小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

INDEX|19ページ/51ページ|

次のページ前のページ
 

第2章 鬼械兵団(4)


 エアカーの助手席からワーズワースは空を指差した。その指先がだんだんと地面に向けられる。
「落ちましたよ、あの飛空挺」
 それがトッシュたちの乗った〈インドラ〉とは知る由[よし]もない。
 一路エアカーは飛空挺の墜落現場に向かった。
 弾道のように抉られた大地。地面との衝突後、船体を引きずりながら〈インドラ〉が止まったようすが見て取れる。砂煙はすでに治まって、辺りは異様なまでに静かだった。
 砂を被っている船体だが、煙などは出ていない。防御フィールドが展開され、墜落と同時に大爆発を起こすようなことは免れたようだ。
 エアカーを降りた3人は飛空挺を調べた。
 中でも熱心なのはワーズワーズだ。
「いったいどこの飛空挺ですかねぇ。いきなり中からワッと敵国の兵が出てきたりして」
 ワーズワースは合金の船体を調べるように叩いて歩いた。
 船体は横を向いて倒れていた。
 アレンは人間離れした跳躍で船体の上に乗った。
「こっちに入り口があるぞ!」
 本来はその入り口からタラップを下ろして出入りをする。今は天を向いてしまっている。
 ワースワースは首を曲げて上向いた。
「僕はそんなところまで登れないんですけど?」
 と、言ってから横のジェスリーに顔を向けて続ける。
「なにかいい方法ありません?」
「エアカーで浮上しましょう」
 二人はエアカーで船体の上に向かうことにした。
 アレンは二人を待たずに、ドアをこじ開けて船内に入った。
 細い通路は明かりが点いたままだ。墜落しても動力が生きているためである。
 船首に向かって歩いた。今は途中の閉まっているドアの部屋は無視して進んだ。
 気配がない。船内は静かだ。
 やがてアレンは広い操縦室まで来た。
 船首のほうの壁に折り重なって倒れている人影。その中のひとりにトッシュを見つけた。
「オッサンじゃねえか。どういう状況だよ?」
 とりあえず、人山の中からトッシュを引きずり出し、床に仰向けに寝かせて頬を叩いた。
「起きろよオッサン、飯だぞ」
 もう一度アレンが叩こうとしたとき、トッシュが起きて目の前の手首を掴んで止めた。
「飯なんかで起きるか!」
「起きたじゃねえか」
「おまえが叩いたからだ」
 足下をふらつかせながらトッシュは立ち上がり、兵士やヴァリバルトを見つけて起こそうとした。
「おまえも手を貸せ」
「はいはい」
 めんどくそうに返事をしてアレンも手伝った。
 一人ずつ床に寝かせて息を確かめる。
 アレンは首を横に振った。
「こいつ死んでる」
 兵士のひとりだった。
 トッシュはヴィリバルト肩を揺さぶった。
「起きろ?キング?!」
「……うう……うっ……」
 朦朧とした眼をしてヴィリバルトが意識を取り戻した。
 ちょうどそこへワーズワースたちもやって来た。
「おおっ、英雄トッシュさんじゃありませんか!」
「詩人の兄ちゃんまでいっしょか。後ろのはだれだ?」
「ジェスリーと申します」
 丁寧に頭を下げてジェスリーは挨拶をした。
 残っていた2名の兵士も意識を取り戻し、死亡したのは1名だけだった。衝突のときに頭を強打して頸椎を損傷したしまったようだ。
 ワーズワースはいつの間にか操縦席についていた。
「動力は生きていますね。エネルギー漏れもないようです。多少の損傷はありますが、まだ飛べますよコレ」
 操縦席の小型モニターを見ながら言った。
 少しトッシュは驚いたようだ。
「おまえ操縦できるのか?」
「飛空挺なんて生まれてこの方操縦したことありませんよ。ちょっとした機器くらいならいじれますけど、旅が長いので」
 落胆の空気が漂った。船体が生きていても、操縦できなくては意味がない。
「わたくしが操縦しましょうか?」
 と、言った者に全員の視線が向けられた。ジェスリーだった。
 さっそくジェスリーが操縦席について、エンジンを再始動させた。
 大きく傾く船内。横になっていた船体がゆっくりと立て直され、滑り台のようになった床をアレンたちが滑り落ちる。急激に傾いたのではないので、だれにも怪我はなかった。
 ヴィリバルトは息を落とした。
「どういう知り合いなんだ?」
 と、トッシュに顔を向ける。
「話せば長くなるんだが、とりあえず戦場に戻りながら話そう」
 〈インドラ〉は再び戦場へ向かって飛行をはじめた。
 お互いなにがあったのか、アレンやトッシュが掻い摘んで話していると、すぐに戦場まで着いた。
 しかし、そこはすでに戦場ではなくなっていた。
 泥と水に覆われた世界に鬱蒼と茂る森。マングローブが形成され、兵士たちは堆肥と化していた。そこに鬼械兵の姿は跡形もない。
「まだ生きている兵がいるかもしれん!」
 叫んだのはヴィリバルトだ。
 操縦桿を握っているジェスリーが高度を下げる。
「地上に近づきます」
 〈インドラ〉がマングローブすれすれを飛行する。起こした風が木々を揺らし、水面に波紋を描く。
 操縦席の小型モニターを確認しているジェスリー。
「生体反応はありません」
「着陸しろ!」
 怒鳴り散らすようにヴィリバルトが操縦席に詰め寄った。
「繰り返しますが、生体反応はありません」
「降りて自分で探す! 早く着陸させろ」
「この森の中には着陸できません。それにもう一度繰り返しますが、生体反応はありません。残念ながらこの艦に備わったレーザーは超高性能です。人間程度の動物であれば、その生体反応をキャッチすることができます……ん?」
 急にモニター見ていたジェスリーが鼻から声を漏らした。
 すぐにヴィリバルトもモニターを見る。
「生存者か!?」
「いえ、動物ではありません。動力源が生きている機械です」
 巨大モニターに地上の拡大映像が映し出された。
 その場所には草木が一本も生えていなかった。あるのは円を描いている無数の機械の残骸。何百という鬼械兵が壊され、その中心にぽかんと空いた空間ができていたのだ。
 鬼械兵が何者かにやられた。
 トッシュは墜落前の出来事を思い出した。
「そうだ、シュラ帝國の餓鬼皇帝がいきなり現れたんだ、姿はだいぶ変わってたが、あの顔はそうだ絶対に。それで巨大な機械の兵器を一撃で倒して……あとのことは知らん」
 アレンがニヤリとした。
「あいつも生きてたのか、しぶてぇ野郎だなぁ」
 モニターを見つめながらワーズワースは神妙な顔をしていた。
「ならこれもルオの仕業ですかね……というより、〈黒の剣〉の成した業でしょうか」
「〈黒の剣〉が現存しているのですか!」
 驚いたように声をあげたのはジェスリーだった。
 アレンが尋ねる。
「〈黒の剣〉がどうしたんだよ?」
「いえ、とくにはなにもありません。危険なロストテクノロジー兵器だと聞いたことがあったもので……」
 少し歯切れが悪かった。
 その後、何回もマングローブ上空を旋回して生存者を捜したが、ただのひとりも確認できなかった。
 肩を落としてヴィリバルトがあきらめたところで、〈インドラ〉はこの場を離れ革命軍の駐屯地に向かった。
 しかし、そこで一行を待ち受けていたものは、絶望の焼け跡だった。
 まだ小さな火の手が燃え揺れ、煙があちこちから昇っている。
 駐屯地が全焼していた。