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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン3-逆襲の紅き煌帝-

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第2章 鬼械兵団(2)


 大佐専用のテントに招かれた1人と2人。セレンとライザは勝手に付いてきただけだ。
 トッシュは煙草を吸いながら、酒をもらって上機嫌だ。
「いつの間に革命軍の大佐になんてなったんだよ?」
「おまえこそ英雄なんて言われてるけど、あの話どこまで本当なんだ?」
 滅ぼされた帝國の関係者がここにはいた。
 大佐はちらりとライザに目を遣る。
「あの女とはどういう関係なんだ?」
「無関係だ。なんでここにいるのか、俺様が聞きたい。そっちの可愛い嬢ちゃんはシスター・セレンだ」
 トッシュに名前を呼ばれてセレンは慌てて頭を下げた。
「はじめましてセレンです。クーロンの教会でシスターをしています」
 大佐はグラスを掲げて挨拶をした。
「俺はヴィリバルトだ」
 3人は同じ輪に入ったが、ライザとの間には電気が奔っていそうな溝がある。
 革命軍と言えば、もともとはシュラ帝國と戦っていた集まりだ。帝國のナンバー2とまで言われていたライザがこの場にいるのだ。心が穏やかなはずがない。
「さっきから敵意を向けるのやめてくれないかしら?」
 冷たく鋭くライザは吐いた。
 ヴィリバルトは敵意こそ削がなかったが、今すぐにどうこうするような素振りは見せなかった。
「?ライオンヘア?がなぜこの駐屯地にいる?」
「それは偶然よ。アタクシはトッシュを探していたの。正確に言えば、トッシュを祭り上げて革命軍に手を貸そうとしてあげようとしていたのよ」
「おまえが手を貸すだと、信じられん」
「条件はアタクシの身の安全を保証すること。帝國が滅んでからいろんな敵に狙われて困っているのよね」
「我々が今戦っているのは帝國の残党だぞ。おまえなどに手を借りるなどありえん」
 ライザが鼻で笑った。
「なにがおかしい?」
 不機嫌そうにヴィリバルトは吐いた。
 ライザは前髪を掻き分けて、笑みを浮かべて口を開く。
「敵を完全に見誤っているわ。そんな雑魚なんて放置なさい」
「現在交戦中の相手を放置などできるか愚か者!」
 ついにヴィリバルトは腰を浮かせた。
 ライザは溜め息をついた。
「クーロンがどうなったか情報がまだ届いてないのかしら?」
 トッシュが口を挟む。
「滅びたそうだな。攻め込んできていた新興国軍もやられたらしいな」
「なんだと!? いったいどこの軍だ!」
 ヴィリバルトは驚きを隠せなかった。情報はまだ入ってきていなかったのだ。
「俺様は知らん」
 トッシュはセレンとライザに顔を向けた。
 重く暗い表情をしてセレンは目を伏せてしまった。残されたライザに視線が集中する。
「帝國を実質的に滅ぼしたのもそいつらよ。信じるか信じないかはアナタ方の自由だけれど、人間の形をした機械の軍隊が存在しているのよ。真の敵は人間ではなく、鬼械兵団なのよ!」
 この時代に人間の形をした機械など存在していなかった。少なくとも人々が想像もできないものだった。
 ロストテクノロジーの恩恵に与れているのはごく一部だ。そして、与っていても、それがどのようなモノなのかすら知らない者が多い。
 トッシュはこれまで多くのロストテクノロジーを見てきている。
「人型エネルギープラントのようなモノか?」
 首を横に振るライザ。
