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蟷螂の斧

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 街灯に照らされた夜道をゆっくりと歩いていく。
 自分の人生でも振り返ってみようかと思ったけど、あまり頭が回らない。

『このままでは生きていけなくなるわ』

 妊娠が確認された時、彼女は開口一番にそう告げて、選択肢が二つあることを示した。
 一つは堕ろすということ。もう二年以上も夫が無職なのだから無理もない。
 もう一つの選択は“離婚”だと思った。彼女は結婚時に退職したけど俺より仕事面でも有能だったから、無能な夫を排除して母子家庭で子供を育てた方が良いだろう。

 しかし、彼女の考えは俺の予想とは少し違っていた。
 これまではパートなどもしていたが妊娠してからは仕事をしていないし、出産後も本格的な職に就くのには時間がかかるだろう。そのための養育費を俺が出してあげることも不可能だ。

『もし、子供を生むのならば、必要な養育費を作らなければならない』

 妻はその方法を説明し、選択権を俺に与えた。

 リストラ前はそれなりの一流企業に勤めていたので、今でも俺はかなりの額の生命保険に入っており、自殺だと保険金が支払われない免責期間も過ぎていたのだ。



 一晩考えて、妻に決断を伝えた。

作品名:蟷螂の斧 作家名:大橋零人