小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

INDEX|47ページ/51ページ|

次のページ前のページ
 

 鬼気を纏ったアダムは一気にセレンの眼前まで迫った。
 錫杖の障壁が間に合わない。
 ついにアダムの手が錫杖の柄を掴んだ。
「渡せ!」
「渡しません!」
「おのれぇ!」
 アダムが伸ばした片手がセレンの首を絞めた。
「渡さないと窒息するぞ!」
「……ううっ……ぐ……」
「死にたいのか!」
「お……お母さん……」
 錫杖から手が離れた――アダムの。
 下からはアレンが猛スピードで迫っていた。
「もう容赦しねぇぞぉぉぉッ!」
 ――歯車は咆哮をあげた。
 その気配を感じたアダムは振り返り、なにを思ったのか両手を広げて凜した表情をした。
 アレンの拳がアダムの腹を抉る。
 突き破られた肉がメタリックの液体を飛び散らせた。
 瞳を見開いて息を呑むセレン。
 アダムの腹を腕が貫通していた。
 なぜかアレンは悲しい顔、アダムは聖母のような微笑みを浮かべた。
 そして、アダムはこう言ったのだ。
「あなたに辛い役回りをさせてしまって……ごめんなさい」
 アダムは自らアレンの腕を腹から引き抜いた。
 落ちていくアダム。
 地上までの途中でルオが〈黒の剣〉を構えていた。
「朕が止めを刺してくれる!」
「やめてーッ!」
 悲痛なセレンの叫びが木霊した。
 ルオとアダムの眼が合った瞬間、アダムが邪悪な笑みを浮かべたのだ。
 なんと、アダムの口からメタリックの液体が吐き出され、意思を持っているかのようにルオの口から体内に流れ込んだのだ。
「うぐっ……うっ……」
 眼を剥いたルオは顔を下に向けて吐き出そうとした。だが、その身体の中心から手足の先端に向かってメタリックに染まっていく。
 髪を振り乱しルオが顔をあげた。
「ふふふふふっ、何と言う力溢れる躰なのだ!」
 それがルオではないと、周りにいた者は瞬時に理解できた。ルオではないのなら――。
 レヴェナを抱きかかえていたリリスが叫ぶ。
「アダムに寄生さてれおるぞ!」
 魔獣と化した煌帝ルオの肉体を手に入れたアダム。その手には〈黒の剣〉が禍々しい鬼気を放っている。
「此こそ始皇帝に相応しい!」
 紅い瞳でアダムは自分の領土を見渡すように世界を眺めた。
 そして、〈黒の剣〉を掲げた。
 地獄の底から唸り声が聞こえてくるような風の音[ね]。
 宙に浮いていたものたちが地上にゆっくりと落ちていく。
 〈生命の実〉の支配力を〈黒の剣〉が少しずつ呑み込みはじめているのだ。
 アダムは大地に〈黒の剣〉を突き立てた。
「〈黒の剣〉の真価を見せてやろう!」
 大地が枯れていく。
 突き刺さった〈黒の剣〉を中心に、円を描いて大地が枯れていくのだ。
 それだけではない。もっとも近くで瀕死だった人間の兵士が、息を引き取り、髪が白くなりはじめている。さらに機械兵が風化していくではないか。
 リリスが叫ぶ。
「引け、全力でこの場を離れるのじゃ!」
 敵も味方も関係ない。〈黒の剣〉が喰らっているのだ。
 セレンは全速力で降下した。
「今すぐやめてください!」
 アダムに向かって錫杖を叩きつけるように振った。
 瞬時に〈黒の剣〉が抜かれ、刃で錫杖を受け止めた。いや、逆に錫杖が刃を受け止めたというべきか。〈生命の実〉のエネルギーに守られた錫杖は、〈黒の剣〉の刃に断ち切られることがなかったのだ。
 近くで死んでいる兵士の風化が止まった。
 〈黒の剣〉と〈生命の実〉が均衡した状態。
