魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-
第4章 そして未来へ(5)
鬼械兵の軍勢を相手にしながらアレンは空を見上げた。
急に曇りだして辺りが暗くなったのかと思ったが、それは天気のせいではないようだ。
巨大な円盤が上空に浮かんでいた。
「新たな兵器かなんかか?」
ジェスリーもその円盤を見た。
「今までまったく見たことのない型の物体です。いわゆる未確認飛行物体――UFOです」
円盤型飛行物体からなにかが降下してくる。数え切れないほど多くのなにかだ。
アレンはよく目を凝らした。
「もしかして鬼械兵か?」
「いえ、違います。LB1型アンドロイドです。設計図しか存在してないはずだったのですが不思議です」
降下しながらLB1はビームライフルで次々と鬼械兵を仕留めていく。
アダムにとってもそれは予期せぬ出来事だった。
「わたしの目にも留まらず、いったいあんな機械人がどこにいたというのだ?」
地上に降り立ったLB1は人間を狙わず、鬼械兵のみを仕留めていく。完全に狙いははっきりしている。鬼械兵を殲滅することだ。
さらに上空から翼を持った狼に乗って少女が戦場にやって来る。
純白の法衣に身を包み、サファイア色に輝く4枚の翼を持った少女。その手には〈生命の実〉が取り付けられた錫杖[しゃくじょう]を持っていた。
「もう争いは終わりにしましょう」
少女の声は不思議と戦場の片隅にまで届いた。
人間の兵たちは空を見上げ、ある者はこう呟いた。
「天使様か?」
視力のいいジェスリーにはわかった。
「セレンさんです!」
マルコシアスから降りたセレンは上空に立ち、その場で錫杖を使って魔法陣を描いた。
描かれた魔法陣はセレンの頭上から網のように広がり、クーロン全体を〈レヴィアタン〉ごとドーム状に包み込んだ。いったいなにをしようというのか?
アダムは一瞬にしてマルコシアスと場所を入れ替えようとした。
「なぜだ……?」
しかし、できなかったのだ。なにも起こらず、アダムはその場から1ミリも動いていない。
もうひとつのことにアダムは気づいた。
「新たな兵が来ない」
火星からの援軍が止まった。
すぐにアダムは理解した。
「これはあのときと同質のものか」
それは〈ベヒモス〉での出来事だ。ワーズワースがセレンたちを逃がすため、アダムを閉じ込めた方法。
「しかし、計画が遅れるだけに過ぎない。戦力ではまだ鬼械兵団が優っている」
立っている人間は少なかった。
すでにクローン周辺を取り囲んでいた軍勢は〈レヴィアタン〉によって一掃されていた。たとえ市内の戦況が変化して人間が勝利しようと、〈レヴィアタン〉一機で逆転されてしまうのだ。
そして、またアダムは計画を1からやり直せばいい。時間なら飽きるほどある。
アダムは空を見上げた。
「〈生命の実〉だけは必要不可欠だ」
宙に浮いたアダムは高速で飛びセレンに近づいた。
いち早くマルコシアスが接近してくるアダムに気づいた。
「貴様がアダムだなッ、レヴェナ様を愚弄する行い許さんぞッ!」
翼から幾本もの炎の矢を放つ。
「犬がッ!」
炎の矢はアダムが手を振り払っただけで消えてしまった。お返しに衝撃波を手から放ち、マルコシアスを遥か彼方へ吹き飛ばした。
上空で静止したアダムとセレンが見つめ合った。
「〈生命の実〉を渡してもらおう」
「いやです。今すぐ鬼械兵団を止めてください」
「〈生命の実〉を渡し、人間が戦うことをやめれば止まる」
「あなた方が戦うことをやめてください」
「ならば力尽くだ」
手を伸ばしながらアダムが迫ってくる。
突き出された錫杖から見えない障壁が放たれた。
それに衝突したアダムが弾き飛ばされ、地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。
地上ではアレンが待ち構えていた。
――けたたましく鳴る歯車。
「喰らえッ!!」
加速して落下してきたアダムを打ち上げるように殴り飛ばした。
高く舞い上がったアダムは宙でピタッと静止した。
「無駄な攻撃だ」
アダムは手にエネルギーを集め、光球にしてアレンに投げつけた。小さい魔導砲のようなものだ。魔導弾――魔弾だ。
〈ピナカ〉で相殺を試みようとしたアレンの目の前にルオの背中が飛び込んできた。
ルオは〈黒の剣〉の柄を握り締め、切っ先をアダムに向けながら矢のように宙を飛んだ。
「串刺しになるといい!」
魔弾を呑み込んだ〈黒の剣〉はそのままアダムを突かんとする。
紙一重でアダムは刃を躱し、指を組んだ手でルオの背中を殴り飛ばした。
背骨を折られながらルオは地面に叩きつけられた。
殺気を感じて振り返るアダム。頭上から降り注ぐ炎の矢。気づいたときには遅かった。
アダムの身体が炎に包まれ落下する。
「まさか犬にしてやられるとは!」
火の粉を散らしながらアダムは地面に叩きつけられ、一度バウンドしてうつ伏せに倒れた。
すぐにアダムは湯気を立てながら起き上がった。
「いくら攻撃を加えようとわたしは倒せない」
服が燃えたアダムは裸体だった。美しい曲線を描く女の肢体。頭部と右肩から手の先までを除いて、メタリックな色をしている。気づいた者がいるだろうか。左手の先から徐々に肌の色を取り戻している。
「やって見なきゃわかんねぇだろ!」
アレンがアダムを殴り飛ばした。
上半身のバランスは崩したが、アダムの下半身はまったくその場から動かない。
ゆっくりと上体を戻してアダムはアレンを睨んだ。
「おまえの相手はあとでしてやろう」
アダムの狙いは〈生命の実〉だ。
再びアダムは空を飛び、再びマルコシアスが立ちはだかる。
だが、今度の足止めはアレンだった。
アダムの足首を片手で掴むアレンの姿。
「行かせるかっつーの!」
「しつこいぞ」
アダムがアレンの顔面を踏ん蹴った。
「ぐっ」
思わず手を離してしまったアレン。だが、地上には落ちない。風を操って空を飛んだのだ。
セレンはずっと錫杖で魔法陣を描き続けていた。
「できた!」
輝いて発動する魔法陣。
大地が大きく蠢いた。
焼け残っていた金属の柱が空へ上昇していく。それに続いて次々と金属が空へ昇って行くではないか。例外なく鬼械兵やLB1もだ。
上昇率は重さを比例していた。重たければ重いたい金属であるほど、高く天へと昇っていくのだ。
これによって地上から鬼械兵が消えた。今の今まで戦闘を繰り広げていた人間の兵士たちが安堵する。問題は戦車まで上昇してしまったことだ。
新たな混乱を生むことになったが、戦乱は治まることになった。
しかし、まだ戦いが終わったわけではない。
もとより空を移動できる者は、魔法陣の束縛から逃れることができるのだ。
アレンとアダムは腕を交差しながら互いに殴り合っていた。リーチが長かったのはアダムだ。吹き飛ばされるアレン。
それを尻目にアダムはセレンから〈生命の実〉を奪おうと躍起だ。
「邪魔だッ!」
声を張り上げたアダムは全身からホーミングミサイルのような光を放った。アダムに迫っていたルオとマルコシアスがその直撃を受けた。
いつの間にかアダムの身体が肌の色を拡大させていた。両手足は完全に肌の色を取り戻している。胴体は肌色とメタリックがまだらになっていた。
「なぜわたしの邪魔をするのだ!」
作品名:魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)