「いいえ、あれとはまったくの別物よ。出力は比べものにならないほど弱く、アスラ城とクーロンで見たものは思考あっても感情があるかは疑問だわ。魂のない攻守ともに優れた人型をした兵器とでもいうのかしら。それでも人間よりは遥かに超える機動力を持っているわ。鬼械兵1体でシュラ帝國の兵士100人分の戦闘力はあるんじゃないかしら。そう、アタクシが鬼械兵団の存在を知ったのは、帝國が水に沈んだあのときよ」
 セレンとトッシュはアスラ城からヘリコプターで脱出した。けれど、それ以外の者たちの生存確認はできていなかった。ライザも死亡していたことになっていたくらいだ。
 アスラ城の地下遺跡で、隠形鬼はトッシュをわざと逃がした。つまりトッシュとセレンは道筋に沿って逃がされたのだ。それ以外の者たちを隠形鬼は逃がさなかったことになる。
 テーブルに載っていた酒のボトルをライザは奪い、グラスに注がずそのまま飲んだ。
「もらうわよ、ウチの兵士たちの弔いにね」
 唇から溢れた酒がのどに伝わる。
 手の甲で口を拭ってライザが話しはじめた。
「遅効性の毒だったわ、食料や水に入っていたみたいね、それで城にいた兵士はほぼ全滅。アタクシを含む飛空挺の乗組員は、毒は免れたけれど、城に残っていた兵士といっしょに鬼械兵の襲撃を受けて次々と殺されたわ。水が溢れ出してきて逃げようと思ったときには、乗り物はすべて破壊されたあとだったわ。その前に逃げようとした腰抜けどもは、レーダーから消えて消息を絶ったわ。つまり一撃で乗り物事やられたのでしょうね。そして、逃げ場を求めて身を潜めていたアタクシの前に隠形鬼が現れた」
 ライザは〈ピナカ〉を抜いた。
「こいつが敵だって直感したからいきなりぶっ放してやったわ。片手で防がれちゃったけどね。で、奴は言うわけよ。『此ノ時代ニハ惜シイ人間ダ』って。それで今に至るってわけよ」
「はぁ?」
 と、不満そうに呟いたのはトッシュだ。話の肝心なところが抜けている。
 セレンは気弱に尋ねる。
「あのぉ、どうやって逃げ延びたんでしょうか?」
「それは企業秘密よ。予期せぬ事態が起きたとでもいうのでしょうね」
 妖しくライザは微笑んだ。いったいなにを隠しているのだろうか?
 ライザはバンと音を立ててボトルをテーブルに置き、場の空気を変えてから再び口を開く。
「とにかく、敵は鬼械兵団よ。奴らを倒すためにトッシュ、アナタにはできる限りひとを集めなさい――英雄というネームバリューを使ってね。そして、奴らと戦う術を探さなくてはいけないわ。強力なロストテクノロジー兵器を手に入れるか、なにかしらの弱点を見つけるか」
「俺様はそういうの向いてないからやりたくない」
「人類の存亡が掛かった戦いなのよ」
「おまえこそ、人類がうんぬんなんて動機で動く女じゃないだろう」
「ええ、そうよ。個人的なプライドの問題よ。でも動機なんてなんでもいいしょう、アナタたちにもメリットがあるのだから」
 二人の間にヴィリバルトが割って入る。
「話はだいたいわかった。だが、鬼械兵うんぬんという話はまだ信じられない。それが本当に人類の脅威になるかも含めてだ。そんな得体の知れない脅威よりも、今は我々が交戦中の大臣派のほうが問題だ。そして、革命軍は各地で他国の軍とも戦っている。我々にとっての第一の敵は人間なのだ」
 ライザは不機嫌そうにうなずいた。
「わかったわ、とりあえず目下の問題である大臣派を潰せばいいのでしょう。そうしたらアタクシの話を取り合ってもらえるかしら?」
「簡単に言ってくれるな。おまえになにができる?」
 ヴィリバルトは挑発するように言った。
 鼻でライザは笑う。
「大臣派なんてものは、遠征で各地に散らばっていた帝國軍の寄せ集めでしかないのよ。帝國の主戦力はアスラ城といっしょに破壊され沈められたわ。ねえ、帝國がなぜ世界最強の軍事国家と呼ばれていたかわかるかしら?」
 周りは沈黙している。数秒の間を置いて、注がれた視線にライザは答える。