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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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 ただの火事ではない。灰を化している跡形もない駐屯地は、高熱で一気に焼き払われたようだった。もはや溶かされたというほうが正しいかもしれない。
「生体反応はありません」
 この場所でジェスリーの言葉は同じだった。
 トッシュがツバを飛ばす。
「冗談じゃないぞ、ここにはシスターの嬢ちゃんもいたんだ!」
 すぐさまトッシュの胸ぐらにアレンが掴みかかる。
「おいっ、それってセレンのことか!?」
「そうだ!」
「どうして残して行ったんだよ」
「戦場のほうが危険だからに決まってるだろう! それにシスターに戦場は血なまぐさい場所だ。本人が行くのを嫌がったんだ!」
 お互いを睨み、アレンはトッシュの躰を突き放した。
 すぐにアレンは操縦席に駆け寄った。
「下ろせ、今すぐだ!」
「それは懸命な判断とは言えません」
「いいから早く下ろせよ!」
「10体の鬼械兵と1人の人間らしき反応を地上に確認しています」
 巨大モニターに映し出された女の姿。
 女はまるでこちらを見るように――いや、見ているのだろう。天に顔を向けて艶笑を浮かべていた。
 機械の片眼を輝かせる火鬼が鬼械兵団を引き連れ地上にいたのだ。
 アレンの大きく口を開ける。
「あの糞アマッ、ぶん殴ってやる!」
 トッシュも銃を構えていた。
「俺様もやるぜ」
 二人を見てジェスリーは人間のように溜め息を吐いた。
「仕方がありません。お二人がどうしても戦うというのなら、魔導砲の充填ができています。空中から敵を一掃しましょう」
「いいや、俺は直接あいつをぶん殴ってやりたいんだよ!」
「それは危険行為です」
「知るかっ、下ろしてくれないなら自分で降りてやる!」
 アレンは操縦室を駆け出していってしまった。
 もう一人も頭に昇っていたが、アレンほど無鉄砲ではなかった。
「よし、魔導砲をぶち込ましてやれ!」
 トッシュはジェスリーにゴーサインを出した。
 しかし、それは中断せざるをえなかった。
 小型モニターに船尾付近の船体下につけられた、貨物用のハッチが開いたと表示が出たのだ。
「機体反応です。おそらくエアカーでしょう」
 積み荷としてジェスリーのエアカーを乗せていたのだ。
 すぐに状況は理解できた。アレンが勝手にハッチを開けて、さらに勝手にエアカーで地上に向かったのだ。
「アレンさんも巻き込むことになりますが、魔導砲はどうしますか?」
 ジェスリーに尋ねられて、トッシュは頭を掻きながら溜め息を落とした。
「糞餓鬼が、中止だ中止に決まってるだろ。どうなっても知らんぞ」
 もう天空からアレンを見守るしかなかった。
 エアカーを停車させ、アレンが大地に足を着け降り立った。
 鬼械兵団に向かって歩いて行く。
「あんたがやったのか?」
「そうでありんす」
 どこかで叫ぶ歯車の音。
 火鬼に殴りかかったアレン。
 しかし、先に攻撃を仕掛けていたのは火鬼だった。
 扇を構え舞い踊る火鬼が業火の渦を繰り出した。呑まれればひとたまりもない。
 アレンは上空に高くジャンプした。
 鬼械兵が同じように高く飛び上がり、一斉に団子となってアレンに飛びかかった。
 空中で蟻の群れに襲われたようにアレンの姿がまったく見えない。
 火鬼は構わず炎を放とうとした。鬼械兵ごと燃やし溶かしてしまう気だ。
 空中の鬼械兵が四散した。
 残骸が火鬼の足下にまで落ちてきて攻撃を中止せざるをえない。
「ちっ……」
 舌打ちした火鬼の瞳が見る見るうちに剥かれていく。
「な、なんだ!?」
 口調も思わず素に戻る。
 このときアレンはなぜか地面に立っていた。
「あれ……なんで俺ここにいんの?」
 アレンすらそれを理解していなかった。
 空から降ってくる物体。
 岩の塊だ。ただの岩ではない。そこには顔がついていた。不気味なのに、ゾッとするほど妖艶なだった。
 火鬼は理解した。
「キェエエエエーッ! リリスーーーッ!!」
 奇声を発して火鬼が般若の形相に変わった。
 次の瞬間、為す術もなく岩の直撃を受けて地面に沈んだ。
 岩に鬼械兵が襲い掛かる。
 だが、なんとその岩から石が数珠つなぎになったような触手が伸びたのだ。
 石触手が鬼械兵の躰を串刺しにする。
 次々と破壊されていく鬼械兵と謎の岩を目の前にアレンは唖然とした。
「なんだよ……アレ?」
 岩が持ち上がれた。
 両手で岩を持ち上げて立ち上がった火鬼は血みどろだった。花魁衣装はぼろぼろに破け、片脚の肉がえぐれてしまっている。それだけではない、全身から電気を帯びた火花が散っている。
 人間とは思えない怪力で火鬼は岩を投げ捨てた。
「怨み晴らさでおくべきか……わちきに殺されに舞い戻ったようでありんすな、リリスッ!」
 業火を繰り出そうとした瞬間、アレンが頬を抉って殴り飛ばした。
 血反吐を飛ばしながら遥か後方へ飛ばされた火鬼。そのまま地面に叩きつけられ、何度も転がったかと思うと、まったく動かなくなった。
 アレンはもう火鬼のことよりも、目の前に現れた岩に興味を注がれ驚きを隠せない。
「姐ちゃん、なんだよこの格好?」
「こら触るでない。触ると脊髄反射的に此奴に攻撃されるぞ」
「はぁ?」
 それは岩だった。そこに妖女リリスの顔がある。埋もれているというのだろうか。そして、これがただの岩ではないのは、先ほどの鬼械兵を破壊した攻撃を見ればわかる。
「異次元の寄生生命体じゃ。この世でいう生命の定義からは外れておるじゃろうがな」
「ぜんぜん意味わかんねーよ」
「ところでここは何時じゃ?」
「は?」
「おぬしに話しても埒が明かんの。とにかく妾を別の場所に運んでくれんか?」
「自分で動けよ」
「見ればわかるじゃろう、妾は岩じゃ。ここを一歩も動けぬ。そうじゃな、丁寧に相手を刺激せぬように、ロープでも引っかけて運べば良いじゃろう」
 なにがなんだかわからなかったが、これがリリスだということはわかった。
 しかし、いったいなぜこんなことに?