 クーロンを覆っていたドーム状の結界も消失していた。再び火星から鬼械兵が来てしまうのか。いや、来なかった。時間が過ぎたからではない。
 拡声器から響く男の声。
《聞こえるか、トッシュだ!》
 どこから話をしているのだろうか?
《馬鹿でかいヘビの戦艦のコックピットは乗っ取った》
《蛇ではなくて龍よ。戦艦の名前は〈レヴィアタン〉》
 横にいるらしくライザの声もスピーカーは拾った。
《コックピットは制圧したんだが、ドアの向こうに鬼械兵がうじゃうじゃいるんだ。応援頼む!》
 トッシュが叫んだ。
 コックピットだけを制圧して、立てこもってる状態なのだ。
 リリスはジェスリーに顔を向けた。
「〈レヴィアタン〉と通信可能かい?」
「直接ではなく、周辺全域にでしたら通信電波を飛ばせますが?」
「それでいい」
「少々お待ちを――どうぞ、お話しください」
 通信電波にリリスの声が乗る。
《トッシュの坊や聞こえるかい、聞こえたら返事をおし》
 それを3回繰り返し、再び『トッ』と言ったところで返事があった。
《リリス殿か?》
《そうじゃ、妾じゃ。アダムがルオの坊やに取り憑いた》
《なんですって!?》
 横からライザが口を挟んできた。
 ライザには構わずリリスは話し続ける。
《〈黒の剣〉が無差別にすべてのエネルギーを吸いはじめる危険性もある。ただちに全軍の退却を命じるのじゃ》
《おい、なにする気だ!》
《なにって、こうするのよっ!》
《やめろ!》
 会話の途中でなにやら向う側でアクシデントが起きたようだ。
 クーロン外周付近の大地から飛び出した巨大な龍の首。〈レヴィアタン〉は市壁を軽々とまたぐように越え、その長く巨大な身体で市内に侵入した。狙いはアダムだ!
 開かれた〈レヴィアタン〉の巨大な口の中が輝きはじめる。
 リリスが叫ぶ。
「アダムから離れるのじゃ!」
 気づいてセレンは急上昇した。
 アレンは猛スピードでリリスとジェスリーを抱きかかえてその場から離れた。
 魔導砲発射!
 アダムは〈黒の剣〉を構えてニヤリと笑った。
「餌が来たぞ我が魔性の剣よ」
 爆風で屍体や瓦礫が舞い上がる。
 大地が削れ、迫り来る魔導砲をアダムは受けて立った。
 目も眩むような輝き。
 正面から見た魔導砲は計り知れない大きさだ。
 その巨大な光に向かって〈黒の剣〉が振り下ろされた!
 地獄の風が唸るような音を立てて光が闇に呑み込まれる。
 竜巻のように渦巻きながら、その渦の先が〈黒の剣〉に瞬く間に吸いこまれていくのだ。
 アダムの紅いマントが狂風に靡く。
「ふふふっ……ははははっ、力を感じるぞ。剣に流れ込んで来るエネルギーを私の肉体にも伝わって来るぞ!」
 歓喜を越えた狂気の形相でアダムの笑い声が響き渡った。
 〈レヴィアタン〉が吼えた。
 なんと〈レヴィアタン〉がアダムに体当たりをしようと突進してくる。
 微かに漏れ聞こえてくる声。
《ザザザ……もうやめろ……ザザザザ……》
《うるさいわよ……ザザ……》
 もう止められなかった。
 〈レヴィアタン〉の龍を模した巨大な頭部はアダムの眼前まで迫っていた。
 禍々しい〈黒の剣〉が振り下ろされた。
 まさか、この巨大な〈レヴィアタン〉をも斬れるというのか!?
 嗚呼、真っ二つに裂かれていく。
 勢いのついた〈レヴィアタン〉の胴体が、真ん中から綺麗に2つに裂かれ、そのまま地面で何度もバウンドしながら、先にあった市壁をぶち破り、頭部で大地を滑り削り、やがて尾の先まで割られて止まった。
 大惨事だった。
 クーロン市内に残っていた兵士たちも多く巻き込まれた。
 残骸となった〈レヴィアタンに〉潰された者もいた。
 ライザの形振り構わない暴挙は多くの犠牲者を出した。