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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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第4章 そして未来へ(4)


「ふふふふっ。私を追い詰めたつもりか?」
 アダムは不気味に笑った。
 魔導炉も〈ベヒモス〉も、フローラも火鬼も、失われた今、アダムは劣勢に立たされたのか?
 ――否。
 それは戦いの一部にしか過ぎない。
 市内に響き渡っていたのは人間の悲鳴だった。
 鬼械兵団の圧倒的な戦力で、人間が次々と息絶えていく。鬼械兵は腕がもげようと、足を失おうと、悲鳴一つあげず、まるでゾンビのように襲い掛かってくる。死の軍隊を相手にしている気分だ。
 アレンは気づいている。アダムには少なくともあと2つの切り札がある。火星にいる100万を越える鬼械兵と、人工衛星からの地上へ向けての攻撃〈メギドの炎〉。
 たとえ〈生命の実〉がなくとも油断できない。それにアレンたちは〈生命の実〉がアダムの手にないことをまだ知らないのだ。警戒を強めている。
「その袋はなんだよ?」
「知りたいか?」
「ああ、知りたいね」
 アダムが〈大地の袋〉を振り回して押し掛かってきた。
 慌ててアレンはブリッジをして〈大地の袋〉を躱した。
「いきなりかよ!」
 まだそこで攻撃は終わりではない。
 アレンの腹に〈大地の袋〉が落とされようとしていた。
 その袋がなんのかアレンは知らない。だが、ヤバイと直感して、地面を転がって避けた。
 大地が鳴らした地響き。
 まるで隕石が衝突したように、クレーターが地面にできた。すでに〈大地の袋〉はアダムが持ち上げている。ほんの少し地面に触れただけでこれだ。
 クレーターができたときの衝撃で、アレンは天高く吹っ飛ばされていた。
「洒落になんねぇ。やっぱただの袋じぇねえのかよ!」
 空から見るクレーターの大きさは直径30メートルほどだった。周りにいた兵士たちも巻き込まれている。
 アレンは地面に衝突する寸前で、ふわっと身体が浮き上がり、ゆっくりと着地した。風を操ったのだ。
 涼しい顔をしているアダムとは対照的に、アレンは冷や汗を垂らしている。
 〈大地の袋〉を一発でも身体に喰らえば一瞬して潰される。接近戦は危険だった。
 アレンは腕を薙いで風の刃を繰り出した。
「喰らえ!」
「それは御前だ」
 一瞬にしてアダムとアレンの場所が入れ替わった。
「うわあっ!」
 風の刃を受けたアレンの服と胸が切られた。
 噴き出す鮮血。
 切られた服の隙間から覗くなだらかな乳房が血で濡らされた。
 アダムは今のアレンの姿を見て、息を漏らした。
「嗚呼、御前が少女だったことを忘れていた」
「女で悪いかよ!」
「性別的には女性だが、御前は永遠の少女だ。歳も取らず、何千という月日を生きてきた。実は御前の足跡について調べたのだ。近年以前となると、御前らしき人物が記録されていたのは、128年前の事件だった。地上最後の智慧を持つドラゴンと云われていたドゥルブルザッハードの聖都襲撃事件だ」
「覚えてねぇよ」
「そうか、では何年前のことなら覚えているのだ?」
「知るか」
「私は創られた瞬間から覚えている。膨大な記録を背負っているのは辛い。人格に膨大な記憶は邪魔なのだ。しかし、私はそのように創られた」
 アダムはゆっくりと目をつぶった。
「――が、それでも私は生きる意味を捜し続ける」
 前半部分は声が小さすぎて聞き取れなかった。アダムはいったいなんと呟いたのか?
