だった。
 雑踏が静まり返っていた。
 立ち止まる者、中には足早に逃げ出す者。
 紅い海に沈む幼い少女。
 右脚が股間からもがれ、右腕も同じもがれ、右の脇腹からは内蔵がはみ出してしまっている。パトカーがどれほどの時速が出ていたか想像するに恐ろしい。
 こんな重傷を負いながら、不幸なことにまだ意識があった。
 凄まじい苦痛。
 ――アレンは大量の汗を拭きながら眼を覚ました。
「夢……か?」
 ソファから上半身を起こしたアレンは周りを見た。
 白く無機質な部屋だ。ソファ以外にあるのは、目の前の壁に取り付けられているモニターだ。それと、ソファのすぐ傍に花を一輪挿した花瓶が置いてあった。
「……腹減った」
 どれくらい食べ物を口にしていないのか?
「これでよろしければ」
 アレンの目の前に差し出された手の上には、真っ赤な林檎が乗っていた。
 林檎を手に取りながらアレンはゆっくり顔を上げる。若い男が立っていた。髪の毛を七三にした細身の男だ。骨と皮だけの躰というほど痩せているが、不健康そうには見えない。ただし、少し表情は硬い気がする。
 男は微笑んだ。
「だれも食べたことがありませんから、味は保証できません」
「だれも食ったことないって……」
「心配はいりません。動物たちも食べていますから、毒はありません」
「あっそ……あんがと」
 アレンは林檎に牙を立てて、引き千切るように食らい付くと、頬いっぱいに口の中に入れた。
 見うる見るうちにアレンの表情が晴れやかになる。
「うまっ、これすげぇうまいな!」
「それはよかった」
 また男は微笑んだ。
 アレンは林檎を食いながらまじまじと男を観察するように見つめる。
「なあ、ところであんただれ?」
「わたくしはこの街で唯一、音声言語で会話ができる人型アンドロイド――ジャン・ジャック・ジョンソン。人間の共からはJ3(ジェスリー)と愛称で呼ばれていました」
「マジで、あんた人間じゃないの?」
「はい、この街には人間はひとりもいません。ようこそ、ロボットの楽園メカトピアへ」

 教会があっという間に炎に包まれた。
 空から次から次へと降り注いでくる焼夷弾(しょういだん)。
 クーロンの街全体が燃えている。
 直接炎に焼かれていなくても、熱風で火傷しそうなほど熱い。
「こんな非人道的な攻撃」
 セレンの顔を彩る赤い絶望。
 焼かれてるのは街だけではない。火だるまになった人間がのたうちまわっている。
 ライザは訝しげに眉間に眉を寄せていた。