魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-
第4章 そして未来へ(2)
砂の海原にセレンを乗せた飛行機は墜落していた。
攻撃を受けたのだ。
地上からの何らかの攻撃を受け、砂漠のど真ん中に墜落した。その衝撃でセレンは今の今まで気を失っていたのだ。
操縦席に響く声でセレンは目を覚ました。
《……私の名はアダム。人間ではなく機械である》
それは全世界に向けられた演説だった。
《そして、この青き星の始皇帝となる者だ》
世迷い言にしか聞こえない言葉だが、それは現実の物になろうとしていた。
《機械の兵士たちが、世界各地で人間たちを制圧していることは、すでに多くの者の耳に入っていることだろう。それが我が軍――鬼械兵団である。手始めにシュラ帝国領のクーロンを落とし、その後、二大強国である神聖クリフト皇国の総本山クリフト市内と宮殿はすでに我が手中にあり、ロマンジア連邦の首都クアモスも制圧済みである》
かつては三大強国であり、そこにシュラ帝國が名を連ねていた。
《人間がすべての武器を捨てて我々に降伏しない限り、この戦争は続く。私の目的は人間の自由を奪うものではない。人間は武器を捨て、我々の存在――自立した機械を人類として受け入れる以外は、今まで通りの生活をすればいい。私がこの星を統治すれば、ロストテクノロジーのすべてが現代の技術として蘇り普及し、人間にとっても豊かな生活が実現するだろう》
目的に嘘はない。失われた時代も復古するだろう。だが、人間がアダムのやり方がを受け入れ、機械人と人間が良好な関係を築くことができるのか、それが問題なのだ。
《我々の存在を受け入れがたいというのなら、機械人になってみるがいい。特殊なウイルスによって、人間の肉体を機械に置き換える技術がある。すでにクーロン周辺で実験済みであり、人間が機械人化した事実は、一部の人間の耳に入っていることだろう。この技術は身体のみを変化させるものであり、人格を支配したり奪うものではない。にも関わらず、人間たちは機械人化した人間を虐殺している。実に愚かだが、元の身体でも殺し合いをするような種なので仕方あるまい》
操縦席に流れる放送を聞きながらセレンは目を伏せた。
「人間同士で殺し合いをしていることは認めます。けど、機械人が人間を殺すのとなにが違うんですか。このひとのやろうとしてることは……矛盾してる」
機械はよく0か1かと言われる。イエスであるか、ノーであるか、そこ矛盾はなく、プログラムにミスがあれば、システムエラーが起こる。
《今から1時間後、このウイルスの散布を本格的に開始する。その2時間後、100万以上の鬼械兵が新たにこの星に投入される。そして、これから7日間、24時毎に衛星から地上に向けて攻撃をする。これはかつて〈メギドの炎〉と呼ばれた兵器だ。天から炎が降り注ぎ、地上が地獄の業火で焼き尽くされ、世界が砂漠化すると言えば、人間たちにも伝わるだろう》
どこまでが脅しだろうか?
本当に地上を焼き尽くするつもりだろうか?
人間だけでなく、青き星まで滅ぼすつもりだろうか?
ふと、セレンの脳裏に浮かんだ光景。月で見たエデンの園、そして〈ベヒモス〉で見た似たようなホログラム。
《地獄と天国、選ぶのは御前たちだ。武器を捨て、降伏せよ。さすれば理想郷の実現を約束しよう!》
そして、通信は途絶えた。
自分になにができるのか、セレンは考えすぐに行動した。
「とにかく〈生命の実〉を……そうだリリスさんに届ければ、わたしにできることをしなきゃ!」
目の前に立ちはだかる問題は多い。
操縦席から見える景色は砂と空。準備もなく外に飛び出すなど無謀すぎる行為だ。だからと言って、セレンに飛行機は操縦できない。
「もっと別の場所に落ちたら……ッ!」
セレンはハッとした。この飛行機は落とされたのだ、地上からの攻撃によって。
いったい何者による攻撃だったのか、その脅威はまだ近くにあるのだろうか?
破れかぶれでセレンは操縦席のタッチパネルを操作した。
すると、操縦席の屋根が開いた。
肌を刺す陽と熱。
「閉めないと焼け死ぬ!」
想像以上の過酷な環境だった。汗がどっと噴き出してくる。
セレンは知る由もないが、この場所は〈死の海原〉と呼ばれる広大な砂漠地帯だった。なにもない高熱の砂漠地帯と云われ、その場所に立ち入り者などいないような場所。世界から忘れられた地と云ってもいい場所だった。
突然、セレンのポケットが燦然と輝きはじめた。
「えっ、なに!?」
驚くのはまだ早い。
地中が盛り上がり、砂が滝のように流れる光景。なにもなかった砂漠に巨大な箱が現れる。それには巨大な扉がついていた。
重々しく見える二枚扉は、滑らかに左右に開いた。
セレンは操縦席から飛び出した。砂に足を取られバランスを崩し、地面に手をつけると、じゅっと火傷をしてしまった。
「熱いっ」
ここに居ても仕方がない。だからと言って、扉の先になにがあるかわからない。それでもセレンは導かれるように扉の中に入った。
それは箱で行き止まりだった。明かりがついており、壁にボタンがついている。2つ並んだボタンの下に配置されているものが光っている。
「きゃっ」
セレンは身構えた。
箱が下へ移動しているのだ。そう、これは巨大なエレベーターだったのだ。
高速で移動するエレベーターは地下へ地下へと進んでいる。
身体がふっと浮き上がるような感覚して、エレベーターは停止した。
開かれる扉。
セレンを待ち受けていたものは、大勢のビームライフルを構えた機械人だった。
一瞬にして頭を過ぎったのは、鬼械兵団。飛行機を攻撃された理由も頷ける。
しかし、今まで見た鬼械兵とはタイプが違う。この機械人たちには、顔があり表情があったのだ。
機械人が道を空ける。向う側からやってくる影。それは四つ足であった。黒き毛を持つ狼だ。
セレンの前まで来た狼は、なんと話しかけてきたのだ。
「私の名前はマルコシアス。もしや、あなた様はセレン様ではありませんか?」
「えっ……あ……は、はい……」
獣が人間の言葉をしゃべった。清廉そうな青年の声音だった。狼の肉体の構造上ではありえないことだ。
驚くセレンは言葉に詰まる中、狼はそれが自然体というように、また口を開く。
「セレン様が私のことを覚えてないくとも仕方のないこと。まだセレン様は生まれたばかりの赤子だったのですから」
「赤ちゃんだったわたしを知ってるんですか? そんなどうして……それはいつのことです? だってわたしは捨て子で、教会の神父さまに拾われたんですよ?」
疑問符が次から次へと頭の周りを回る。セレンは瞳を丸くして、驚きと混乱に陥った。
「教会の神父さまに……さぞや、大変な苦労をなされたことかと……」
マルコシアスは涙ぐんでいるようだった。
この状況でセレンは混乱するばかりだ。
「あなたはいったいどのような方で、わたしのなにを知っていて、ここはどのような場所で、1から説明していただけないと、なにもわかりません」
「この場所は第零メカトピア。世界からも歴史からも完全に隔離された機械のみが暮らす街です」
作品名:魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)