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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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 人質を取られたアレックスは身動きが取れない。3人は羽交い締めにされ、自力ではとても逃げられそうもない。たとえ逃げても、すぐに周りの兵士たちにまた捕まるだろう。
 兵士のひとりがなにかをラーレたちの足下に投げた。
 絶句。
 悲鳴すらあげられなかった。
 それは首であった。見るも無惨に傷つけられた生首。ぐしゃにされた顔に面影が残っている。
 世界を震撼させる鬼気をアレックスが放った。
「おのれぇぇぇぇッ、下賤な者どもがァァァァッ!!」
 武器も持たずアレックスが敵のど真ん中に突っ込む。
 雨のような銃弾が発射される。
 どんな強靱な肉体を持っていようと、この銃弾を浴びせられては死ぬだろう。
 突然、シモーネが兵士の腕を噛み、どうにか振り切ってアレックスの元に駆け寄った。
 シモーネによって押し倒されたアレックス。二人は地面に倒れ込んだ。
 瞳を丸くするアレックスの頬に、血の雨が降ってきた。
「朕を庇ったのか……莫迦な……ことを……」
「命を無駄に……ぐふっ……しないで……」
「それは朕の台詞だ」
 子供らの悲鳴があがる。
「お母さん!」
「母さん!」
 シモーネは力なくアレックスに被さり、耳元でなにかを囁く。
「夫が言っていたわ……もしかしたら……あなたの正体は…………」
 最後まで言わずに事切れた。
 幽鬼のようにゆらりと立ち上がったアレックス。
「……母が死んだ」
 脳裏にフラッシュバックする光景。
 ――目の前で貴婦人が護衛の兵士に刺されて死んだ。
「また朕を庇って……母が……」
 急に空が曇りはじめ、稲妻が泣き叫んだ。
 そして、黒い雲よりもさらに黒きものが、稲妻を帯ながら雲を断ち切り天から降ってきたのだ。
 不気味に輝く漆黒の大剣。
 一撃で地面に亀裂を奔らせたその剣は――まさに煌帝の証〈黒の剣〉!
 少年とは思えぬ、まして人間とも思えぬ艶やかな笑みを浮かべたアレックス。
 兵士たちがざわめいた。
 〈黒の剣〉の柄を握ったアレックスは、その大剣をゆるりと優雅に薙いだ。
 風も起こさぬその所作。
 しかし、実際は撃風の刃が影の上にいた兵士たちを切り裂き、吹き飛ばし、一撃で一掃していた。
 天災に等しき破壊力。
 怪我を負って地面に這いつくばった兵士が呻く。
「ま……まさか……その黒い剣は……暴君が生きていた……だと」
 次々と兵士たちが叫びはじめる。
「煌帝ルオだ!」
「シュラ帝國の暴君だ!」
「恐ろしい〈黒の剣〉を持っているぞ!」
「怯むな、相手はただの小僧ひとりだぞ!」
 アレックス――ルオは不気味に嗤った。
「ルオか……そんな呼ばれ方をしていた気がする」
 まだ記憶が完全に戻ったわけではなかった。
 しかし、その手元には〈黒の剣〉が戻った。
 〈黒の剣〉がルオを主と認めたのだ。
 銃弾が浴びせられルオの躰に風穴が空く。
 流れ出した血が――なんと逆流するではないか!?
 傷痕が弾丸を吐き出し、見る見るうちに塞がっていく。
「うぉぉぉぉぉッ!」
 魔獣の叫びをあげたルオが兵士に切り込む。
 鬼気に肝を潰された兵士は身動きができなくなり、姉弟が自然と解放された。
 黒い血が舞う。
 ラーレの目の前で崩れ落ちる肉塊。瞳に焼き付く。この虐殺の光景を生涯忘れることはないだろう。
 〈黒の剣〉が兵士たちの四肢を切り飛ばす。ひとりひとりだ。まとめて薙ぐことができるにも関わらず、ひとりずつ細切れにしていくのだ。
 悪夢であった。
 乾いた大地が鮮血を吸う。
 やがてそこは緑に変わるだろう。多くの屍の上に、この大地は成り立っている。
 魔獣と化したルオはその姿さえも変貌させていた。
 足下まで伸びたざんばら髪。肌を稲妻のように奔る黒い文様。瞳は血のように真っ赤に染まっていた。
 兵士の数がひとり、ひとりと減っていく。
 まだ命のある者が地で呻き藻掻いているが、この大地に立っているのは3人だけ。
 ルオと姉弟の眼が合った。
 怯えきっている。
 魔獣に怯えているのだ。
 姉の前に立ったカイは拾った小石をルオに投げつけた。
 すぐさまラーレがカイを自分の後ろに隠す。
 頬に石を受けていたルオは何事もなかったように歩き出す。
「船に乗って早く逃げろ。もう二度と会うことはない……だから君たちを助けることも二度とない」
 言い残してルオが振り返りもせず歩き続ける。
 遠くにはまだ軍隊が見える。
 敵の主力である戦車の影。
 不気味に轟く曇天の空。
 修羅場はまだまだ先にある。
 この日、煌帝ルオの名が再び世界に響きはじめるのだった。