 そんな細かいことなどアレンには関係なかった。
 ――歯車が鳴りはじめた。
 肉弾戦にアレンは賭けたのだ。
 自らの機動力に風の力を上乗せする。
 猛スピードで殴りかかってくるアレンを前に、アダムは急に立ち眩みを起こしたように足下をふらつかせた。
「うっ……」
 人間のように呻き、思わず膝から崩れそうになった。
 そこにアレンの拳が叩き込まれた。
「ウォオオオオオオオオオオオッ!」
 アダムの身体が吹き飛ぶ前に、目にも留まらぬ拳の連打が繰り出される。
 ――歯車が悲鳴をあげている。
「糞ったれッ!」
 最後にアレンはアダムの顎を下から抉り殴った。
 10メートル以上の上空まで吹っ飛ばされたアダム。その手にはしっかりと〈大地の袋〉が握られている。
「わたしになにが起こっている?」
 アレンに殴られたことなど、なかったようにアダムは呟いた。
 そのまま無抵抗のままアダムは地に落ちた。
 止めを刺そうとしてきたアレンを視線だけでアダムは見た。
「気をつけろ、わたしが今持っているのは〈大地の袋〉という魔導具だ。重量はこの星ほどある。わたしはこれを重力を操って支えることができるが、これが大地に置かれればどうなるかわかるか?」
 アレンは拳を上げて止めていた。
「どうなるんだよ?」
「重さとは重力だ。星と星とがぶつかると考えればいい」
「落とすなよ絶対」
「はじめからそのつもりだ」
「汚ねぇぞ、人質取ってるもんじゃねえか!」
「しばし待て」
「はぁ?」
 攻撃できないアレンを目の前に、アダムはゆっくりと立ち上がった。
 地中から聞こえてくる響き。なにかが来る。
 瞬時にアレンは遥か後方に飛び退いた。
 次の瞬間、地中から巨大な蛇のような頭が飛び出してきたのだ。
 それはまるで鎧を纏ったような海蛇だった。海龍と言ったほうがいいかもしれない。想像を絶する大きさは、クーロンを上空から見なければわからなかった。
 クーロンの市壁の外周をぐるりと一周する海龍。尻尾のところから地中に潜り、そこからクーロンのほぼ中心で頭を出したのだ。
「鬼械竜〈レヴィアタン〉だ」
 〈レヴィアタン〉の鼻先に乗っているアダムが言った。
「これは転送装置魔法陣でもある。予定時刻にはまだ早いが、人間の答えはもう聞くことができた。火星の同志を呼ぶことにしよう」
 アダムは手に持っていた〈大地の袋〉を〈レヴィアタン〉の口の中に放り込んだ。
「〈生命の実〉には遠く及ばないが、10分程度は火星のゲートとリンクすることができるだろう。さて、どれほどの鬼械兵がこの青き星にやって来るか?」
 一瞬にして辺りが蒼白い光に包まれ、目をつぶらずにはいられなかった。
 鬼械兵にやられ、次々と人間が倒れていく。これ以上、戦場に鬼械兵を増やすわけにはいかなかった。〈レヴィアタン〉を止めなくては――しかし、なにができる?
「糞ッ!」
 アレンは地面を蹴って高くジャンプした。さらに風の力を借りて上昇する。
「俺にできることは……こいつをぶん殴ることだ!」
 拳をアダムに叩きつける。
 強烈な拳をアダムは片手で受け止めた。
 アレンの背後で声がした。
「退け!」
 〈黒の剣〉を振り下ろすルオだった。
 瞬時にアダムとルオの場所が入れ替わった。
 冷や汗を流したアレン。
「俺のこと殺す気かよ?」
「それはまたの機会だ」
 〈黒の剣〉の刃はアレンの鼻先で止まっていた。
 アダムに空間転送は厄介だ。下手をすれば同士打をさせられる。
 地面に着地したアレンとルオがアダムと対峙する。
「俺のケンカに手ぇ出すなよ」
「五月蝿い、朕の獲物だ」
「ふむ、〈黒の剣〉は厄介だ」
 と、最後にアダム。
 それを聞いてアレンが怒り出す。
「俺は戦力外かよ!」
「そういうことだ!」
 叫びながらルオがアダムに斬りかかった。
「まずは千の兵」