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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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 ジェスリーの話ではメカトピアは第一から第三までの三都市のみだったはず。ただし、ジェスリーが伏せていたため、セレンはその話を知らない。ここではじめて機械人の暮らす街の存在を知ったのだ。
 マルコシアスが背を向けた。
「どうぞ、私の背中にお乗りください。記念碑の前まで行きましょう」
「本当に乗っていいんですか?」
「お構いなく」
「じゃあ、失礼します」
 恐る恐るセレンはマルコシアスに跨った。すると、マルコシアスに黒い翼が生えたのだ。それはまるで鴉の羽根だ。
「きゃっ!」
「毛に捕まってくれて構いません」
 そう言ってマルコシアスは翼を羽ばたかせ空を飛んだのだ。
 空から見る街並みはジェスリーのいたメカトピアと似ていた。その街の中心に開けた自然豊かな公園があり、さらにその中心の芝生地帯に女の銅像が建っていた。
 それはレヴァナの姿だった。
「あれってレヴァナさんですよね?」
「ええ、セレン様の母上様です」
「…………」
 驚きのあまりセレンは言葉を失った。放心だった。
 マルコシアスが銅像の前に降り立った。
 無言のままセレンは銅像に近づき、台座に乗るレヴェナの姿を見上げた。
 ホログラム映像で見た。
 そして、アダムの顔として見てきた。
 しかしここで見るレヴェナは今までとは違う感情をセレンに抱かせた。
「急にそんなこと言われても……だってこのひとって、ずっと昔に生きていたひとなんですよね? わたしまだ16歳ですよ……その年齢も本当はたしかなものじゃないんですけど。このひとがわたしのお母様だなんて、信じられるわけがないじゃないですか」
「私には高度な生体認証システムがついています。あなた様は98パーセントの確率でセレン様です」
「だってわたしの名前はセレンですから、セレンなのは当たり前です。この名前はわたしが拾われたときに、唯一持っていた十字架に古い時代の文字で刻まれていたそうです。でも……そんな……もしその話が本当だったとして、なぜわたしは捨てられ、この時代に生きているんですか?」
「セレン様は捨てられたのではありません。不幸な出来事が重なってしまったのです」
「詳しく教えてください!」
 身を乗り出してセレンは声を荒げた。
 両親の顔も名前も知らずにセレンは育った。赤子だったセレンを拾って育ててくれたのは、若い神父とシスター・ラファディナだった。二人はもうこの世にいない。それからセレンはずっと独りだった。
「まずは私のことから簡単に説明いたしましょう。私はレヴェナ様につくられたペットアンドロイド。レヴェナ様に仕え、セレン様がお生まれになったときのこともよく知っています」
「あのっ、わたしの父は?」
「お父上に関しては、レヴァナ様はなにもおっしゃいませんでした。未婚の母だったのです」
「そうですか……」
 セレンの声は沈んだが、すぐに笑顔でマルコシアスを見つめた。
「あ、話を続けてください」
 その笑顔を見たマルコシアスは、銅像を見上げて話しはじめる。
「セレン様は生まれて間もなく難病にかかりました。当時の医療技術では、ナノマシン細胞やサイボーグ化でしか助からない病気でした。しかし、レヴェナ様はその手術をすることに反対でした。当時としては珍しく、レヴェナ様は自身をまったく機械化されてない方でしたし、まだ自分で判断ができない赤子のセレン様の身体を勝手に機械化することを嫌いました」
 ホログラムで見た映像、そしてここにある銅像、どちらのレヴェナも眼鏡をかけていた。眼鏡というものは、ファッションを覗いて珍しいものだった。
 今の話にマルコシアスは付け加える。
「勘違いなさらないでください。自身の身体をまったく機械化しないからと言って、我々アンドロイドのことを嫌っていたわけではありません。ただレヴェナ様は、己は己らしく生きたいというお考えの方でした。自分の生き方を他人に強要されたり、勝手に決められたりすることを嫌う方だったのです」
 難病だったと聞いて、セレンは疑問が浮かんだ。
「今のわたしは健康そのものですけど?」
「レヴァナ様はセレン様の病気を治すため、治療薬が開発されるまでコールドスリープさせたのです」
「コールドスリープってなんですか?」
「眠りについて、歳を取らないまま時間を過ごす方法です。しかし、大きな不幸が起きてしまいました。戦乱の最中、セレン様のコールドスリープ装置が紛失してしまったのです。それから何十世紀もの間、セレン様の行方はわからず終いでした。それから先にことは私にもわかりません」
「え?」
 小さく声を漏らしてしまった。とても驚くと言うより、唖然としたのだ。肝心な部分が話として欠落している。
 マルコシアスはセレンをまじまじと見つめた。
「私が見たところ、セレン様の健康は良好のようです」
「はい、自分でもそう思います」
「実はあの難病の治療薬は現在でも開発されてません。さらにその病気はもうこの世に存在していない」
「じゃあどうして治ったんですか? って聞いてもわからないですよね」
「断片的な推測でよろしければ」
「せひ!」
 と、セレンは身を乗り出した。
「実はコールドスリープについたのはセレン様だけではありませんでした。本当ならレヴェナ様が……」
 マルコシアスは言葉に詰まった。
「アダムに乗っ取られたからですか?」
「ご存じでしたか……ごく一部の者しか知らない事実です。妹のリリス様にも伏せられていましたから。セレン様が目覚めたとき、治療をして、その後を見守る者が必要でした。アンドロイドが適任なのですが、レヴェナ様はそれを自分の手でしたいと考えていたようでしたが、それもできなくなってしまわれた。そこである方が名乗りをあげました。レヴェナ様の知人の科学者でした。彼はセレン様に遅れて、共に眠りにつきました。そして先ほども話したように、戦乱の最中にコールドスリープ装置が紛失してしまいました」
「わかりました、その科学者さんがわたしのこと治してくれたってことですよね?」
「そうです。セレン様の病気の事情を知っている彼が、治療方法を探して治したと考えるのが自然かと。そうなると、ご一緒に目覚めたはずなのに、彼はどうしてしまったのかという疑問が残りますが」
 コールドスリープ装置紛失から、セレンが教会で拾われるまでの間、その空白になにがあったのか?
「やっぱり本当にわたしって、レヴェナさんの娘のセレンなんですか?」
「私の認証システムではほぼそうだと思います。それに十字架の話をなさってましたよね? もともとそれはレヴァナ様の物です。見せてくださいませんか?」
 セレンは自分の首もとを触った。
「あ……ない。うそ……どこかに落とすなんて……」
「そうですか、それは残念なことです」
「……でもがんばって見つけます」
 気持ちを切り替えてセレンは話を続ける。
「もしここで十字架を見せて、それがレヴァナさんの物ですって言われても、やっぱり実感が湧かないと思うんです。実感はないけど、本当にお母さんの存在がわかって、ちょっぴり嬉しいです」
 セレンは目元を指で拭った。
「つかぬことをお伺いするのですが、もしやあの小型飛行機におられたのはセレン様でしたか?」
 と、マルコシアスは尋ねた。